第4話 子雲の名前は『チビ』

 ミカちゃんは、子雲こぐもが子供部屋に入ってきたことに気づいていないみたい。

 カミナリ⚡が怖くて、しっかり目を閉じていたから……。

 

 また、ザンネン。


 一方、ショウタ君はポカンと口を開けたまま、ミカちゃんの頭を見ている。


 ショウタ君、どうしたの?


 ショウタ君の視線の先を見ると……。


 ア・ゼ・ン……。


 子雲こぐもが帽子のように、ミカちゃんの頭に乗ってふざけている。


 ホント、りないんだから……。


 ミカちゃんを怒らせたら知らないわよ。

 ママより怖いんだから……。


 そのとき、ショウタ君が、


「あ、雲。お姉ちゃんの頭の上……」


 と教えてあげた。

 

 ミカちゃんは、空に浮かぶ雲と虫の蜘蛛クモ勘違かんちがいしたみたい。


「キャー、イヤイヤイヤ……」 


 と、髪をかきむしりながら走り回っている。


 子雲こぐもはミカちゃんの手にかき消されそうになりながらも、必死で自分の体を抑えている。

 そのカッコウが、またおかしいの。


 ヒェ~ッ、て感じで。


 そこで、ショウタ君が、


「お姉ちゃん、空に浮かぶ雲だよ」


 と教えてあげた。


「え?」


 と、ミカちゃんが不思議そうに見上げると……。


 頭の上に、疲れ切った子雲こぐもが浮かんでいる。

 ハァハァと荒い息をはきながら……。


 ミカちゃんは、


「雲~?」


 と、不思議そうに首をかしげた。


 そこで、ショウタ君はピンときたみたい。


「あ、そうか。ぼくに会いに来たんだ」


 ミカちゃんは呆れて、


「ショウタ、何言ってるの? 」


「だって、おばあちゃんが言ったもん。オバサンの雲だって。チビだよ。やった~」


 ショウタ君は大はしゃぎ。



 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢



 ショウタ君のいうオバサンは、誰かって?

 それは2年前、カワセさんに拾われたノラネコのこと。


 ショウタ君が名づけた。

 太っていて、年をとっているメスネコだからって。


 ところが10日前、そのオバサンが病気になってしまった。


 カワセさんの家族は、オバサンを動物病院に入院させて、一生けんめん看病してくれた。


 でも、オバサンは1週間前に死んでしまったの。


 大人なのに泣き虫なパパは、泣きながら、庭にオバサンの墓を作ってくれた。


 優しいおばあちゃんとママも、涙ぐみながら、オバサンの墓にキャットフードを入れてくれた。


 8歳のミカちゃんは、どうしてもオバサンが死んだことを信じられなかったみたい。

 物音がするたびに、ひょっこり帰ってきたと思って、探していたから。

 やっぱり、オバサンは死んだんだ、と気づいたとき、ミカちゃんはとても悲しそうだった。


 一方、よくわからないショウタ君は、


「ねぇ、オバサンは今度いつ来るの?」


 と、みんなにいていたっけ。


 その度に、パパは涙ぐんだものだった。


 そこで、おばあちゃんがショウタ君に教えてあげたってわけ。


「オバサンはね、空にいるの。いつでも空からショウタを見守っているのよ。オバサン、いつまでもショウタのことが大好きだって。だから忘れたりしないでね」


 カワセさんのおばあちゃんは、優しくて、笑顔がとってもステキなの。


 だから、ミカちゃんもショウタ君もおばあちゃんのことが大好き。


 それから、ショウタ君はよく空を見上げるようになった。

 そして、空に浮かんでいる小さな子雲こぐもをオバサンの生まれ変わりだと思い、“チビ”と名づけたのだった。



 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢

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