13
あれから何日か経った。
木徳のことも、あのゲームショップのことも、店長がどうなったのか、そんなことからも私は距離を置いていた。どうしても、気にする気分になれなかった。
理由は、只野。彼女は変わってしまった。きっと、変わってしまったんだと思う。
以前の絵を見せてもらった。柔和で、優しくて、ここでは無いどこかに思いを馳せるような絵だった。どちらかと言えば、好きだと思った。
でも今の只野は、彼女の絵は……。
忘れよう。只野とは、それでも友達としての付き合いは続いていた。家のことも私に話してくれる。名前で呼んでくれるようにもなった。そんな嫌な部分には、目を瞑っておこう。
そうして私は、ここ最近は家でRTAに打ち込んでいた。
部長から返してもらったイースⅤだった。もう少しで、世界記録に手が届く。
私が、私の存在理由として焦がれていた、世界記録。
取った後の世界の見え方を、想像しながらコントローラーを操作する。
もうすぐ。
良いペース。
もうすぐ。私は、記録に名を残せる。
もうすぐ……
――私には、もう何も無いわ。
顔。
梅津の、あの顔が、脳裏によぎって。
手が止まった。
記録を前にして、夢の手前で手が止まる。
もし、もし私が、このまま世界記録を達成したとして、
そのあとはどうする?
あの梅津のように、絶望的な虚しさが湧いて来たら、どうすれば……
怖くなった。死なんかより、ずっと怖いものがそこにあった。
私は、泣きそうな顔になりながら、世界記録の直前で、スーパーファミコンの電源を落として、測定タイマーを止めた。
そうすることで、まだ私に熱量があることを確認する。
いや、まだそんな熱があるのかもわからない。
私はRTAコミュニティへ行き、臨終を呼んだ。こんな気分を、カビちゃんならどうにかしてくれると思って、臨終を代わりにした。
でも、どれだけ呼んでも反応はない。眠るような時間じゃないのに……
――臨終は最近マイナーな海外ゲームを走っている。
――ケイン・ザ・バンパイアは、マイナーな海外ゲームだ。
――そんなマイナーなゲームを走る人間が、被ることはほぼ無い。
そんな三段論法に今更気付いて、私は臨終を失ったことを実感した。
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