第050話 糸式は見ていた
俺は何も説明されていないのに、いつの間に投手用防球ネットの後ろに立たされている。
これは投げろと言う事なのだろうか。
悪いけど、スキルを取れていたとしても現状は俺の方が強いはず。
アドバイスはしたけれど、取れたとしても反射神経ぐらいだろうしな。
「
「分かりました!元々、本気でやるつもりだったので安心してください!」
「ガハハハッ!そのくらいの方が俺もやりやすい」
さてと、1球目はストレートから投げて反応を見るか。
真っ直ぐのストレートはスピードは出ていないけれど、今までの後藤先輩なら掠りすらしないだろう。
「これがお前の本気かぁー!!!」
嘘だろ。
後藤先輩は俺の投げたストレートをいとも容易く飛ばす。
これが試合ならあの打球はホームランだっただろうな。
手加減したストレートでは無かったのでそれなりに球速も出ていたはずなのに。
「まさかスキルランクが・・・」
これは全部獲得した上にスキルのランクがかなり高くなっている可能性がある。
今の俺は味方であっても他人のステータスやスキルは確認出来ないのが、ここに来て作用してくるとは。
「もう1球だ。ちゃんと試合を想定して投げるんだぞ」
それならあれを使うしか無い。
2球目はフォールメテオ。
これは強化された後藤先輩でさえヒットにはならなかった。
しかし、掠りはした。
だから、俺は冷や汗をかいた。
天野宮の選手は当てるのにも苦労していたのに。
「その球、良いぞ!良いぞぉーー!!!」
やべっ、後藤先輩が変に興奮し始めた。
いつもは後藤先輩に甘い
この後も後藤先輩が満足が行くまで投げ続けた。
途中から体力を使い切った状態で投げていたので、持久上げも検討が必要だな。
投げた球の内、打たれたのは3割くらい。
前から考えるとかなりの進歩が伺える。
それにスキルも3つ全部習得しているだろう。
(すごいよ力丸!よくここまで頑張ったね!後輩から教えを乞うのはプライドもあっただろうに)
「ガハハハッ!プライド守って今日の飯が喉を通るなら喜んでそうしただろうな!だけど、世の中そうじゃない・・・。時には泥食ってでも前へ進まないといけない事もあるんだ!それが俺にとっては今だっただけの事よ!」
「それじゃあ、あの3枚の紙の役目は終わりですね」
「大杉、本当にありがとう」
深く頭を下げる。
だけど、俺は魚の釣り方を教えただけ。
後は全部後藤先輩のした事だ。
お礼を言われる事は何も。
「そうだ!大杉も筋トレで困ったらいつでも相談してくれよ!ムキムキは俺の得意分野だからな!」
この人の本質は何も変わってはいない様だ。
これからどれだけすごいホームランバッターになれるかは、彼の練習次第だな。
きっと懲りずに筋力上げするだろうけど。
後藤先輩育成計画は一旦ここまでにして、自分の練習に戻ろうとする。
だけど、横から氷道先輩が俺の袖をクイクイッと引っ張る。
この間、俺を疑っていた事を謝るのだろうと思ってジェスチャーを待った。
(あの・・・さ、この間はごめんね)
「気にする事はないですよ。俺が同じ立場でも疑ってました」
(それでね。ちょっと言い辛いんだけどさ)
なんだ?急にモジモジとし始めたぞ。
別に何かした訳でも無いのに、何を言われるのだろうかと緊張して来た。
てか、その動き可愛いな。
(僕も最近悩んでて。良ければ相談に乗って欲しいなって)
疑ってた手前相談するのを躊躇ったのだろう。
必要であれば俺から声を掛ける予定だったので丁度良いタイミングだった。
もしかすると、後藤先輩の言葉が効いたのかもな。
「俺で良ければ。ちなみにどんな相談ですか?」
(最近、肩を強くしたいんだよ。外野手だから、タッチアップで走り出した
確かに彼は肩が弱い。
しかし、それはステータスでは確認できない部分の話になる。
ステータスの守備は、あくまでも守備範囲と適正を上げるだけだからな。
これは一瞬で答えが出る様な話では無い。
ゲームでの氷道先輩は愛でる要員ではあるが、外野手としてチームに入れるのは序盤までだ。
一応、抜け道として内野手転向もあるが、内野手は内野手で競合するから大変だろう。
「ちょっとだけ考える時間をください。また必ず解決策を考えて来ますから」
(うん!ありがとう!)
この笑顔を見せられたら約束は破れないよな。
ガチ勢としての結論は内野手転向だけど、世の中には常軌を逸した者もいる。
愛だけで初期
こうなるのであれば、育成方法を聞いておくべきだったな。
もしかしたら、彼もこの世界に転生している可能性もあるよな。
転生条件も追々探るとしよう。
やる事が多過ぎる。
何から手を付ければ良いのだろうか。
いや、優先すべきは自分のステータス強化。
次点で氷道先輩の育成だ。
明日もどうせ練習だから、帰ってから氷道先輩の育成については案を練ろう。
練習が終わる頃には大分疲れていた。
精神的にも疲れが見れる。
今日も夜は自主練をする予定だったけど、自宅でゆっくり考える時間を作るか。
「大杉、ちょっと来い」
俺を呼ぶ声がする。
誰かと思って振り向けば、見慣れた
しかし、いつもより一層険しい顔付きをしている。
「何ですか?俺、悪い事は何もしてないですけど」
「お前は一体何者だ」
「何者?守備位置は
「変なガキと話しているのは俺は聞いたぞ」
変なガキと言うのは雷郷の孫の事か。
もしも、聞かれていたとするなら相当まずい。
この世界は俺にとってはゲームの世界だ。
でも、彼等はこの世界を生きている。
「転生者って言うのはどう言う事だ。漫画やゲームじゃあるまいし。でも、あのガキが嘘を言っている様にも見えねぇー。お前はどこの何者だ」
「嫌だなー、友達と最近ハマってるゲームの話してただけですよ」
「・・・わざわざ学校に呼んでか?」
言い訳が苦しいのは分かっている。
だけど、この場はこれで乗り切るしかない。
それにもう部活の時間は終わった。
糸式先輩には不信感を抱かれるかも知れないが、無理矢理にでも話を終わらせて逃げたい。
「偶々、用事があったみたいですよ。ついでに俺を探していたらしいです」
「・・・そうか。邪魔して悪かった。また明日」
顔では納得していなかったが、俺が話したがらないのを見て深くは触れて来なかった。
でも、今後は俺の一挙手一投足を見張られ、怪しまれていると思った方が良いな。
あの転生者が俺に接触して来なければ、こんな気苦労は無かった。
どうやら俺は運が無いのかも知れない。
あの謎の幸運ステータスもきっと0かマイナス表記なのだろう。
そんな事より、また他の人に捕まってしまう前に今日は家へと帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます