第15話 再会の昼食会(1)


親父に相談したところ、会うことは了承していいが本家から『次に会う時は本家が金を出すので、懇意にしている料亭にしてほしい』と指示が来ているらしい。

なので「周りが無理にくっつけようとすると逆に上手くいきませんよ。あと、私の料理で霊力の補充をなさりたいそうですから料亭は無理です」と真顔で言い放っておいた。

 家同士で婚約話を進めた結果、婚約破棄に至っている俺が言うと説得力があるだろう?

 しかし、さすがにこめかみを殴られたと聞いた時の親父は怖かった。

無言で立ち上がって玄関に行こうとするので「どちらに!?」と聞いたらどすの効いた冷淡な声で「有栖川宮家だ。すぐに戻る。家の戸締りはしっかりしておくのだぞ」とか言われて冷や汗かいた。

 せめて先に本家に報告してくださいませ、と縋って止めてようやく茶の間の座布団の上に戻って座ってくれたけれど目が血走ったままでめっちゃ怖かったわ。

 でもまあ、嫁入り前の娘を殴られ、しかも顔に青タンこさえて帰ってきたら普通の親なら切れるか。

 いや、結婚前とか関係なく暴力振るうやつはクズだろ。

 あいつただのスカポンタンじゃなくクズポンタンだったんだな。

 ま、親父がここまでブチギレてくれたなら、有栖川宮家も証拠がないからと逃げ回るのは難しかろう。

 問題はあれだ、滉雅さんが来るのが三日後。

 こめかみだから髪と化粧で隠せると思うが、痕とか見られたらヤダなぁ。

 

 

 

 とか考えていたらあっという間に三日後。

 会う場所は前回と同じく俺の家。

 昨日仕込んでおいた出汁を使って、朝から食事作り。

 伊藤さんも手伝いに来てくれたが、俺が作って霊力を込めなければいけないから皮を剥いたり使い終わった道具の後片づけなどをお願いした。

 

「滉雅様とはお手紙でやり取りしていたんでしょう? どんな方なの?」

「すっっっっごーーーーーく、いい方です! クズと比べるのもおこがましいほど人間として格が違うと言いますか!」

「ああ、有栖川宮家の坊ちゃん、舞ちゃんのこと殴ったんですってね。本人も認めたとか」

「はい、そうなんです。私を殴ったこと、悪いことだなんてまったく思ってないんですよね。あのクズ」

 

 なかなかストレートに暴言吐いているのだが、伊藤さんも「女の子の顔を殴るなんて、本当にあり得ないわよねぇ」と頬に手を当てがって顔をしかめる。

 だよねだよねー、意味わからないよね~。

 一昨日……アホに殴られた翌日親父が本家に乗り込み、俺が殴られたことを九条ノ護くじょうのご本家に報告しに行った。

 その後本家から有栖川宮家に苦情が入り、「また賠償金払ってもらうぞゴルァ」としてもらったのだ!

 今の俺は本家にしてみると一等級の霊力量を持つ金の卵を産む雌鶏めんどり

 傷つけられたらめっちゃ怒ってくれる!

 ついでに俺の霊力量の多さがだんだん広まってきているせいで、有栖川宮家は「賠償金を払ったので、婚約破棄の件も白紙にして再び要と婚約を」とか言ってきていたらしい。

 面の皮が厚すぎる。

 だが今回俺を殴った件を本人がまったく反省もしておらず、正当性を主張し腐りやがったために有栖川宮家も「なんも言えねー」と白旗状態。

 俺との再婚約は向こうもあり得ない、ということに落とし込んだ。

 いやあ、やっぱ守護十戒しゅごじゅっかいの本家があると強いわ~。

 それに被害届を出さない代わりに賠償金という名の慰謝料をかなり増し増しにしてもらったので、クソババアの残した借金も残すところ二百万程度まで減った!

 これなら俺が就職できれば、親父と二人で働いて二年以内には返済できる!

 あとは俺の学費と俺と親父の生活費の一部。

 本家から「こちらの指定した相手と結婚すればチャラ」的な提案をされても不思議ではないが、滉雅さんのおかげでそれもない。

 もちろん、滉雅さんと結婚できなければそういう提案もされるだろうけれども。

 最近俺は滉雅さんとなら結婚してもいいと思えている。

 どうせ央族の女は結婚して家を継ぐ男か、家の地位を支える霊力の高い女、そういう子どもをたくさん産むことを求められるのだ。

 親父は俺に結婚しないなら就職して女一人でも自立した生活が送れるように、と言ってくれたが、それがどんなに難しいことか……就職先を探し始めてから身に染みて理解できた。

 霊術や霊符を日常生活でもっと身近に、気軽に、ってそんなに悪いことではないはずなのに。

 俺のそういう考え方を理解して、頼ってくれたり改善点を提案してくれる滉雅さんの存在は日に日に大きくなり、そして甘えそうになる。

 友達じゃないし、友達だとしても自分の能力や作るものがあの人の生きる世界で役に立つかどうかまだ自信がない。

 だって、俺の霊符や霊術を認めてくれているのって今のところ滉雅さんと滉雅さんの部隊の人たちだけなんだよな~。

 だからもしも、滉雅さんが俺の霊力量を魅力に感じて結婚を申し込んでくれるなら……断る理由はない。

 まあ、家格から言っても断る選択肢がないんだけれど。

 本家からも全力で推奨されているし。

 結局は滉雅さん次第。

 滉雅さんも家の意向とかあるだろうし……。

 

「美味しそうにできたわね。これならきっと滉雅様もお気に召してくださると思うわ」

「そうだと嬉しいです」


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