第5 どうして、あの話をしちゃいけないの?

 ミカちゃんは、子供部屋に浮いている子雲こぐもをにらみつけた。


「わたし、雲って大キライ。出ていってよ」


 一方、ミカちゃんからキライと言われた子雲こぐもは怒っているみたい。


 “プンプン”て感じで、頭から白い煙みたいなものを出している。


 まるで、マンガの世界だわ。

 うれしくなっちゃう。


「お姉ちゃん、ひどいよぉ」


 とショウタ君が言うと、子雲こぐもも、ウンウンとうなずいている。

 えらそうに……。


 でも、ミカちゃんにも、ちゃんと言い分があるのよね。


「ショウタ、パパが言ったでしょ。誰も入れちゃいけないって」


 ん~……それもちょっと違うような気がするけど……。


 ついにミカちゃんは、


「さ、出ていきなさいよ」


 と、モップを振り回し、子雲こぐもを追い出そうとしている。


 子雲こぐもは、モップにかき消されそうになる自分の体を、必死で押さえた。


 それにしても、ミカちゃん、どうしてそんなに子雲こぐもがキライなの? 

 なんか、いつものミカちゃんじゃない気がするんだけど…… 。


 一方、ミカちゃんから追いまわされた子供は、ついに怒ったみたい。

 ミカちゃんの頭に、カミナリ⚡を落とした。

 でも、そのカミナリは小さくて可愛いの。


 パチパチくらい。


 それでも、子供のミカちゃんには痛いみたい。


「痛い。やめてよ、もう……」

 今度は、ミカちゃんが逃げまわっている。


 ミカちゃんをかわいそうに思ったショウタ君が、


「チビ、もうやめてよ」


 と言うと、子雲こぐもはカミナリを落とすのをやめた。


 ミカちゃんは、


「もう」


 と怒りながらも、ホッとしている。


 子雲こぐもをフシギそうに見ていたショウタ君が、


「チビ、触ってもいい」


 とくと、子雲こぐもは頷いた。


 こわごわ、ショウタ君の手が、子雲こぐもに伸びていく。

 でも……。


「あ……」


 ショウタ君の手は、子雲こぐもの体を通り抜けてしまった。


 一方、子雲こぐもはくすぐったそうに体をくねられている。


 “キャッキャッ”て、子雲こぐもの声が聞こえてきそう。


 調子に乗ったショウタ君は、いたずらっ子の顔で、子雲こぐもをくすぐりはじめた。


 “コチョコチョ”

 “キャッキャッ”

 

 て感じ。


 まるで兄弟のじゃれあいみたいだ。


 そんなショウタ君と子雲こぐもを見たミカちゃんは、プンプン。


「絶対、出ていってもらうんだから……」


「お姉ちゃん、ひどいよ。オバサンのチビなんだよ」


 ショウタ君も怒っている。

 ミカちゃんは、ショウタ君をにらんだ。


「ショウタ、もうオバサンの話はしないって約束したでしょ」


 ミカちゃんがショウタ君に、そんな約束をさせたなんて、初耳はつみみだわ。


 あ、もしかして、あのとき……?



 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢


 あれは、2人の大好きなおばあちゃんが、病院に入院する前日のこと。


 その夜、カワセさんでは、リビングで、大人(おばあちゃんとパパとママ)だけの家族会議を開いていた。

 言い出したのは、おばあちゃん。


「ミカとショウタのこと、お願いね」


 おばあちゃんは、ミカちゃんとショウタ君のことが心配でたまらないと言う。


「だって、オバサンが動物病院に入院して死んだばかりでしょ。わたしも入院したら死ぬかもしれないって、子供たちが不安しそうな気がするの」


 おばあちゃんは、


「こんな時に入院することになって、ごめんなさいね」


 と涙ぐんだ。


 そこでパパが、おばあちゃんとママに約束したのだった。


「おばあちゃんが元気になって帰ってくるまで泣かない」


 自分が泣けば、ミカちゃんとショウタ君も不安になるからって。


 そういえば、オバサンが死んだときも、パパはずっと泣いていたっけ。


 あの涙もろいパパがねぇ……。

 大人って大変ね。


 ちょうど、そのときだった。


 子供部屋にいたミカちゃんがトイレに行くため、リビングの前の廊下ろうかを通りかかったのは……。

 そして、パパの約束を聞いてしまったのだった。



 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢



 きっとそのあと、子供部屋にもどったミカちゃんがショウタ君に、


「もう、オバサンのことを話してはいけない」


 と、約束させたに違いない。


 でも、どうして……?

 

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