朝に起きるは特殊イベント
「しなっちゃん」
「なに咲さん」
俺のことをきょうちゃんと呼ぶ美少女は最近この学校に転校してきた大和咲である。そしてその正体は普通の学生ではなく、殺し屋だ。
そんな美少女にしなっちゃんと呼ばれる俺は今ちょっぴりピンチである。
「なんで私達は廊下を走っているの?」
「咲さんのせいだわ」
俺が聞きたいくらいである。というか自分は特に関係無かったのになんで一緒に走っているのだろうか?
後ろを見ると鬼の形相をし、太い針のようなものを持っている女が一人追いかけてきているのだ。というかちょっぴりどころではなくかなりピンチに修正しておこう。
俺達は今狩られそうになっているうさぎの気分であり、追ってきている女に捕まっているとどうなるのかわからない。
「どうしてこうなった……!?」
「そんなのこっちが聞きたいよ!!?」
「もとはといえば咲さんのせいだからね!!?」
そして俺はこの状況から逃げるようにさっき起こったことを思い出す。それは今日の朝の出来事である………
☆
朝の『美少女・美少年囲み事件』が解決し、今日もいつものように先生が入ってくる。先生は今日もしっかりとスーツを……??
「……今日は転校生を紹介する」
「なあ、京介?」
「なんか先生元気なくね? しかもちょっと死んだ目をしている気がする……」
なんだかいつもよりも元気がないように見える、主人公くんが自分の目に指を指し先生の方へと指を向ける。指の動きに合わせて主人公くんと先生の目を見比べてみるとたしかに先生は死んだ魚の目をしていた。
このクラスの担任は子どもに怖がられないように最近は死んだ目をしないように意識しており、その甲斐もあり、最近では女子生徒が担任に絡んでくるようになったという噂がある。そんな先生が死んだ目をしているのだ、なにか大きな問題でも怒ったのだろうか?
「転校生? こんな短期間に?」
「せんせー、本当ですかー?」
確かに昨日は大和咲が転校してきたのにまた転校生が来るというのだ、流石に早すぎる。こういうときはもう来ないか、あと一年くらいじゃないと。
「……じゃあ、入ってきてくれ」
「………はい」
前のドアから入ってきたのは流水のようにサラサラとした水色の髪に青い瞳、そして誰もが二度見、三度見するほどの作り物のような美しい顔。そしてその周りを冷たい空気を醸し出す美少女が教室に入ってくる。
その美しさのあまり教室はシーンと静まり返っている。
「自己紹介をしてくれ」
「はい、私は
聞いたことがある名前だが、俺の中の記憶を探してみるがその名前に関係する記憶は見当たらない。ぼーっと転校生を見ていると目があった。
その子は俺を見ると驚いたように目を見開き、こちらの方に歩いてくる。
「あなた……」
「え、えっと……??」
「きょうちゃん?」
「その呼び方、って……!?」
俺は思い出した、それは俺が小学生の時に遊んでいると後ろをちょこちょこついてきてた子がそんな名前だった気がする。じっと見てみると確かにその時の面影がある。
俺が思い出したからかさっきまで無表情だった氷姫さんが笑った。その笑顔によってクラスメイト(主に男子)が何人か幸せそうな顔で気絶した。美少女、恐るべし。
「思い出してくれたんだね、久しぶりだね」
「ああ、しっかし……あの時よりも立派になったな……」
「うん、これできょうちゃんは私を……」
佳奈は俺の手をほっそりとした小さな手で包み込み、一呼吸置いて俺に告げる。
「お嫁さん、にしてくれるよね?」
「「は?」」
『お嫁さん』という言葉に隣とその後ろの人が冷たい声を出す。今日は温かい気温で過ごしやすいと天気予報で言っていたが、俺の背は冷たかった。
「ねえ、京介」
「な、なんだっ?」
「お嫁さん、ってどういうこと??」
「そ、それは……あ、あれだっ!」
先程のほのぼのとした雰囲気は終わり、尋問が始まってしまった。一度でも回答をミスってしまうと良くないことが起きそうな雰囲気である。
俺の背中からは冷や汗がたらりと垂れる。俺を尋問している主人公くんは今まで見たことないくらいの怖い顔をしていた。
「な、なあ、顔が怖いぞ?」
「いつも通りにしているんだけど、京介にはそう見えるのか?」
「………やっぱ、いつも通りです」
「それで? 教えてくれるよね?」
俺は主人公くんにすべて話すと頭を抱え、何かをぶつぶつと言っている。
「葛城……?」
「……なんでもない、それよりも氷姫さん」
「なに?」
「負けないから」
「そう……まあ、せいぜい頑張って」
佳奈は紫水への興味をすぐに失い、次に犬のように威嚇する咲に目を向ける。
「うぅ〜……!!」
「え、えっと……」
「う〜……っ!!」
「きょうちゃん、この人は……?」
「私は大和咲、昨日転校してきた美少女だよっ!」
「……なんかこの人自分で美少女って言ってるけど」
「実際美少女だからいいだろ、そんなことよりも……」
昨日までは名前の通り大和撫子みたいな感じだったのに、一体いつからこんなにアホになってしまったのだろうか? 咲は自己紹介を終えるとまた佳奈を威嚇し始める。
「咲さん、ハウス」
「ちょっとっ!犬扱いはひどくないっ!?」
「だって、犬みたいに威嚇してるから……」
「確かに犬みたいにやってたけど……それよりも人を犬扱いしたら駄目だよっ!」
ご尤もであるが、四つん這いになって犬のマネやってる人に言われるとなんか腹立つ。その様子を見ていた佳奈は俺に質問する。
「お二人の関係はどのようなものなの?」
「友達?サポート役……仕事仲間みたいなものだね!」
「へー……どのような仕事をされているの?」
「ちょっと人を……殺す系かな〜……むぐっ!!?」
このバカはやらかした。まさか話すとは思っていなかったので口を塞ぐのが遅くなってしまい、佳奈に聞かれてしまった。
「え、こ、殺……!?」
「佳奈ちょっとっ!」
俺は佳奈の手を掴みを空き教室へと連れて行く。ついでに咲も首根っこ掴んで連れて行く。咲は言ってはいけないことを言ってしまったので、この後佳奈が通報して警察がきてお陀仏だろう。
「ごめん、無理やり連れてきちゃって……」
「い、いえ……それよりも」
佳奈は咲の方を見る。俺も釣られて見る。咲は先程よりも小さく、これから怒られる子どもみたいだった。
「大和さんは殺し屋なの?」
「……ああ、実はそうだ」
「そうなんだ、でもよかった……」
「何が良かったんだ?」
なぜだか恍惚とした表情になる佳奈に恐る恐る聞いてみる。
「私も殺し屋なの」
「……はっ?」
「しかもターゲットはこの子」
佳奈が指を指した方には咲がいた。これってまずい状況ではないだろうか?
「きょうちゃんと協力して一緒にお仕事したかったんだけど……仕方ないね」
「な、何を……っ」
「ここできょうちゃんを殺す」
転校生が来たと思ったら自分の死期が来たようです。
「ごめんね、でもこれは秘密だからさ?」
「か、佳奈っ」
目が見えない速さで俺に近づく佳奈の手には太い針のようなものが握られていた。だいたいこういうものには毒が塗ってあるので少しでも触れると動けなくなるとラノベで読んだ。
「じゃあ、ばいばい」
「っ!!」
俺に切っ先が迫る。俺は痛みにそなえて、せめてもの顔を守るように腕を顔前に構える。
「……っ?」
だが、痛みは来ない。
「なっ……!?」
ゆっくりと目を開けると目の前にはいつものアホとは違う集中モードの咲が佳奈の腕を掴んでいた。その目はいつもとは違い、薄っすらと赤い光のようなものが見える。
「しなっちゃんはころさせやしないよ、遅くなってごめんね」
「もとはといえば咲さんのせいだからな」
「あはは……じゃあ」
咲はスカートのポケットの中から昨日見た銀色のナイフを取り出した。
「私の大切な人を傷つけようとしたあなたを成敗しちゃおうかな」
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