第18話 スキルの考察
それぞれの称号やスキルを整理して、お互い共有した方が良いかも知れない。とその前に――。
「アドちゃん、ブルーボアって食べられるのかな?」
――チリ、チリン。チリンチリンチリチリン。
僕はひなちゃんを見た。ひなちゃんは賢いから、何も言わなくても翻訳してくれる。マジ天才。
「えとね、ぶるーぼあ? は『まもの』なんだって。お肉はくせがあるけど、食べられるんだって」
「へぇ、そっかぁ。ありがとうね、アドちゃん、ひなちゃん」
ひなちゃんにお礼を言って頭を撫でると「えへへ」と照れながら笑顔を見せてくれる。ひなちゃんの笑顔に見惚れていると、アドレイシアが小さな頭を突き出していた。
……撫でろ、ってことかな?
恐る恐る人差し指の腹で優しく撫でると、アドレイシアがほんのりと頬を赤くしながら笑顔になった。
え、何コレ。めちゃくちゃ可愛いじゃん。
ま、うちの天使には敵わないけどね。最初はガラス玉のような目が少し怖いって思ったけど、一緒にいるうちにそんな気持ちはなくなった。クルクルと変わる表情は感情をとても素直に表していて、精霊は純粋な存在なんだろうな、などと思っている。
「食べられるなら、苦労して倒した甲斐があったっすよね、開星さん?」
「そうだねぇ。これで食べられないって言われたら疲れが倍になってたよ」
勇太に対しては、強大な敵と共に戦った同志のような感情が芽生えている。僕の半分以下の年なのに凄く頑張ってたもんな。さすが男の子だ。
「そのブルーボアってどんな動物……じゃなくて魔物なんですか?」
「あー、見た方が早いよね。勇太?」
「はいよ!」
勇太がアイテムボックスからブルーボアを出した。森の外で見ると改めてその大きさに驚くなぁ。
「…………でっか」
由依ちゃんの感想はたったひと言だった。ひなちゃんに至っては、びっくりして言葉も出ないようだ。怖いのか、僕の後ろに隠れてしまった。
「お父さん……?」
「大丈夫、あれはもう動かないからね」
「ほんと?」
「本当だよ」
ひなちゃんを安心させるため、目線を合わせて優しく頭を撫でた。
「これ……食べるの?」
由依ちゃんが凄く嫌そう。まぁ、そうだよね……僕たちがこれまで食べてきたお肉は全て加工されたもので、牛とか豚とか原型のままスーパーで売られていることなんかない。死んだ獣、それも物凄く巨大な獣を見て、普段目にする「肉」と結びつけるのは難しいと思う。かく言う僕もちょっと引いてるからね。
「勇太……しまっておこうか」
「そ、そうっすね」
アイテムボックスの中は時間が止まっているようだから、ブルーボアが腐敗することはない。どうしても必要になるまでは収納しておこう、勇太のアイテムボックスに。
ということで今夜はバーベキューを止め、いつもの牛肉・豚肉・カット野菜をスキレットで炒めて塩胡椒で味付けしたものを供することにした。まぁ、いわゆる野菜炒めだ。米が欲しくなるが無いものは仕方ない。ビールを飲みたいが鉄の意志で我慢する。
食後にそれぞれのスキルを共有しないか、と話を持ち出した。言いたくないことは言わなくていいけれど、お互いどんなことが出来るのか知っていた方が良いと思ったからだ。由依ちゃんと勇太は快く賛成してくれた。ひなちゃんは「すきる?」とポカン顔だ。ポカン顔のひなちゃん、思わずタブレットで激写したよね。保存、保存っと。
共有するために自分のステータスを確認してみる。
■称号:忍ぶ者
■スキル:認識阻害、偽装、看破、平常心、俊足、短剣術
ん? だいぶ増えてるな……。
昼間ブルーボアと戦ったときに、平常心と俊足、短剣術はアナウンス音声が聞こえた気がするけれど、「看破」は全く覚えがない。もしかしたら狼とやり合った時だろうか。あの時は夢中だったし、その後すぐ気絶しちゃったからなぁ。
・スキル:看破……敵対者の弱点を見抜きやすくなる。
・スキル:平常心……必要なときに落ち着くことが出来る。
・スキル:俊足……半径5メートルの範囲で通常より2倍速く動ける。
・スキル:短剣術……短剣を上手く使えるようになる。
何と言うか、ざっくりした説明と的を射た説明が混在してるな。だがどれも有用なスキルに思える。
そう言えば「アナウンス音声」について深く考えてなかったけど、これもかなり気になる。普通に考えたら、頭の中で勝手に知らない声がするって相当気持ち悪いよね。まるっきりゲームみたいだ。
今のところアナウンス音声が聞こえるのはスキル獲得時だけ。これが異世界からの召喚者「賢人」だけに起こることなのか、それともこの世界の人たちはみんな聞こえるのか、はたまた僕たちだけなのか。それによってこの音声が持つ意味も変わるような気がする。
