第32話 開発霊符の売り込み会


 当主を含めた婚約の取り決めが無事に終わった翌日は一条ノ護いちじょうのご家の御当主ご夫婦と滉雅さんに手料理を振る舞うことになった。

 お三方は九条ノ護くじょうのご本家に留まり、翌朝の朝食を俺が作った。

 三人とも「素晴らしい霊力含有量!」と大絶賛してくれたのだが、九条ノ護くじょうのご家の当主であるふみ様には「霊力含有量以外褒められるように、しばらくうちで料理人に指導受けてもらってもいいかしら?」と微笑む。

 確かに味については誰も褒めてくれなかったなぁー!

 泣く。

 だが裏を返せば伸び代があるっつーことだよな! おっしゃ、やったるわ!

 で、そのあと滉雅さんに『思考共有』の霊符を部隊の人数分手渡した。

 ほしいって言ってたし、今日内地に帰るって言ってたので。

『思考共有』の霊符については一条ノ護いちじょうのごの当主ご夫妻も大変興味を持ってくれて、説明も聞いてくれた。

 そういう禍妖かよう討伐に役立つ霊符はどんどん開発してくれて構わないが、同時に生活に役立つ霊符についても開発したら教えてほしいと言われたのでそのまま俺の研究結果講演会を開催。

 主に竈に火を入れる、チャッカマンを参考にした『着火霊符』や、玄関に灯りを灯しておく『灯火霊符』や、湿気を取る『湿気吸収』、着物や本、米櫃に虫を寄せつけないようにする『虫除け霊符』などなど。


「素晴らしい! 特にこの『湿気吸収』と『虫除け霊符』はすぐに我が家でも取り入れたいわぁ!」

「これはうちでもほしいわ! 販売したらいくらくらいになるかしら?」

「央族のすべての家にほしがられること間違いなしだからな……量産体制を整えてからの方がいいだろう。だいたいこのくらいで販売したいが、霊符作りができる者が減り続けているからまず人員の確保をして……いや、その前に帝に献上し、量産体制を整える許可をいただく方がまず間違いないな」


 み、帝に献上?

 なんか話デカくなってね? マ?


「『着火霊符』と『灯火霊符』は禍妖かよう討伐の野宿に役立ちそうだ」

「そうだな。わざわざ松明を持ち歩かなくてもよくなるのは、禍妖かよう強襲にすぐ対応ができて非常に便利だ。こちらも十分に素晴らしい」

「ああ」


 滉雅さんと黎児様にはこちらが褒められた。

 そういえばそんな話もされていたなぁ。

 野宿でも火を着ける作業は手間取ると大変だから、着火霊符はとても役に立つと評価された。

 えへへへへ。


「あと、こんなのもあります」

「小さな霊符ね? どのような効果があるのですか?」

「草履の踵部分に取りつけます。すると音が鳴ります」

「「「「………………?」」」」


 まあ、そういう反応になりますよね。

 実はこの霊符は前世の姉の息子――要するに前世の甥の面倒を見ていた時に姉に聞いて「へー」となったことに着想を得て作った。


「小さな子の迷子防止や、草履を失くすのを防止するんです。それから、ぴこぴこ、と音が鳴るのが楽しくて、小さな子がお外に出るのが楽しくなる効果があるのです!」

「まあ……! 面白いわぁ! うちの子、おんもが嫌いでねぇ。お散歩行こうかーって誘っても『ヤッ!』て言うんよ。へーーー、ほーーー。お試しに貰ってもええかしら?」

「はい。もちろん」


 くくく……俺だって一条ノ護いちじょうのご家についてなんにも学んでなかったわけじゃないぜ。

 一条ノ護いちじょうのご家当主、美澄様には六歳と三歳の男児がおられる。

 この世界でも男児はお外で遊んで体を鍛えるもんだ。

 外が嫌いとか言ってられない。

 実際、太陽の光は子どもの成長に大きく関係しているって前世の姉が熱弁していたしな。

 六歳の子は微妙だが、三歳の子は歩く度に草履がぴこぴこ鳴ったら楽しくて外に出るようになるだろう。多分。


「そしてこちらの霊符もおすすめです。寝間着に張りつけておくと暗い部屋で絵柄が浮かび上がります!」

「えーと……それはどんな意味があるのかしら……?」

「小さな子が暗い部屋を怖がらなくなりますし、絵柄を見るのが楽しみで寝間着に喜んで着替えるようになるんですよ!」

「なるほど……?」


 こちらはイマイチ理解してもらえない。

 仕方ないので、黒い布に滑り込ませて実際に見ていただく。

 俺は絵心が死んでいるが、お花の柄ならかろうじて描けたぜ。


「あら、ほんまや。桃色のお花の柄が浮かびあがっとる。これが寝間着に浮かぶ柄になるん?」

「はい。私はその……お花しか描けなかったのですが、他にも動物などを描いてあげたら男の子も喜ぶんじゃないかなーなんて……」

「うちの子、夜寝るの嫌がるのよね。もっと遊ぶんだーって」

「うちの子もよぉ。毎日絵柄を変えられるようなら、楽しみで寝間着に着替えて暗い部屋でも寝てくれるかもしれへんわ。こちらもお試しでいただける?」

「はい、もちろんどうぞ」

「うちの子用に一枚もらっていいかしら?」

「どうぞどうぞ」


 九条ノ護くじょうのご本家のお子さんも四歳の女の子だったはず。

 ある意味、俺の義妹になる子のためだしどうぞお持ちくださいって感じよ。


「興味深いもん作りはるなぁ……。これが上手くいくようなら、例の思想を広めとる層の意識が一気に変わりそうやわ」

「ええ。もしかして、それも考慮の上考えてくれたのかしら?」

「ちょっとだけ……そういうのがあれば、子育て世代のご婦人に喜ばれるかなー……なんて……」

「素晴らしい。その調子でうちでも研究を続けてくれまへん?」

「頑張ります!」


 よしよし、かなりウケがいい。

 つまんねー思想なんざ便利グッズでぶっ潰してやんよ!


「子どもが喜ぶような霊符なんて考えなことなかったわぁ。ええねぇ、姪っ子か甥っ子か、早ようお会いしたいわぁ」

「気が早いよ」

「だってこんなに配慮できる子が弟のお嫁さんに来てくれはるんよ。これなら母さんも反対でけへんよ。うちがねじ伏せたるわ。早卒業したらすぐに結婚式あげましょうね。婚約の発表も、来月にはやったろうね」

「早くないか?」

「早ない早ない。こんなええ娘、うちで確保したってしっかり広めとかな!」


 外堀ガツガツ埋めにきてんなぁ。

 いや、昨日有栖川宮のおっさんが直談判に来ていたことを思うと、そっちの方が安心か。


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