第9話 停電オバケ👻

 事件が起こったのは、ミカちゃんとショウタ君がおやつを食べ終わってからのことだった。


 突然、窓越ごしに、すごい稲妻が走った。


 “ピカ”


 すぐ近くに、雷が落ちた。


 “ドドド…… ”


 ミカちゃんとショウタ君は、


「ヒィッ」


 と驚き、固まってしまった。


 プツンとライトが消え、子供部屋が真っ暗になったのは、その直後だった。


 停電になったみたい。


「お、お姉ちゃん……」


 と、思わず口にしたショウタ君は、おびえながらミカちゃんに抱きついた。


「だ、大丈夫よ。机の引き出しの中に、懐中電灯カイチュウデントウがあったはずだから……ショウタ、はなしてよ。取りに行けないじゃない。


「だってぇぇぇ……」


 そのときだった。


 表を走る車のヘッドライトが、窓ガラス越しに入り込んで、部屋の中を照らした。


 突然、ヒューンと、足元まで伸びてくる黒い影。


 ヒッ、と固まる全員。


 握りこぶし。

 冷や汗。

 震えるくちびると体。


 やっと、机上の電気スタンドの影と気づき、一息ひといきついたのもつかの間。


 あれは、なに?


「ヒッヒッヒッ……」


 て、不気味ぶきみな声……。


 息を飲んだミカちゃんとショウタ君もかたまっているみたい。


 一度気になりはじめると、もうとまらない。

 時計の音も、風の音も、全てがオバケの声に聞こえてしかたない。


 ミカちゃんは懐中電灯カイチュウデントウを取るために、あわてて机にむかって走ろうとした。

 でも、あせっていたので、忘れていたのね。

 ショウタ君が抱きついていることに。


 ミカちゃんはバランスをくずし、机のあしに、自分の足をぶつけてしまった。


「イタッ」


 ミカちゃんが思わず叫ぶと、ショウタ君が泣きそうな声でたずねた。


「お姉ちゃん、どうしたの? 」


「足ぶつけたの。あんたのせいよ」  


 ミカちゃんは足をさすりながら涙声になった。


 そりゃ、痛いわよ。

 思い出したわたしも、涙目になりそう。


「ごめんなさ~い」


 ショウタ君は、今にも泣きだしそう。

 今度は嘘泣きではないはず。


 そのうち、表の車もとだえてしまったのか、部屋の中がまた 真っ暗になってしまった。


「あ、これじゃ何も見えない。懐中電灯カイチュウデントウ取りにいけないよぉ」


 ミカちゃんも不安そう。


「どうしようどうしようどうしよう……」


 その言葉を繰り返すだけ。


 わたしには、


「もうだめもうだめもうだめ……」


 て、聞こえてしょうがない。


 そんなときは落ち着いて、深呼吸でもすれば、案外いいアイデアが浮かぶものなのにね。


 な~んてね。


 他人のことになるとよくわかるのに、わたしも何度焦って失敗したことか。


 その時だった。


 あ、あの明かりは……?


 ミカちゃんも気づいたみたい。

 後ろを振り向いた。


 そこではなんと、子雲こぐもが小さなカミナリ⚡を落としていた。


 “パチパチパチ” って。


 そのたびに、部屋の中がぼんやりと見えた。


「あ、お姉ちゃん、見えるよ」


 ショウタ君も嬉しそう。


「うん」


 ミカちゃんには、ショウタ君の言葉が運動会のピストルの音に聞こえたのかもしれない。


『よ~い、バン』

 てね。


 ミカちゃんは机まで走っていき、引き出しを開けた。


 ところが……。


「ウソ。どうして懐中電灯カイチュウデントウがないの?」


 その上……。


 後ろの明かりがどんどん薄くなっていく。


 どういうこと……?


 気づいたミカちゃんも振り返った。


 そこでは、子雲こぐもが必死でカミナリ⚡を落としていた。

 が、そのカミナリ⚡の光はとっても薄い。

 それでも、子雲こぐもは一生けんめい、がんばっている。


 ウーン、ウーンって。


「チビ、もう少しだから頑張って」


 ミカちゃんは、祈るようにつぶやいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る