「さて、じゃあ僕のスキルから」
勇太と由依ちゃんに自分が今持っているスキルを全て伝えた。
「なんか、スキル多くないっすか?」
「だよねぇ。これ、獲得する条件とかあるのかな?」
「あ、私何となく分かるかも」
僕の疑問には由依ちゃんが手を挙げてくれた。
「さっき、開星さんを綺麗にしてあげなきゃ! って思ったんです。そしたら『浄化魔法』のスキルを獲得したんですよね」
「えーと、つまり?」
「そういう思いとか、必要性に応じて与えられる、みたいな?」
う~ん……それだと都合の良いスキルが無尽蔵に獲得出来てしまうんじゃないだろうか。
「称号によって何か制限があるんじゃないっすか?」
「なるほど」
今のところ推測でしかないけれど、称号によって授かるスキルに制限がある。そしてスキルは強い思いや命の危険を伴う必要性に応じて獲得できる。一応そんな感じで納得した。
由依ちゃんのスキルは治癒魔法(初級)と浄化魔法(初級)。勇太のは斬撃(弱)、危険察知、見切り、足捌き、長剣術。(初級)とか(弱)とかわざわざ付いてるってことは、それより上位のスキルがあるんだろう、中級とか強とか。
僕たちがそんな話をしていると、僕の膝の上に座っていたひなちゃんが船を漕いでいた。
「ひなちゃんのスキルは……そのうち聞けばいいか」
テントの中におネムなひなちゃんを運び入れ、由依ちゃんに後を任せた。アドちゃんも一緒にテントに入る。精霊って眠るのだろうか。僕と勇太はこれまで通り外で見張りだ。交替で仮眠は取るけれど、そろそろ体を伸ばして寝たいなぁ……。
勇太と二人、焚き火台の上で燃える火を見ながら、何となく話題を振った。
「佑、大丈夫かなぁ」
「あいつなら大丈夫ですよ。地頭の良さが突き抜けてますから」
ほうほう。どういうことかな?
「佑は……優秀な両親と、更に優秀な兄貴たちがいて……たぶんですけど、そんな兄貴たちと自分を比べて、劣等感に悩んでたんだと思います」
両親とも医者で、上のお兄さんは研修医、下のお兄さんは医学部在学。佑も医者の道へ進むことを期待されていた。だが佑は、自分は兄たちを越えられないと思い込んでいた。
「あいつの親や兄貴たち、すっごく良い人たちなんす。あいつには好きな道を選べば良いって言ってくれて。だけど、それが余計にプレッシャーだったみたいで」
思春期特有の反抗心かも知れない。兄たちを越えられず、自分が進みたい道もよく分からない。その結果、佑は現実から目を背けた。ラノベや漫画、アニメに没頭するようになったのだそうだ。
「異世界リテラシーが一番高いんすよ、佑は。その上頭も切れる。あいつが皇都に残るって言うなら、あいつの中でそうする理由が絶対にあるはずっす」
「信頼してるんだね、佑のこと」
「そ、そうっすか、ね?」
勇太は恥ずかしそうにそっぽを向き、ポリポリと頬を掻いた。
「勇太はどうなの?」
「俺っすか? 俺は……普通っすよ」
由依ちゃんとは小学校からの幼馴染。両親と姉が一人。家族も平凡、自分も平凡だと言う。
「何て言うか……学校ではムードメーカーみたいな扱いですけど、本当は俺、臆病なんすよね」
「そうは見えないよ? 今日の猪相手に一歩も引かなかったじゃない」
「あれは開星さんがいてくれたからですよ」
僕の戦う姿に、一緒に頑張れば勝てそうだと思ったらしい。それはそれで嬉しいような、ちょっと危ないような気がする。
「頼りにしてるよ」
「そ、そんな! 俺の方こそ、開星さんみたいな大人の人が居てくれて、物凄く助かってますって!」
そんな風に言われて、今度は僕が照れる番だった。顔を逸らして頬を掻く。
彼らの為にも、一日でも早く安全で落ち着ける場所を見付けないと。それが大人である自分の責務だろう。ひなちゃんはもちろんだが、この子たちも僕が守らなくてはならない。
「勇太、そろそろ交替で寝――」
――チリリリリリリ!
僕の言葉は、警戒音のようなアドレイシアの声に遮られた。テントの方を振り向くと、闇に乗じて何かが動いている気配がした。
「いや! 止めて!」
「黙れ、殺すぞ!?」
由依ちゃんとひなちゃんが突き飛ばされるようにしてテントから転がり出た。その後ろには、ナイフを手にした二人の男。
「おい、お前ら! 武器を捨てろ!」
「ふぇ……」
ひなちゃんが今にも泣きそうだ。その首筋に、ナイフの先が突きつけられている。僕の頭は一瞬で怒りに染められて、
『【スキル:平常心】が発動しました』
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