第31話 それでも出会ったから
馬車に乗り、
思わず滉雅さんと顔を見合わせてしまう。
小窓からド派手な馬車にある家紋を見ると「ゲッ」と声が漏れそうになった。
あれは有栖川宮家の家紋じゃねーか……!
「お願いいたします! 何卒ご当主様にお目通を!」
「当主は本日来客対応しております。お約束がない方をお通しするわけにはございません。お帰りいただき、お約束を取りつけてからになさってくださいませ」
「そこをなんとか! お時間は取らせませぬ! 以前うちの
目が点になるとはこのことか?
思わずまた、滉雅さんと顔を見合わせてしまった。
あの人は――一度会ったことがある。
クズポンタンの父親……有栖川宮家の御当主。
結城坂家の娘さんって、多分俺、だよな? は、はあ?
『おそらく君の霊力量がどこかしらから漏れたのだろう。君がどこかの家の婚約者になる前に、自分の家の後継の妻に、と考えて直談判にきたのではないか? もしかや、あれは知り合いの家か?』
「知り合いというか……有栖川宮家の……」
『有栖川宮家? ……君の前の婚約者の家か?』
「そうですね」
しかも今度は長男の嫁にって言った?
クズポンタンの兄ってもう婚約者がいなかった?
その辺どうなってんの?
『
「それはないです。私……いや、俺、心が男っていうか……生まれつき性自認が男っていうか……いや、もう全部ぶっちゃけると前世の記憶があるんです。前世の、男だった頃の」
目を丸くされた。
もう信じてもらえなくてもいいやって気持ちで。
それで気色悪いから婚約なし! って話になっても、この人なら友達としてやっていける気がするし!
「だから正直男と結婚するってもう完全に義務として割り切ってたんですよ。結婚しなくて済むならわざわざ男と結婚したくねーよ、みたいな?」
『では、俺とも――』
「まあ……でも、滉雅様……滉雅さんは、友達みたいに接していけそう? だし……?
「……そうか」
若干、先ほどとは違う意味合いのまん丸目で見られた。
急にぶっちゃけ始めたからびっくりされたのかも?
でもこの人の前なら――この人になら受け止めてもらえる気がしたんだ。
そうか、の一言で済まされてこっちがビビるけどな。
「まあ、だから滉雅さん以下の条件の男のところに嫁ぐとかマジ無理って感じ? どーしようなぁ、アレ」
「気にすることもないだろう」
「え」
がちゃ、と扉を開くと、滉雅さんが表へ出る。
そして俺に向けて手を差し出してきた。
……そうだな、それもそうだ。
だってこの人はこの国で一番命を賭けて
「うん」
だから俺も安心して手を重ねられる。
軽やかに馬車を降りると、門扉前にいた有栖川宮家のおっさんが俺を見つけて目を見開く。
隣にいる高身長の軍服の男を見て口まで開け放っちゃって硬直している。
「お久しぶりです、有栖川宮のおじ様」
「あ……あ……ああ……」
ぺこり、とお辞儀だけして門扉を潜った。
その間、有栖川宮のおっさんに引き止められることはなかった。
そりゃあそうだよな、俺の手を握ってくれているこの人は、きっとこの国で一番いい男だもん。
スキップしたくなるほどに、気分最高。
我ながら性格悪ぃなぁ!
『俺も』
「はい?」
『俺も同じだ。
『うん。そうだよな。仕方ないよな』
それでも、とお互い見つめ合う。
家のための婚約だ、これも。
それでも、と頷き合う。
少しでも“素”の自分をさらけ出せる相手と出会って、心を通わせることができる結婚ができたなら、超最高だと思うんですよ。
俺にとってそれはもう、この人だ。
この人にとってのそれが、俺であれたならもっと最高だけど……どうかな?
そうあれるように俺も頑張りたいって思う。
でも、そう思える相手に出会えて、こうして手を繋ぐことができていること自体、相当な奇跡じゃねぇ?
有栖川宮のおっさんよ、どうか俺のことは諦めてほしい。
俺はもう、この人と結婚したいって思う相手と出会ってしまったので。
「おかえりなさいませ。あらあら、すっかり仲良しになられて」
「あ……いや〜……あはははは」
玄関で草履を脱ぐと、迎えの使用人さんに微笑まれた。
確かに……出て行く時よりも、距離が縮まった気は、する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます