第10話 子雲のダンス

 ミカちゃんはあわてて、他の引き出しも開けていく。

 でも、懐中電灯カイチュウデントウは入っていない。


 そこへ、ショウタ君の声が聞こえた。


「お姉ちゃん、チビのカミナリが……」


 驚いたミカちゃんが、反射的に振り返る。


 子雲こぐものカミナリが薄くなっている。


「 あ、待って待って!」


 あせったミカちゃんは、ショウタ君のオモチャ箱に足をひっかけて、転んでしまった。


 床に、たくさんのおもちゃが転がっている。

 その中に、おもちゃじゃないものがひとつ。


「あ、懐中電灯カイチュウデントウがあった」


 ミカちゃんはあわてて懐中電灯カイチュウデントウを手に取り、スイッチを入れた。


 ミカちゃん、やったじゃない。

  あんたは偉い。


 ショウタ君もうれしそうに、


「あ、明かりがついたぁ」


 とよろこんでいる。

 

 ミカちゃんは慌てて、後ろを振りかえった。


 懐中電灯カイチュウデントウに気づいていない子雲こぐもは、まだ必死にカミナリ⚡を落とそうと頑張っている。


 でも、カミナリはほとんど出ていない。


 ミカちゃんが慌てて、


「チビ、もう大丈夫だいじょうぶだから……」


 て言うと、子雲こぐもは力つきて、フワフワとゆっくり下りはじめた。


「あッ……」


 子雲こぐもを受け止めようと、ミカちゃんが手を差し伸べる。

 でも、子雲こぐもの体は、ミカちゃんのてのはらを通り抜けてしまった。


 床に下りた子雲こぐもは、疲れ切って眠ってしまったみたい。


 寝息が聞こえてきそう。

 スヤスヤ、というより、ヒューピー、ヒューピー、て感じかな。


 ショウタ君か心配そうに、


「お姉ちゃん、チビ大丈夫だいじょうぶ?」


 といた。


 すると、ミカちゃんが、


「うん、ちょっと疲れただけよ」


 と笑顔で答えた。


 温かな明かりに見守られながら、子雲こぐもは安心して眠っている。

 気持ちよさそう。


 今まで気づかなかったけど、明かりって、お母さんの温かさにているのかも……。


 それから、ミカちゃんとショウタ君は、しばらくの間、子雲こぐもの寝顔を見ていた。


 チビ、よくがんばったもんね。 

 あんたもえらい。


 きっと、ミカちゃんとショウタ君も同じ気持ちなんだと思うわ。


 でも、そこはまだ5歳のショウタ君、タイクツできたみたい。


「お姉ちゃん、チビはいつまで寝てるのぉ?」


「さあね……」


 いくらお姉さんだからって、そこまではわからないわよね。


「面白くないよぉ」


 ショウタ君は口をとがらせている。


「あ、そうだ」


 なにかを思いついたミカちゃんは、おもちゃのピアノを取りだした。

 そして、知っている童謡を片手で弾き始めた。

 そう、ミカちゃんはピアノを習っているの。


『あら、あんた、起きてたの?』 


 目をました子雲こぐもは、ミカちゃんがくピアノの音を聞いていた。

 その内、じっとしていられないって感じで、宙に浮き、楽しそうに踊りだす子雲。


 え?


 子雲こぐものダンスはどうかって?


 ん~……。

 

 なんて言ったらいいのかなぁ……?


 可愛いけど、ちょっとおかしいの。

 ていうか、すごくおかしいの。

 笑っちゃうくらい。


 だって、どこが頭で、どこが体かよくわからないでしょ。


 一部が出っ張ったかと思うと、他の部分が引っ込んじゃったりして……。


 ただ、モゴモゴと動いてるって感じなの。


 子雲こぐもは得意そうに踊っているんだけど、ダンスの才能もないみたい。

 でも、子雲こぐもには内緒ないしょにしておいてね。

 だって、またねられたら大変だから。

 お願いよ。


 それから、しばらくの間、ショウタ君と子雲こぐも懐中電灯カイチュウデントウの温かな明かりに見守られながら、ミカちゃんがくピアノに合わせて、たのしそうにおどった。

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小説『晴れ ときどき クラウディ・ベイビー ~ 幼い姉弟と子供部屋にやってきた子雲の物語~』 @mayonakataiyou

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