第21話 当主含めた対談(1)


 つまり、今回の白窪家両親の失職は、地獄の釜の蓋が開いた、ということだ。

 知らぬは股ゆる女のみって感じか。

 まだまだ地獄は序の口。

 むしろ、頭がお花咲いている股ゆる女は今も男たちとキャッキャウフフの“変わらぬ日常”って状態。

 名士の男子たちも一般的なご令嬢と毛色が違って違って簡単にヤらせてくれる股ゆる女にメロメロになるのもわからんでもないが、ここらが潮時。

 なにより、童貞転がしすぎ。

 暴れすぎたんだよなぁ、あの股ゆる女。

 教室の女子たちがわかりやすく笑みを浮かべて股ゆる女を眺めているのを、あの女はまだ嫉妬の眼差しで見られていると勘違いしているのか。

 俺としてはクズタンポンとの縁を切ってくれたから、多少可哀想にすら思う。

 でもまあ! お前ら両方“過去の人”なので!

 自分のことは自分でなんとかしてくれよなぁ〜♪

 

 


 ◇◆◇◆◇

 

 


 数日後、ついに一条ノ護いちじょうのご本家当主、一条ノ護いちじょうのご美澄みすみ様、その旦那様の一条ノ護いちじょうのご黎児れいじ様とともに一条ノ護いちじょうのご滉雅こうがさんが九条ノ護くじょうのご本家にいらっしゃった。

 対する九条ノ護くじょうのご本家は当主九条ノ護くじょうのごふみ様、その旦那様の九条ノ護くじょうのご斎一郎せいいちろう様、うちの親父、俺――とが広間に待たされている状態。

 やばいやばいやばい。

 全員オーラがやばすぎる!

 親父も完全に緊張の面持ち!

 一番やばいのは帝の次に権威を持つ一条ノ護いちじょうのご本家の当主とその旦那さんがきてるってところ。

 そりゃ、双方“宗家そうけ”ではない。

 本家の方が実権を握り、宗家では直系の血筋を守り、結界を維持することを最優先てているためこういう“雑務”に出てくるわけがないのだが。

 それでも平等な外地の守護十戒しゅごじゅっかいと違って、内地の守護十戒しゅごじゅっかいは順位がある。

 その第一位が一条ノ護いちじょうのご家だ。

 改めて、俺はとんでもない大大名の家と婚約話が進んでいるんだな。

 

「お久しゅうございます、ふみ様。お元気でらっしゃいました?」

「もちろんですわ。それにしても、まさか滉雅様から婚約のお話が来るとは思いませんでしたわよ。美澄様のお母様がよくお許しになられましたわね」

 

 いきなりトップギアでフルスロットルがすぎませんか、ふみ様。

 うちの本家のご当主様が怖い!

 初手からのぶっ込み!

 一条ノ護いちじょうのご家の本家のご当主様が面食らって目を見開いているではないか!

 

「ふ、ふふふ、ほんまに……ふみ様には敵わなんどすなぁ。容赦がないというか……腹の探り合いに慣れ切った内地から出てきてふみ様にお会いすると、なんやなにもかも馬鹿馬鹿しゅう思てきますわ。――ええ、うちのおかんはもう、これ以上自分が口出しすると末っ子が結婚できないとようやっと気づきましたさかい、反対どころか大歓喜ですわ」

「そうでしょうねぇ。早う末っ子の子……孫が見たくて堪らんのでしょう?」

「そうなんですのよぉ。もうはしゃいではしゃいで。今日も次女と三女で相手してるんやけど、もう婚約の話を滉雅が持ってきてからすっかりその気!」

 

 なんかだんだん井戸端会議みたいな感じになってきたぞ……?

 もしかして、うちの本家当主めちゃくちゃすごい……?

 二人の怒涛の世間話に、俺たちはポカーン状態。

 旦那さん方までも。

 ……っていうか、両家ともに当主は女性なんだなぁ。

 守護十戒しゅごじゅっかいの家の当主が女性なのは、法で『守護十戒しゅごじゅっかいの家は男女性別問わず“長子ちょうし”が家を継ぐこと』と定められているからと習った。

 長子とは“最初に生まれた子”だ。

 法で定められているから、守護十戒しゅごじゅっかいの家に生まれたら能力関係なく、本人の意思も考慮されることもなく長子が家を継ぐ。

 俺が家を継がずに家から出る予定だったのは、俺の実母が多額の借金を残して消えたから。

 本家に借金を肩代わりさせ、本家に迷惑をかけてしまった上、分家の中で維持する必要がなかった。

 好きなように生きられるのは助かるが、守護十戒しゅごじゅっかいの家に生まれた者はそうはいかない。

 滉雅さんが次期当主というわけではないのも、長子ではないから。

 調べたが、滉雅さんには姉が五人もいる。

 こちらの美澄様は長女。

 だからこそ現在は美澄様が当主を務め、本家とその分家をまとめ上げている。

 ふみ様も同じ。

 そこだけは内地も外地も関係ない。

まあ、内地と外地って言われても目的は同じ……結界の維持だ。

 

「聞いた話やと舞はんは霊力量が一等級なんやて?うちも霊力量は一級やけど、規格外と言われる一等級やなんてすごいわぁ」

「わたくしも舞さんの再計測結果を聞いた時は度肝を抜かれましたわ。再計測前は『いくらなんでも分家の娘さんを一条ノ護いちじょうのご家に嫁がせるなんて』と躊躇ためらったものですが、一級の上の一等級なら胸を張ってお出しできます。むしろ我が家の分家からそれほどの霊力量の娘が出せるなんて、鼻が高い」

「ほんまやわぁ。公表したらしばらく社交界はこの話題で持ちきりになるやろうね。いやあ、滉雅もええ娘はん見つけてきたわぁ」

 

 なんかマジでめちゃくちゃ褒められてる!?

 え、え!? 俺の霊力量ってそんなに褒められるようなことだったの!?

 俺も女になって十七年、それなりに空気は読めるようになったから、二人の空気がバチバチって感じには見えないけれど……。


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