第2話 子どもだけで、初めてのお留守番

 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢


 ここは、カワセさんの子供部屋。


 時間は、午後が始まった頃。


 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢


 姉のミカちゃん8歳と、弟のショウタ君5歳が、初めて子どもだけで、お留守番をすることになった。


 どうしてかって言うと……。


 昨日、おばあちゃんが病気で入院してしまったの。

 ママも付き添って、一緒に


 そして今日、ミカちゃんとショウタ君も、パパと一緒に、おばあちゃんのお見舞いにいくことになっていた。


 でも、パパに、急な仕事の電話が入ったから、たいへん。


 パパは仕事を断ろうとしたけど、ミカちゃんが行かせたの。


 だから、ミカちゃんとショウタ君だけで、お留守番をすることになったってわけ。


 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢


 ショウタ君はいつものように、子供部屋で遊んでいる。

 オモチャ箱をひっくり返して。


 ショウタ君、 またミカちゃんから叱られても知らないから。


 ほら、ミカちゃんが、掃除機を重そうに引っ張って入ってきたわよ。


 散らかった子供部屋を見たミカちゃんは、腰に手を当てて、呆れたようにため息をついた。


 女の子って、フシギね。

 いつの間に、こんなにママに似ちゃったのかしら。


「ショウタ、掃除するんだから、片付けてよ」


 でも、弟のショウタ君には、ママの真似も通用しないみたい。

 いくら似ていても、やっぱりママはママで、ミカちゃんはお姉さんなのね。


「パパは掃除しろ、なんて言わなかったよ」


 だって。


 ま、仕方ないわねぇ。

 なんたって、相手はショウタ君なんだもん。


 でも、そこはやっぱりお姉さんのミカちゃん、しっかりしている。


「パパを喜ばせたいの。ほら、早く」


 しっかり者の姉とわがままな弟、て感じ。


 なんか、いいものね。

 うらやましぃ。


 なのに、ショウタ君はまだ、おもちゃで遊んでいる。



「ショウタ!」


 怒ったミカちゃんは、ショウタ君の手から、オモチャを取り上げた。


 ショウタ君は、


「お姉ちゃんなんか嫌いだよ。パパのところに行くぅぅぅ!」


 と、駄々だだをこね始めた。


 ま、気持ちはわかるけどね。


「パパはお仕事なの。ガマンしなさい」


 やっぱり、ミカちゃんの方が正しいのよね。


 でも、5歳のショウタ君には、そんなこと、まだ考えられないみたい。


「じゃぁ、ママのところに行くぅぅぅ!」


 だって。

 本当に笑っちゃう。


 でも、お姉さんのミカちゃんとしては、笑い事じゃないのよね。


「ママはおばあちゃんの看病をしているんでしょ 」


「だから病院に行くぅぅぅ」


「ショウタが行ったら、ママおばあちゃんの看病できないじゃない」


「ヤダ、行く。だって、ママとおばあちゃんに会いたいんだもん。お姉ちゃんがパパに、仕事に行けって言ったから、病院に行けなくなったんだからね。お姉ちゃんのせいだからね」


「そんなことしたら、おばあちゃんが心配するでしょ」


「お姉ちゃんはおばあちゃんが嫌いだから、そんなこと言うんだ。おばあちゃんに言いつけてやるぅぅぅ」


 ミカちゃんは、大きく息を吸い込んだ。

 そして 、ついに、


「ショウタのバカー!」


 と怒鳴った。


 ミカちゃん、お姉さんもタイヘンね。

 同情するわ。


 子供だけのお留守番は始まったばかりなのに、これじゃ、先が思いやられる。


 そのときだった。


 あ……あれは、なに……?


 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢  ♢


 窓の外に、なんか白くてまるいものが、フワフワ浮いているのが見えた。


 え~ぇ……そんなぁ……ヤダ、ウソ~。


 こんなことって、あるのぉぉぉ?


 わたしの目、どうかしちゃった? 

 だって……雲。


 そう、さっきまで空に浮かんでいた、あのいたずらっ子の子雲こぐも⛅よ。


 まるで、カワセさんの前の歩道を、散歩しているように、地上2mぐらいの高さをゆっくり飛んでいる。

 というより、泳いでいる感じかな。

 あっちを見たり、こっちを見たりしながら。


 でも、どうして空にいた子雲こぐもが、ここにいるの?


 あ、そうか。

 さっき、母雲ははぐも☁からカミナリ⚡を落とされたから、地上に逃げてきたのね。


 でも、雲って、こんな低いところまで下りてこられるものなの? 


 それに、小さくなったみたい。

 まるで、人間の赤ちゃんぐらいの大きさしかない。


 だって、空にいたときはもっと大きかったはずよ。


 地上まで下りてきたから、重力で縮んじゃったとか? 


 詳しいことはわからないけど、そういうことにしておこう。


 信じられないけど、信じちゃう。


 だって、今日はいいことが起きそうな予感がするんだもん。


 何か、ワクワクしてきちゃったぁ。

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