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 あれから何日か経った。

 木徳のことも、あのゲームショップのことも、店長がどうなったのか、そんなことからも私は距離を置いていた。どうしても、気にする気分になれなかった。

 理由は、只野。彼女は変わってしまった。きっと、変わってしまったんだと思う。

 以前の絵を見せてもらった。柔和で、優しくて、ここでは無いどこかに思いを馳せるような絵だった。どちらかと言えば、好きだと思った。

 でも今の只野は、彼女の絵は……。

 忘れよう。只野とは、それでも友達としての付き合いは続いていた。家のことも私に話してくれる。名前で呼んでくれるようにもなった。そんな嫌な部分には、目を瞑っておこう。

 そうして私は、ここ最近は家でRTAに打ち込んでいた。

 部長から返してもらったイースⅤだった。もう少しで、世界記録に手が届く。

 私が、私の存在理由として焦がれていた、世界記録。

 取った後の世界の見え方を、想像しながらコントローラーを操作する。

 もうすぐ。

 良いペース。

 もうすぐ。私は、記録に名を残せる。

 もうすぐ……

 ――私には、もう何も無いわ。

 顔。

 梅津の、あの顔が、脳裏によぎって。

 手が止まった。

 記録を前にして、夢の手前で手が止まる。

 もし、もし私が、このまま世界記録を達成したとして、

 そのあとはどうする?

 あの梅津のように、絶望的な虚しさが湧いて来たら、どうすれば……

 怖くなった。死なんかより、ずっと怖いものがそこにあった。

 私は、泣きそうな顔になりながら、世界記録の直前で、スーパーファミコンの電源を落として、測定タイマーを止めた。

 そうすることで、まだ私に熱量があることを確認する。

 いや、まだそんな熱があるのかもわからない。

 私はRTAコミュニティへ行き、臨終を呼んだ。こんな気分を、カビちゃんならどうにかしてくれると思って、臨終を代わりにした。

 でも、どれだけ呼んでも反応はない。眠るような時間じゃないのに……

 ――臨終は最近マイナーな海外ゲームを走っている。

 ――ケイン・ザ・バンパイアは、マイナーな海外ゲームだ。

 ――そんなマイナーなゲームを走る人間が、被ることはほぼ無い。

 そんな三段論法に今更気付いて、私は臨終を失ったことを実感した。

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