第7話 変身の才能はゼロ

 ん?


 子雲こぐもが、何かをじっと見つめている。


『あんたが雨を降らせたせいで、ミカちゃんが怒っているのよ……全然聞いてない。一体、なにを見ているの?』


 あ~、机の上に立っているカワセさんの家族写真ね。


 その写真には、ミカちゃんとショウタ君、それにパパとママとおばあちゃんが写っている。

 みんな、ほほえんで、いい顔してる。

 見ているわたしまで、幸せにしてくれるって感じ。

 なんて、思っている場合じゃないわね。


 あ、子雲こぐもがその写真を見ながら、なにか思いついたみたい。


 わたしには、ニヤッと笑ったように見えた。

 なにか嫌な予感。


 あんたね、これ以上、ミカちゃんを怒らせたら知らないわよ。

 わかってんの?


 やっぱり、わかっていないみたい。

 

 子雲こぐもの体がモゴモゴと動き、形を変えはじめた。


 え、なに? 

 どうしたの?

 まさか、変身してるのぉ?


 雲って、自由に体の形が変えられて、うらやましいなぁ……て、今は、そんなこと、どうでもいいか。


 でも、何に変身したの?

 白くて太っていて……。

 あ、わかった。

 白ブタね。


 違うの? 

 じゃ、何なのよ?


 ショウタ君も、子雲こぐもが何に変身したのか、わからないみたい。


「あ~?」


 と、不思議そうに首をひねっている。

 子雲こぐもは得意そうに、写真に写っているママを指さした。


 それって、まさか、嘘でしょぉぉぉ。


 ショウタ君も、


「ママ~?」


 とフシギそう。


 子雲こぐもは、悲しそうなミカちゃんを元気づけようと、ママに変身したつもりなのね。


 笑っちゃいけないけど……。

 ギャハハハ……。

 笑いすぎて、お腹が、お腹が痛い。

 死にそう。


 どう見たって、白ブタが人間の中年のおばさんの真似をして、お尻をフリフリ歩いてるって感じ。


 子雲こぐもったら、ついに踊りだしちゃった。


 見ようによっては、可愛いくないわけじゃないけど、やっぱり我慢できない。

 ギャーハハハ……。


 ところが、ミカちゃんは子雲こぐもをにらんでいる。


全然ぜんぜんてないわ。ママはせていてキレイなんだから。シツレイしちゃうわ、もッ!」


 怒りながら、子雲こぐもの雨がたまった缶のゴミ箱を持って、子供部屋を出ていった。


 そうよね。

 あれじゃ、ミカちゃんが怒っても仕方ないわ。

 わたしだって怒るわよ。だから、あれほど言ったのに……。


 ミカちゃんから怒られた子雲こぐもは、落ち込んだみたい。

 部屋の角に移動して、シュンとしている。


 いたずらっ子の子雲こぐもも、反省しているのね、と思ったら、え、違うの?


 ママに似てない、て言われたことがショックなの。


 ま、あんたらしいけどね。


 そこで、ショウタ君が、

「チビ、元気出せよ」

 とはげましてやった。


 子雲こぐもはうれしそうに目をウルウルさせながら、ショウタ君を見つめている。


 でも、それで終わらないのがショウタ君。


「変身の才能はゼロだけどね」


 と笑っている。


 ガッカリした子雲こぐもは、部屋の隅に行き、体を壁にこすりつけている。


『いいんだいいんだ、僕なんか……』


 そんな感じだ。


 やっぱり笑っちゃう。


 そのときだった。



 あ!


 子雲こぐもが、わたしを不審な目で見ている。


 何よ、その目は……。


 わたしもユウレイじゃないかって? 


 ん~……。


 一人前に、痛いとこついてくるじゃないの……。


 あれ? 


 あんたに、わたしが見えるの? 


『あ、ヤダ。わたしにまでカミナリ⚡を落とさないでよ。わかったわかった。笑ったのは悪かったわよ。謝るから。ごめんごめん。だから、もうやめてちょうだい』


 子雲こぐもはやっと、カミナリ⚡を落とすのをやめてくれた。


 本当にいたずらっ子なんだから、もぅ!


 でも、わたしに気づいた人がいてくれて、うれしい。


 あ、人じゃない、雲か。


 なんて、どっちでもいいわ。

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