第052話 舞葉はいつもより積極的

2日目のオフ、今日は2つの予定がある。

1つ目は、午前中に青屋あおやと遊びに行く。

2つ目は、午後からは草試合に行かないとな。

まぁ、後者はいつでも良いので、多少前者がずれ込んでも問題はないだろう。

時間は気にせず遊ぶ事にした。


待ち合わせ場所へ行くと先に待っている青屋の姿が見える。

待ち合わせ時間はまだ10分くらい後なのに。

遅刻しない様にという青屋の配慮が伺える。


「おはよう、青屋」

「おはようございます、大杉おおすぎさん」


青屋の私服は紺色のワンピースだった。

清楚な感じが本人の雰囲気と合っている。


「今日は何するの?」

「今日は映画を観て、その後にご飯を食べて解散にしようと思ってます」


お手本のようなデートプランだ。

最初のデートは緊張するから変に喋らなくても良い映画館がおすすめと攻略本に書いてあった。

青屋は喋るのが得意では無いし、俺もガンガンリードするタイプかと言われたらそうでは無い。

なので、この方がお互いにとって有難い。


「そうだ。・・・きょ、今日だけでも良いので、私の事を下の名前で呼んでもらえませんか?」


下の名前か。

最近は、小城こじょうを名前で呼ぶ事も増えて来たので抵抗は無い。


舞葉まいはって呼べば良いんだよね」

「はい!いっぱい楽しみましょうね!二郎くん!」


普段の大人しい舞葉とは違い、無邪気な笑顔を見せる。

改めて考えると、青屋舞葉という存在も不思議だよな。

ゲームでは登場しない人物なのに、メインヒロイン級の可愛さと属性を兼ね備えている。

まさか転生者なのかと思ったけど、流石にそれは無いか。


「そういえば、舞葉は観たい映画とかあるの?」


まだ慣れていないのか名前を呼ぶとピクリと反応している。

自分から言って欲しいと言って来たので早いうちにに慣れて欲しい。


「私は特に決めてはいないですね。二郎くんは普段映画とか観ますか?」


映画か。

前の世界では観るには観ていたけど、他人に言える様なラインナップではない。

所謂、B級映画というのを好んで観ていた。

シャークシリーズやスネークシリーズは、B級でありながらも奥が深い作品があって意外にも楽しめる。

なんて語り始めると意外にも熱く話してしまいそうなので、ここら辺でやめておくか。


「そうだな・・・」


携帯を取り出して、ざっと上映中の映画を確認する。

その中には当然恋愛物の映画も含まれていたが、選ぶかどうかは迷う。

舞葉の好みが恋愛物なら申し訳ないが、俺はあまり好きではない。

2時間頑張って見る事も出来るが、頭には内容が入って来ないだろうな。


「これとか面白そうだよな」

「本当ですね!私、この元になった本読んだ事あるんですよ」


俺が選んだのは、昔の文豪が書いた作品の映像化作品。

内容は少し覚えがあるけれど、映像として見るのは新鮮で面白いと思う。

それに舞葉が読書好きなのも知っていたので、嫌ではないだろうという考えで選んだ。


「この人の作品って有名なのが多いんですけど、私達世代の人は読書離れが進んで読んだ事ない人も多いですよね」

「確かに読書離れは深刻かもね。とは言え、俺も年に片手で数えられる程しか読まないけど」

「それでも読んでれば十分ですよ」

「今度おすすめの本とか紹介してよ。買って読んでみるから」

「本当ですか!?それならおすすめしたいの沢山ありますよ!」


そんなに沢山おすすめされても困るけど、本好きの紹介した本に外れは無いだろう。

本の話をしていたので、一層映画のモチベーションが高まる。


映画館に着くと映画の上映がちょうど始まったのか人が少ない。

この間にでも飲み物やポップコーンを買っておくことに。

映画館で食べるポップコーンっていつもの何倍も美味しく感じるのは何でだろうな。

気付けば無くなってしまっている。


個人的には無難に塩派だけど、キャラメル派も意外といる。

そういう人には、甘い飲み物としょっぱいポップコーンのコラボレーションを1度試してみて欲しい。


隣で舞葉が何を頼むのか勝手に注目していたが、やはり舞葉も塩を選んでいた。

勝手ながらに親近感が湧いてしまう。


「上映まで20分あるけど、その間は何してようか?」

「お話でもしませんか?2人でゆっくり話す機会も無いので」


確かに学校では意外と話す機会が無い。

舞葉にも仲の良い友達が出来たのもあるが、俺が色んな人に絡まれている時間が多いというのもある。

最近では、同級生だけで無く部活の先輩にも捕まる事が増えて来たので尚更だ。


俺も舞葉とはゆっくり話をしたいと思っていたので、その提案に乗ることにした。

何の話からしようかと迷っていると、舞葉が口を開く。


「あの、最初に聞いておきたい事があるんですけど」

「聞いておきたい事?俺に答えられる事なら答えるけど」

「・・・莉里りりちゃんとは付き合ってないんですよね」


ここで莉里の名前が出るとは。

確かに付き合っていると勘違いされてもおかしくないとは自分でも思うが、本当に付き合っていないのが事実。

今は誰かと付き合う余裕なんて俺には無いのだから。


「付き合って無いよ」

「そうですか。でも、莉里ちゃんとのデートは楽しかったですよね?」

「ま、まぁ、楽しかったな」


なんか尋問されている気分だ。

俺はどうしてここまで詰められているのだろう。

それにしても俺と莉里の関係が気になるという事は、初めて行ったカラオケの時に聴いたあの言葉は勘違いでは無かったのか。

つまり、これは前の人生では味わえなかったモテ期というのが来ているのでは?

いや、まさかそんなはずはないか。


「今日は絶対にその思い出、上書きしてあげますからね」


彼女の目から本気で言っているのが伝わる。

直接好きと言われた訳ではないけれど、そう言う事で良いんだよな。

勘違い野朗とかではなく、これはほぼ好意を伝えらていると思う。


時間はあっという間に過ぎて行き、気付けば入場時間になっていた。

その頃には映画を見る人で溢れている。

座っていた席を綺麗にしてから、シアタールームへと入る事に。


隣同士で買った席を一緒に探しながら回る。

普段なら席を探している時は何も感じないのだが、今はそれだけでも楽しい。


「ありましたよ!ここですね!」

「おぉー、ナイス!」


上映までに少し時間があるので、また話をしながら時間を潰す。

その間にも目の前のポップコーンが我慢出来ずに摘んでしまう。

このままだと上映して少しで食べ物も飲み物も無くなってしまうと分かっているのに、どうしても手が止まらないんだよな。


「そういえば、私違う味にすれば良かったなってちょっと後悔してます」

「あんまり、塩味好きじゃ無かったのか?」

「いえ、そんな訳では無いんですけど。味が違えばお互いのポップコーンを交換とか出来たのでちょっと損した気分です」

「それはまた今度だな」

「それなら、また一緒に映画観に行きましょね?絶対ですよ」


青屋舞葉は意外と積極的だった。

いつもは奥手な彼女が積極的になる度、俺の心は揺れ動かされる。

それも彼女の魅力の1つだ。

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