学校ではただの美少女

夜中に俺の部屋に来た咲は主人公くんの情報(好きな食べ物等)を教えると窓から華麗(笑)に帰っていった。

そして窓から『いてっ、ちょ…っ!?』と悲鳴が聞こえたが窓から外に出ると多分家に入れなくなるので、祈るだけにした。


咲の殺し屋での仕事が初めてというのは本当だったようだ。確かにドラマとかで見たようなキレが無かったように思う。

というか疑問なんだが、主人公くんの好物を知って本当に役に立つのだろうか? そうこう考えている内に段々と眠くなってきてたので俺は布団に入り、意識を手放した。



俺は学校に行くために自転車を漕いでいた。ただぼーっと漕いでいると隣に人影が見えた。


「しなっちゃん、眠そうだね」


人影は咲だった。彼女は今日も清楚な空気を醸し出しながら笑顔で俺に話しかけてきた。


「咲さんのせいでしょ。それよりもどうなの?」

「どう、とは?」

「進んでいるの? 仕事」


俺がそう咲に問うと彼女はキョトンとした顔をした。しばらくすると何がおかしいのか笑いながら答えた。


「進んでいるわけないじゃない〜情報が少ないんだから〜!」

「全然笑い事じゃないと思うんだけど……」

「そういえば、昨日メモした紙どっか行っちゃったんだよね〜」

「……は?」


俺が冷めた目で咲を見ると慌てて言い訳を始めた。疲れていたからとか、家に多分あるとか……言い訳が夏休みの宿題をやり忘れた小学生の言い訳にしか聞こえない。

こんな様子を見せられると本当に殺し屋か疑ってしまう。それほどに彼女に殺し屋という職業は合わない。というか殺し屋は職業なのか、という疑問について考える。


少し考えていると今の状況に違和感を感じた。


「というか、咲さん」

「どうしたのかな?」

「俺、自転車乗ってんだけど」

「うん、それが?」

「なんでついてきてるの?」

「……普通のことじゃない?」


普通のことではない。俺は自転車に乗っているが咲は乗っていなく、走って俺についてきているのだ。しかも、息が上がっていないのだ。一般人であれば息を切らして止まっているというのに彼女は数十分という長い時間ダッシュでついてきているのだ。


「これも殺し屋の能力だよ!」

「本当に殺し屋って隠してるつもり?」

「もちろんです!」


ふふん、とドヤ顔している咲は可愛いのだが、本当に周りから殺し屋ということを隠しているのかと疑問に思う。というか殺し屋の能力ってなんだよ。

俺は首だけ動かして周りを見ても咲が俺についてくる光景に疑問を持っている人は居なかった。


咲といっしょに学校に向かっていると見覚えある背中が見えた。それは主人公くんだった。彼はサラサラとした髪に後ろから見てもわかるイケメンオーラが漂っていた。

俺が急に止まると咲も一緒に止まった。急に止まったのでムッとしていた。


「急に止まらないでほしいんだけど……」

「アレ、葛城だよな?」

「無視するんだ……そうだね、葛城くんだね。行ったほうがいいと思う?」

「まあ、行ったほうがいいな。一応ターゲットなんだろ?」


俺はそう咲に諭すと、なぜか腕まくりしながらクラウチングスタートの姿勢を取った。そして俺と並走した速度で主人公くんの方に向かう……って


「ちょ……」

「葛城さーーんっっ!!」


俺が止める前には殺し屋の能力(?)を使って主人公くんの方へと急速に向かって行った。このままでは突撃して主人公くんが大怪我する……と思っていたのだが。


「大和さん? おっと……」


そして、主人公くんはぶつかってふっとばされると思いきや、突撃してきた咲を優しく片手で止める。幼馴染なのにあんな力持ってたの知らなかったわ。やっぱり葛城家ってどこか変だ。


「おはようございます!」

「うん、おはよう」


葛城もそうだけど、俺が関わる人はほとんどが意味わからん身体能力をしている。それに比べて俺は高校生の平均より下である。あとで筋トレ始めようかな……?


