第20話 始まる転換期
滉雅さん二回目の来訪から一週間。
親父には「正式に婚約が決まり、お披露目と公表がされるまでは誰にも言わないこと。伊藤さんにもだ」と釘を刺される。
まあ、それは当然だよな。
今の時点だと滉雅さんの希望と我が家の希望が合致しているだけ。
むしろ親父に代わり、
結城坂家はもう俺と親父だけ。
最初の婚約話も
それになにより結城坂家――親父と俺の家名はどのみち消える。
俺が婿養子でも迎えなければ家の存続は絶望的。
言うてこんな借金のある家に、嫁いで来たい男なんているわけないしね。
俺も結婚するくらいなら働いて生計を立てて一人で生きていこうって思ってたから、結城坂家はまあつまり跡取りがいない!!……ってこと。
だから
餅は餅屋ってやつだよな。
で、俺はと言うと普通に穏やかに学生生活を送っている。
休み時間や昼休み、放課後になるとあのクズポンタンがチラチラ顔を見せに来るが、クラスの男子が用件を聞くようになってくれたので俺への接触はほぼ不可能。
クズポンタンの嘘の噂を信じて俺に対してによによしていた奴らだが、あの暴力事件後は完全に手のひらを返し『婚約破棄した子女に嫌がらせをしている、天道国男児にあるまじき姑息な男』と噂するようになった。
まあ、央族っていうのはつまり貴族だ。
貴族といえば足の引っ張り合い。
暴力という明確な“弱味”に全員がつけ込んでいる形だ。
俺との婚約破棄、からの暴力事件のせいでクズポンタンの立場は「よく外を歩き回っていられるな」という感じ。
有栖川宮家は「次男とはいえ男児なので高校を卒業させないわけにはいかない」という考え方。
多分家からは俺に関わるな、というお達しがいっているはずなんだがなんでか諦めないんだなぁ?
前世のザマァマンガの不倫夫みたいに、同じ言語を使っているのに話が通用しない。
懐かしいよな……「不倫したくらいでこんなに話通じなくなるわけないじゃん」って笑っていたが前世の俺よ……浮気男はマジで話が通じなくなるぞ!!
根拠は今世の俺!
浮気、逆ギレで暴力のクソ三点セット!
ま、このままなら卒業まで関わらなくて済むだろう、多分。
「結城坂様、お聞きになりました? 白窪様のこと」
「はい?」
花嫁教科の一年生の時の教科書を読み直していたら、
白窪っつーとあの股ゆる女。
で、
あの股ゆる女の不幸話とかメシウマだろ! 聞きたい聞きたい!
「白窪様のお父様、仕事先から解雇されたそうですわよ。お母様もご奉公に行っていたお家からお断りされて、次の奉公先を探していらっしゃるんですって」
「まあ……」
始まった。
クスクスと笑いがこらえきれない様子の
隣で
うーん、女ってコワイ……。
しかし股ゆる女の両親の失職は、家の収入を断つことになる。
このあと十数軒の家から損害賠償を請求されることを考えると、家の収入が断たれた意味は大きい。
股ゆる女には転職だろうが、遊郭に売られることだろう。
可哀想だが、股ゆる女の母親も。
親父さんもまともな生活はできないだろうなぁ。
きっとそれでも支払いきれない金額だ。
まあ、央族として教育を受けてきているから、頑張れば遊郭の頂点――花魁も目指せるんじゃない? 顔も悪くないし。
問題は央族の教養が、あの股ゆる女に残っているかどうか。
「でも、あの方のために取り巻きの殿方たちがお金を出したりしないのかしら?」
「そんなこと無理よ。わたくしたちまだ学生なのよ。陽子さんったら、そういうところが世間知らずって言われるの」
「むぅ……」
そう、それは確かに心配だが、内地の本家や宗家レベルでなければ今後白窪家が被る賠償金を肩代わりするのは到底無理。
内地のそういう大名家や名士が、そんな巨額の借金を持つ娘を引き取るとも思えないしな。
うちの学校、内地の大名や名士の子息は一人しか通ってない。
旨味もない女を囲いたいというのなら、言い出した男ごと切り捨てる。
一緒に地獄に落ちてまで、あの女を助けたい、なんて思う央族の男、いるとは思えないんだよなぁ。
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