第049話 2人目の転生者
いつもと変わらずひたすらに練習をしていたが、監督が来るとそれは一変する。
監督の前に全員が集められた。
やはり、監督から集合を掛けられると空気が引き締まる。
「はい、お疲れー。えー、今月末に練習試合が決まりました」
誰も驚きはしなかった。
天野宮戦での活躍は他校に知れ渡っている事だろう。
そうなれば、1度は手合わせしたいと思う高校が増えてもおかしな話ではない。
問題はどこの高校と対戦するかだ。
相手によってはこちらも相当な覚悟を必要とする可能性がある。
「対戦相手は・・・」
監督は少しばかりの溜めを作る。
焦らされるのは余り好きではないので、サラッと言って欲しい。
部員全員に緊張が走る。
「
「は、波王山ですか?」
部員の1人が思わず声を漏らす。
それも仕方のない事だった。
波王山は甲子園常連校。
そして、波王山は練習試合をしない事で有名だった。
だから、全員驚いている。
「俺もまさか波王山から練習試合の申し込みが来るとは。しかし、これも良い機会だ。相手が強いならそれに越した事はないだろ?」
監督は目を輝かせながらそう言う。
言いたい事は分かるけど、相手が相手だ。
少しだけ物怖じしてしまう。
その後はいつも通りミーティングを済ませて、各自練習に戻る。
普段は俺を練習に誘う
それもそうかと頷ける。
前回と違って波王山戦は学年関係無く登板機会があると思って良い。
いつも頼ってばかりでは申し訳ないので今日くらいは1人で練習するか。
何も考えずに投球場へ移動していると、1人の男子生徒がウロウロと校舎内を徘徊しているのが見える。
短パンにTシャツ とラフな格好をしているが、どこかの運動部にでも所属しているのだろうか。
それでも、もう5月だと言うのに学校の敷地内で迷子になるのは考え難いな。
相当の方向音痴かも知れない。
「あの大丈夫ですか?」
「ちょっと人を探してって、お前天野宮戦で後半を投げてた奴だよな!」
「まぁ、そうですけど」
俺を見つけるなり、嬉しそうな顔をする八重歯の赤と金で色分けされた髪の男。
面識がある訳でも無いし、特別知っている様なキャラクターでも無い。
「キシシシッ!休日を返上してまで環成東へ足を運んだ甲斐があったぜ!」
「俺に何か用ですか?」
少し嫌な予感がしたけれど、とりあえず話を続ける。
「自己紹介から先にさせてくれよ。俺は、
雷郷高清の孫だと!?
そんなのはゲーム本編やダウンロードコンテンツには登場しないはず。
だけど、こんなキャラがいれば何かしらの情報はあるはずだ。
「なんで、俺みたいな奴がいるのかって顔してるな。でも、お前も分かるはずだ。本来登場するはずの無いキャラクターが、この世界にいるってのがどう言う事か」
「まさか・・・お前」
「仲良くしようじゃねーか、同じ転生者として」
俺と同じ転生者だと。
勝手に俺みたいな奴は1人だと思っていたが、こんなことがあり得るのか?
いや、実際に目の前で起こっているのだから、あり得るあり得ないの話ではない。
「戸惑う気持ちは分かるぜ。最初お前を見た時は目を疑ったからな」
「待てよ。俺がどうして転生者だと分かる。どこにもそんな証拠は無かっただろ」
「俺には分かるんだよ。あのゲームのエンディングまでプレイしたから、お前がメインキャラでない事ぐらいな。それなのに、あれだけ活躍するのは異常だ」
その根拠は曖昧だったが、納得は出来る。
本来いるはずの無いキャラクターが活躍していたら、俺も同じ様に転生者ではないかと疑う。
それでもコンタクトを取ろうとは思わないけどな。
「それにしても相当な実力者だよな!キシシッ!どこまでプレイしたのか教えてくれよ」
「敵にそこまで教える筋合いはないだろ」
「厳しいこと言うねー。じゃあ、名前だけで良いや」
「
その言葉を聞いて、雷郷は目を丸くした。
「大杉って!あの大杉
「まぁ、そうだけど」
「うわぁー!羨ましいぜ!俺なんかストーリーにも出てこないジジイの孫だぜ?最悪だよ」
雷郷高清はストーリーには登場しないが、イベントはきちんと作られている。
サブストーリーを何個か踏まないと派生しない仕組みにはなっているが、コイツはそこまでプレイしてないんだろうな。
では、どうやってこの世界にやって来たのかという疑問が残る。
俺みたい完全クリア以外でこの世界に来る方法があるのか?
そうだったとしたら、コイツ以外にも転生者は潜んでいるかも知れない。
「俺を見に来るだけが目的か?」
「いーや、そうじゃないぜ。最初はこんな強い奴と戦いたいと思ったが、今は違う。アンタを味方にすれば、主人公すらも倒せる。それって浪漫がある話だと思わないか?」
「つまりは、俺をスカウトしたいって事か?」
「話が早くて助かるぜ。アンタは相当やり込んでるんだろ?それなら仲間になった方が心強いぜ」
わざわざ俺を探している理由はそれか。
確かに俺は今後も強くなる。
そして、それはコイツにとって脅威になるだろう。
なら、仲間として隣に置いている方が楽に攻略出来る。
俺としても雷郷高清の孫というイレギュラーな存在が味方になれば心強い。
「俺はここで野球をする。悪いけど、アンタじゃ俺を強くは出来ない。俺を強くするのは共に戦う
「ちぇー、残念だ。でも、良いや。今月末の試合、そこで俺達が勝ったら来たくなるだろからな」
「俺達だと・・・」
「言ってなかったっけ?俺、波王山高校1年なんだぜ」
まずい事になったな。
波王山はただでさえ強いのに、コイツもいるとなると余計に手こずるだろう。
「じゃあ、今日の所はこれで。気が変わったらいつでも言ってくれよ!」
雷郷が帰った後は放心状態だった。
考える事が増えたな。
波王山戦に向けて万全の体制で挑むのは当たり前だが、それは俺だけの話ではない。
こうなれば、さりげなくでも味方の強化をしなければな。
後藤先輩はスキル習得を勧めたから問題無いとして、残る選択肢は
全く弱い選手では無いけれど、強いに越した事は無い。
でも、どうやって強化すれば良いのか。
後藤先輩の様に付けたいスキルはパッと思い付かない。
なら、ステータスを単純に上げれば良いのかと言われたらそうでも無い。
これは早い内に解決しなければいけない課題なのにな。
「おいっ!来てくれるか!大杉!」
頭を悩ませていると後藤先輩が俺を呼ぶ声がする。
この声はいつも元気をくれるな。
それに嬉しそうな声色から想像するに遂に習得したのか。
ゲームと違って生でその実力を見るのは楽しみだ。
「今すぐ行きます!」
「いやー、大杉に見せたいんだよ俺の成長をな!ガハハハッ!驚いて腰を抜かすなよ!」
俺のスキル伝授は相当に気に入ってもらえたらしい。
しかし、これは俺のおかげでは無い。
習得するまで粘り強く特訓を続けた彼の功績だ。
それを彼は自覚しているだろうか。
いや、努力を努力と思わないのが彼の才能だな。
後藤先輩の大きな背中の後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます