俺の話をしよう。俺は草原の狼ステッペンウルフという半グレの最後の一人だ。草原の狼ステッペンウルフは聞いたことがあるだろう?昨年の首相官邸襲撃事件で犬養原罪イヌカイ・ゲンザイ首相暗殺を実行したことで伝説上の存在になった。

 俺たちが何故そんな事件を起こしたかというと単純に依頼を受けたからだ。政治というものは帝国いや大東亜共栄圏こちら側を支配する財閥の影響を強く受ける。

 総理大臣に自分たちの言うことを聞く犬を据えたいというのは財閥の当然のお気持ちであったわけだ。

 そのために犬養首相は暗殺されることになった。

 何度生まれ変わっても到底稼げないような破格の報酬に釣られて俺たちは首相を殺し、みんな死んでいった。

 俺は生き残ったから生きているだけだ。


 上記のようなことを性交渉のあと過負荷カフカに話した。

 人間はアルコールの摂取や性交渉で口が軽くなる。


「懸賞金二十億円じゃったか?メジャーリーグの選手の年棒ならもっと上が幾らでも居るであろう?」

「それでも闇社会の指名手配じゃあ上位十人の額だ。俺がメジャーリーグの選手ならば死後、背番号が永久欠番にされるだろう」

「たわけが。伝説のままお主を死なせはしない。お主はこれから明日も明後日も変わらぬ日々を過ごし、ベッドの上で死ぬのじゃ」


 日の出をホテルの窓から眺めながら、そんな話をした。

 生まれ育ちの悪さ故に、ろくな生き方の出来なかった俺に初めて光が差した。

 俺は夜の闇を走り抜け、日の当たる場所で生きられるようになった。

 死んだ仲間たちは俺が殺した者たちはそれを許してくれるだろうか。


「誰がわらわたちの存在を否定しようが、それでも生きるのじゃ」

「ありがとう」

「例には及ばん」


 


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