第14話 癒しの文通


 保健室で手当てをしてもらい、ようやっと帰宅。

 親父に絶対チクる……!

 嫁入り――する気はないが――嫁入り前のよその娘の顔を殴るとは、頭おかしいだろあいつ。

 前世で横取り女にまんまとハマった男は頭お花畑に描かれることが多かったが、「こんな馬鹿になるわけないだろ」って笑ってた。

 そんな笑ってた前世の俺へ……横取り女に盗られた男、全っっっ然ダメだわ、頭!


「はあ……ん? あれ、手紙が届いている……あ!」


 集信箱――いわゆるポストに手紙が入っている。

 さっきまで最悪の気分だったが、集信箱に入っていた手紙の送り主名を見て気分上昇。

 最近の俺のご機嫌は、全部この手紙のおかげと言っても過言ではない。

 一条滉雅……一条ノ護と書くと色々“障り”があるから、そう略して書いてある、隊長さんからの手紙だ。

 先日来た時に手紙をいただければ質問に答える、と伝えて帰ってもらったのだが、あの人、後日マジで手紙を書いてくれた。

 俺に対して霊術はどんなものを使えるのか、どんな研究、勉強をしているのかの質問が書いてあったのだ。

 さらに先日渡した霊符――『自己防衛』をまた譲ってほしい、とも。

 もちろん同封してお送りしたら、『とても役に立った。ただ、複数の禍妖かようが同時に襲ってきた場合、発動に時間がかかった。また、一匹の禍妖かようを捕らえて他の禍妖かようがの話状態になったため、吸引機能などつけられないか?』と使用の感想をつけてくれる。

 あくまでも身を守るためのもの、襲われた時に禍妖かようへ隙を作るものなのだが確かに複数個体で襲ってこられた時に大変かぁ、と納得してしまった。

 それだけでなく私が考えていた生活に使える霊術についても話した。

 火を起こす霊術は『野宿になった時などに大変重宝している。他の隊員にも使い方を教えてもいいか?』なんで感想をもらって嬉しくなったよなぁ!

 小さな灯りを灯す霊術も、『新月の夜の討伐対象探しにものすごく役立っている』と言われて、もうずっと絶賛の言葉が並んでて気分いいに決まってる。

 滉雅さんへの好感度上がりまくってるよ。

 滉雅さん、最高! 大好き! アンタになら嫁ぎたい! とまで思う最近!

 まあ、さすがに身分が違いすぎるから無理だけどな。

 こうして俺の研究を理解してくれる人がいるのは心強い。

 もう少し仲良くなったら、就職先紹介してもらえないかなー。

 滉雅さんなら“女だから”と就職先を限定したりしないと思う……多分。

 ウキウキ家の中に入って、家着に着替えて手紙を開封する。


「ふむふむ……なるほど……。確かになぁ。うんうん……よし、じゃあ次は……」


 最初の方は前回送った霊符の使用感想。

 前回送ったのは、道を覚える霊符。

 一度歩いた場所を霊符が覚えて、帰り道に通った道を光蛍のようになって案内する、というもの。

 今までは赤い紐などを木々にくくりつけて目印にしていたらしいが、これにより時間短縮に成功した。

 だが、帰り道を案内する光の玉が小さくて、十人以上の部隊隊員数人が光の玉を見失ってしまったという。

 それに、昼間だと光の玉は見えにくい。

 夜道の一人歩きを想定していたから、その感想は納得しかない。

 要改良ってやつだな。

 戦闘に関する霊術や霊符の研究は、専門の研究所がやるから、俺が提案する霊術や霊符はもっぱらサポート専門。

 こういう感想がもらえるのは、研究に役立つ。


「……ん?」


 ふむふむ、なるほど、と冊子にメモを取っていると、手紙の末尾に『遠征が終わり、近日中に央都に帰る。都合が合うようであれば、また舞殿の料理を振る舞ってもらうことは可能か。霊力を補充させていただけると、次の任務の時に活かせるのだがいかがだろうか』と締められていた。

 あー……忘れてたけど、俺の手作り料理って霊力含有量がかなり多いらしい。

 親父に言われて自分の霊力量を再検査した結果――俺の霊力量は内地守護十戒しゅごじゅっかいの宗家の令嬢並み……あるいはそれ以上との太鼓判をいただいてしまった。

 霊力量は等級で分けられ、量が多ければ一等級、少なければ六等級……のようなランク分けされており、俺はなんとその一番上の一等級。

 多すぎん? びっくりしたわ。

 現在央都で一等級の量を持つのは滉雅さんの実家である一条ノ護女性数名のみ。

 俺はこんな分家の末端なのに一等級の霊力量を持っていると診断されて、結城坂ウチの本家に当たる九条ノ護くじょうのご本家の人たちが大騒ぎになったらしい。

 一気に縁談が増えると思ったら、親父が本家に言われた指示っちゅーか願望は「一条ノ護いちじょうのご家の滉雅こうが様と、なんとか婚約まで持っていけないものが」というものだった。

 そんなん俺が決めるこっちゃねーよ! なあ!?

 いや、まあ……滉雅さんのことは……嫌いじゃない。

 いつも俺を“女”として軽んじる内容が一切含まれておらず、しかし、気遣いの言葉が見受けられる。

 優しく誠実で、俺を“女だから”と見ているわけでなく……“結城坂舞”という人間として見てくれているのが伝わってくるのだ。

 この人の妻になれたら幸せだろうな、と思う。

 でも……前世男の俺は女として幸せになれるんだろうか?

 というか、個人として見られて喜んでおきながら、女の部分が“女として”見られていないことに不安や不満を感じているのも事実。

 俺クソ面倒くせぇ。

 でも、やはり安心感も大きい。

 複雑なんだよな。

 それに、俺を選ぶかどうかは滉雅さん次第だろう。


「とはいえ、任務のために飯食いに来たいって言われたら……うーん……ま、普通に親父に相談だよな」





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