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 本日の采女涼香は、アルバイトに勤しんでいた。

 この町では、唯一存在する中古ゲーム専門店だった。ファミコンから、プレイステーションから、その他メガドライブやPCエンジンや、果てはバーチャルボーイなども、ある程度揃えて販売してある本格的なゲームショップだった。こんな地域に対して、身の丈に合っていない程の品揃えだ、と働いている采女も思っていた。

 店自体は広く、駐車場もあるが、周辺にはカレー屋や回転寿司くらいしかない。駅からも近いわけではなかった。

 最新ゲームばかりが売れているため、その棚が入り口に一番近い所にあり、その他レトロゲームは、邪魔そうに奥に追いやられていた。たまに中年男性層が見に来るくらいで、子供に人気はない。せっかく、ここにはプレミアゲームを並べてあるガラスケースだってあるって言うのに、そんな所まで見回る人間は、客の中ではあまり見かけなかった。

 采女の先輩に当たる女の店員が、プレイステーション1のメモリーカード売り場を整理している時だった。

 値札のついていないものが、何故かここに混ざっている、と先輩は騒いでいた。

「どうしたんですか」采女は尋ねると同時に、状況を理解した。「値札が無いって……」

「きっと店長がズボラこいて、適当に査定前の商品を混ぜたんだわ」先輩が憎々しげに口にした。「しかも十枚ぐらいある。ちゃんと使えるかどうか調べないと、お客に文句を言われても知らないんだから」

 口うるさい先輩は、レジの奥でサボっている店長に、そのことを直接尋ねると、店長は先輩を見ないで適当に答えた。無責任というか、本当に信頼を置いてはいけない大人の見本みたいな中年男性だった。頭の毛も薄く、身体も太いが、何故か逞しさを感じる。

「なら、お前たちが動作チェックしておいてくれ。値段は、他と同じで良いから」

「そんなんで良いんですか?」先輩が面倒くさそうに聞き返す。「適当すぎるんじゃないんですか?」

「良いんだよ、そんな誰も買わないし……」

「まったく……」

 そうこぼしてから、先輩は采女を向く。

「采女ちゃん、悪いんだけど、チェックを頼まれてくれる? 今日は他に人手も居ないし、私、そういうのは詳しくないから」

 本当は多少の知識があるっていうのに、この先輩はそういう無知なふりをして、采女に細かい仕事を押し付けているというのを、采女自身は気づいていたが、それでも、こういった人のデータを覗く作業自体に興味があったため、文句の一つも言わないで引き受けた。いつもは、もうひとりいる男の先輩が、データチェックを独り占めにするので、憧れ自体があった。

 女の先輩は、普段から男の先輩と店長をずっと監視している。レトロゲームに興味があるだとか、そういった動機で働いているのではないと思う。彼女は采女には優しかったし、別にその優しさを拒むつもりも采女にはなかった。そんなことでいちいち感情を乱している余裕は、采女には欠片も存在しなかった。

 ここでの仕事に、采女は満足していた。好きなレトロゲームのことだけを考えていれば、大体はそれで上手くいくからだった。まあ、それだけでなんとかなるほど、甘い世の中ではないが、采女の中ではその喜びのほうが勝っていた。

 それに、目標もある。あのガラスケース。そこに陳列されているファミコンのギミックを買うことだった。采女は出勤するたびに、そのくらいの金を貯金してみたいなと思い、ガラスケースに両手を合わせて祈った。

 采女はレジ奥のスペースに入り、動作チェック用のプレイステーションとテレビを起動して、先輩から渡されたメモリーカード十枚を読み込んでいった。

 そこで、気になる名前を見つけて、手が止まる。

「こずえ……?」

 もしかすると、あの「こずえ」だろうか。古刀がイデアの日を盗み出したという、あの。

 なら、面白くなってきたな、と采女はゲーム機からメモリーカードを引き抜いて、自分のポケットに全て押し込んだ。

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