第22話 当主含めた対談(2)
「では、もう少し具体的な話に移ろうかのう」
「そうですわね」
先ほどまでの和やかな空気が急に剣呑なものに変わる。
ようやく茶を啜っていただけの男性陣が背を正す。
話し合われたのは結納金の金額。
婚約の発表時期。
結婚式の場所、新郎新婦の衣装をどこで仕立てるか、式の段取りのやり方をどちらの家のしきたりでやるか、招待する来賓の数、誰を招待するか、その後の新居、新居で働くお手伝いさん、嫁入り道具の種類とどこで購入するか、等々……。
めっっっっっちゃ決めることいっぱいあるーーーーーーーーー!?
そして飛び出す金額が
隣の親父を見ると宇宙猫みたいな顔になってるよ!
双方の旦那さんたちが紙にサラサラ二人の話し合いで決まることをメモしたり、計算して金額を見せ合い、調整しながらどんどんサクサク決まっていく。
特に俺にかかる金額が聞いたことのない金額で震えが止まらない。
「舞さんと滉雅さんはなにか希望などあるかしら?」
「俺は……」
ふるふる、と首を横に振る滉雅さん。
この金額に異論がないと!?
「舞さんはいかがかしら?」
「あ、あの……そ、そんなに、お金……」
「
「え……っ、あ……うっ……は、はい。わ、わかりました」
見栄、ってやつか。
そりゃあそうだよなぁ、央族の中でもトップの十の家。
その中で、一際重要な順位一位の家へ嫁ぐのだ。
お家総出でド派手に嫁がせることで、権威を示さねばならない。
そう言われたらもう、俺はなんも言えねー。
そこに俺の意思など介入しようがないのだ。
俺が
いや、それはそれで寂しいけれどさ。
別に二度と会えなくなるわけじゃないしね?
「それよりも、結婚後は内地の
「は、はい。それはもう」
俺に選択肢などございませんし。
「そうやわ、滉雅から舞はんは霊術と霊符の研究をしとるって聞いたんやけど」
「は、はい。危険の少ない、人の生活の役に立つものを開発していきたく思っております。ですがあの、嫁としての務めを疎かにするつもりは――」
「ええのよ。滉雅にも色々見せてもらいましたから。確かにこの口下手な子と話をするのに例の霊符は非常に役立ちそうやし、
マジか!
認めてもらえるのか、今までのように、霊術と霊符の研究を!
美澄様はにこりと微笑んで「滉雅に頼まれてますし、お屋敷に研究室もこさえて差し上げましょね」と言ってくださった。
女神……?
「よ、よろしいのですか!? 本当に!?」
「国の役に立つかもしれん研究に支援するのは
「霊術や霊符の研究を、妨害する団体……?」
なんじゃそりゃ、と思ったが、そういえば小百合さんの思想と滉雅さんの部下の人が言っていたことが真逆で違和感があった。
美澄様曰く、『近未来幸福の会』という名前からして近づかない方がよさそうな団体が、十年ほど前からゆっくりと自分たちの思想を社交シーズンを通じて広めて浸透させている、という。
その思想というのが『女は家を守り、男は外で稼ぐ』『霊術や霊符は危険なもの。開発や製造は専門家がやるべきで、日常使いすることは霊術や霊符を開発した先達に対する無礼であり、専門家への敬意が足りないことになる』などなどの、霊術や霊符を人々から遠ざけるもの。
俺もまた、先ほどの親父のように宇宙猫の顔になっていたと思う。
な、な、な、な、なんっじゃそりゃああああーーー!?
「な、なぜそのような思想を広めているのですか!?」
「簡単に言うと外国からの干渉ですわ」
「外国からの……干渉……!?」
「そうどす。外国の者たちからしても我が国の力を削ぐことは諸刃の剣だというのに……千年
舌打ちでもしそうなほどに、美澄様とふみ様の目つきが鋭くなった。
三百年ほど昔、技術が進んだ外国から少しずつ船がこの国に現れるようになったのは歴史の授業で学んだ。
最初は戦争でも仕掛けて天道国を乗っ取ろうとした外国の国々は、この国が
日々
国交という形で、交易を持ちかけてきたのだ。
国として利益になるのなら、と時の帝が配慮し、安全な交易拠点として鈴流木家の中でも霊術に特化した“
外国の進歩した科学技術や、文化が入ってきて町も央族も近代的な変化を取り込み始めたが……外国はそれによる“思想”も我が国に持ち込み、内側から弱体化を狙い始めたという。
その思想の種が『近未来幸福の会』というやつ。
外国の侵攻を阻んだこの国独自の“力”である霊術や霊符を、危険なものとして人々から取り上げていこうとしている。
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