自分を鍛えたほうが良いのか考えているとこちらに気づいた主人公くんの反応は咲のときよりも機嫌が良さそうだった。もし、主人公くんに尻尾がついていたら尻尾をすごい勢いで振っていたであろう。


「京介、はよ。今日は大和さんと登校していたのか?」

「うん、そこでばったり咲さんと会った」

「ふ〜ん……というかお前、なんで大和さんを下の名前で呼んでいるんだ?」


なんだか主人公くんから黒いオーラが見える。そしてこちらを睨んでくる。


「私が下の名前で呼び合おうと提案したんですよ。ね?」

「そうだな、仲良くなるためには、まずは呼び方だよな」


言い訳しているみたいでなんか変だが、納得して主人公くんの機嫌は戻った。


「それなら俺のことも葛城じゃなくて紫水って呼べよ。いつまで葛城って呼ぶつもりだ、小学校からずっとじゃねえか」

「はいはい、わかったよ」

「とりあえず学校に行きましょうか」

「俺は先行ってるから二人はゆっくり行きなよ」


俺は咲にアイコンタクトを取る。二人になれば、情報とかも抜き出せるだろ。それに二人といると俺も目立つからなるべく学校では一緒に居たくない。


咲は俺に向けて親指を立てた。大丈夫そうなので、先に俺は学校に向かう。


「……しなっちゃんどこに行くの?」

「先に行ってるから二人でお話しながらゆっくり来なよ」

「しなっちゃんが居ないと話題が尽きる……」


俺だって話さないから話題が尽きても話に入っていけないんだけど。まず、主人公くんの話は大体『うん』とか『へー』とかで受け流しているから会話しているのかも怪しい。

俺には重荷なので無視して先に行こうとすると咲に肩を掴まれる。


「そこに居てくれるだけでいいから」


俺は渋々了承し、三人並んで学校に向かった。教室に着くと主人公くんと咲はクラスメイトに囲まれて俺は二人のそばから離れざるをえなかった。


「大和さんと葛城さんって近くに住んでいるの!?」

「近くには住んではないけど……」

「じゃあ、なんで一緒に登校してきたの!? もしかして付き合っているの!?」

「「それはない」」


遠くても聞こえるクラスメイトの声に耳を傾けていると二人は付き合っていないとはっきり拒絶する声が聞こえてくる。あの二人はお似合いだとかなんとか勝手に言われているが、俺は知っている。その片方が命を狙っている殺し屋だから恋に発展しないということを。


「それなら俺にもチャンスあるかなッ!?」

「でも大和さんは手強いぞ、昨日告白しようとしたやつはこのクラスの半数以上居たらしいから。ちなみに俺もそこに入っているからお前は敵だな」

「ぐぬぬ………っっ!!」


恋愛はどうかはおいておき、殺しのターゲットになったら狙われるからそこの枠に入れるように自分を磨け男子共よ。俺はその枠に入りたくないのでひっそりと生活していきたい。


クラスメイトの束縛から開放された二人が俺の隣と左後ろの席に荷物を置く。主人公くんの俺を見る目が『助けろよ』と言いたげである。だが、そんなこと傍観主義である俺には無理な話だ。


「……」

「わかるぞその目、助けろよと言いたいんだろ? でも残念ながら俺はもちろん他のやつでもあの中に入るのは自殺行為だから無理だ」

「裏切り者め」

「うるせえ、そっちのほうが裏切り者だろ」


主人公ポジのやつがモブポジを羨ましがるんじゃねえ、せいぜい主人公ポジで良かったって思っておけ。心の中で眼の前のイケメンに唾を飛ばした。


そして左後ろを見ると顔は笑顔だが、目で疲れているのを確認できる死んだ目をしていた。よく見てみるとハイライトがないため、最近見たアニメのトラウマを思い出す。


「大丈夫か、咲さん」

「ええ……大丈夫、です……」


大丈夫と言っているので彼女は大丈夫だろう。少ししたら彼女の様子を見ていると虚ろに何かを見ていてとっても怖かった、あと時々笑っていた。周りのクラスメイトはそんな彼女を見て怯えていた。


咲は本当に殺し屋で大丈夫かと心配するレベルのメンタルの持ち主である。そんな彼女は今日もただの美少女を演じている……


あとがき

月水金日に投稿する予定です。よろしくおねがいします。

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