肆
樺太では、旧暦の七月に七夕祭りを行う。つまり現在の暦では八月に行うということだ。祭りの開催日まで残り数日のある日、事件は起こった。
「殺人カニが増えて来たから駆除しようと思うのじゃが?」
「散歩がある」
「うむ。暇のようじゃな」
散歩、それは俺が命を維持する他にやるべきことだった。必ずしなければならないことではないが、それは人生も同じだ。人生は必ず続けなければならないものではない。闇の中でもがいていると時々足を止めたくなる。
いつの間にか二人で出かけるときは、俺が
「聞かないのか?」
「何をじゃ?」
時々行き先の指示をする以外は携帯端末でSNS上に流れる動物の写真を眺めるばかりの
「俺がいつまでホテルにいるのか」
「去る者は追わず来る者は拒まず。ホテルとはそういうものじゃ。それにお客様の個人情報を根掘り葉掘り聞くものでもあるまいよ」
「仕事として一線を引いているようなことを言っているが、お前は俺に対してだいぶ良いようにしてくれているな」
深く考えずとも倒れて居た俺を金も要求せずに助けたことも、俺が負傷する度にラストエリクサーをくれることも、俺に対して特別対応だ。
「好きだからじゃ。最初に会ったときから」
心の揺らぎを無くした俺でもお前の笑みには、揺れるものがある。
今更他者から好意を向けられたくらいで揺らぐ心もないが、
最初に会ったのは何時のことだったのか覚えていないが。千年近く昔だろうか。
砂浜に着いた。砂浜には人間の腰丈ほどのカニや大型の四駆ほどの大きさのカニが群れていた。その群れたカニを屈強な男女が駆除している。まだまだカニは居る。
殺人カニは捕獲されてすぐに冷凍作業が行われ、冷凍トラックで運ばれて行く。
道中聞いたところによるとこの駆除活動は漁協と某水産企業の合同によって行われているらしい。どれだけ金を積んでも人手不足ということで、こうして俺たちが参加したわけだ。ゴミ拾いのような気楽なイベントではないので、日当が凄まじい額出る。ちょっとした
「
「殺人カニを狩るのは初めてなんだが、どう狩れば良いのか?」
八尺ほどの長さの槍を漁協の人間から借り、
「このようにな。カニが
カニの
「えいやと振り回し、
鮮やかな手並みだった。カニの反撃を受けるよりも速く槍を振り、カニは戦闘力を大きくそがれた。
「なるほど。こうだな」
槍を振るうのは久しぶりだ。だが、この程度のカニに苦戦はしない。
「君、カニ漁師にならないか?」
水産企業の
「遠慮する」
それから大きな問題も起きず、一人の死者しか出ずに無事終わった。
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