七夕祭りが始まった。通りの道路が通行止めになり、和服やそれぞれの民族衣装などに身を包んだ連中がうじゃうじゃいる。満洲ほどではないが、樺太には様々な民族の人間がいる。


「では行こうか」


 いつも通り散歩に出かけようとホテルの部屋で柔軟をしていると、紫色の浴衣に身を包んだ過負荷カフカがやって来た。


「散歩がある」

「散歩で何処を歩くのか、それをわらわに決めさせてくれんじゃろうか?」


 そう来たか。そう言われると弱いな。完全に拒絶することができない。


「それならば構わない」


 我々は人混みの中を散歩した。

 露店の者には地元のロシアンマフィアの下っ端などがいた。


過負荷カフカさん、お疲れ様です!!」


 水餃子ペリメニを大鍋で煮詰める下っ端は過負荷カフカの姿を見つけると頭を下げた。過負荷カフカは聞いた話によると、樺太が日本領土になったときからこの地に暮らしているので、ロシアンマフィアの人間も頭が上がらない。

 少なくとも豊原市は過負荷カフカの縄張りになっているため、ロシアンマフィアはその軒先を借りているという形になる。

 本性が千年ほど生きる大妖怪に勝てる人間など道満ドーマン法師や安倍晴明のような伝説だけだ。


「調子はどうじゃ?」

「ボチボチっす」

「水餃子、二パック買おう」


 過負荷カフカに頭が上がらないのか、下っ端がそれとなく水餃子ペリメニを一つ二つと増やしてくれた。容器はパンパンになっていた。


「既に散歩ノルマは達成されている。俺は帰るがお前は?」


 人混みを歩き、食べ物を買っているうちに散歩で達成すべき歩数を終えた。

 七夕祭りでは二十時から花火が打ち上がるらしい。


「花火はホテルから見ると楽じゃぞ」

「そうか。俺は構わないが、お前仕事大丈夫なのか?」

「今日と明日は全部開けている。お主の部屋から花火が見たいのじゃが……良いだろうか?」


 過負荷カフカはわざわざ上目遣いで言った。俺の身長が百七十センチ弱でお前も同じくらいに身長を調整しているのでわざとらしさも際立つ。

 だが、そんなことはどうでもいい。


「分かった。来てくれ」


 先に過負荷カフカに帰ってもらい、俺はホテルの前のコンビニでコンドームを買った。性交渉のときに避妊しない奴は若いあるいは愚か、またはその両方だ。

 

「袋はいらない」

「壊した床の修理費いい加減払ってくれよ」


 たまたまコンビニのレジをやっていたのが、前にチュパカブラに殺されかけていた男だった。


「それもそうだな」


 商品の代金とは別に五百万円を渡す。たまたま札束を持って歩いている日だった。

 コンドームとスポーツドリンクのペットボトル二本を持って俺はホテルに戻った。

 俺の部屋はホテルの上の階にあるので花火がよく見えた。七夕祭りの露店が並ぶエリアから立ち見の者、河川敷に席を確保し見る者。それぞれが同じ花火を見ている。ただ各々が居る場所が違うだけだ。場所によって見えにくくも見えやすくもする。

 花火を見ているうちに、過負荷カフカが間合いを狭めてきてお互いの体温が感じられるくらいになった。夏場では空調が効いていても生物がお互いに接触していると暑い。


「薄々勘づいているとは思うのじゃが、わらわは人外じゃ。それでも良いのか?」

「それがどうした」


 それからお互いがお互いの唾液を吸うような接吻キスを行った。


「シャワーを借りてもいいか?」

「良い」


 俺の前で過負荷カフカが服を脱ぎシャワーを浴び、俺もシャワーを浴びた。

 我々は性交渉を行った。


 性交渉は闘争に似ている。お互いがお互いの肉体を使い、ぶつかり合う。

 無意識に過負荷カフカ足や腕が俺を激しく締め付ける。俺が鍛えてなければ骨が砕けていただろう。人外の筋力を感じた。


「思ったより重いッ!」


 体勢を変えるために過負荷カフカの身体を持ち上げると、見た目よりも重い。

 軍用サイボーグ並みだ。軍用サイボーグは百五十㎏ほどするが、だいたいそれくらいに感じる。


「お主ッ!女子おなごにそんなこと言うなッ!」


 いつの間にか朝日が登っていた。





 


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