第048話 痛みが伴う怪しい粉

情報と言っても種類が沢山ある。

その中から金狼きんろうが満足出来る様な物を提供しなけば、商品を売ってくれないだろう。


「どうした?情報があるというのはハッタリか?」

「いや、あり過ぎて構ってただけですよ」


これは強がりでは無く、事実だ。


迷った結果、彼が最も欲しがっている情報を渡すことにした。


「万年ダイヤモンドについての有益な情報でどうでしょうか」

「万年ダイヤモンドだと・・・」


まさか、俺の口から万年ダイヤモンドという言葉を出るとは思わず、彼は驚いていた。

万年ダイヤモンドとは金狼とのストーリーを進める上で、彼が口癖の様に欲しいと嘆いていた宝石だ。

もしも、それが手に入れば死ぬまで遊んで暮らせるらしい。


それなら、自分で見つけて売れば良いと思うかも知れないが、俺みたいな素人が持っていても捌けるような代物ではない。

彼に情報を渡して、素直に漢方を貰う方が良い。


「万年ダイヤモンドは、日本の洞窟にあります。それも四国の」

「その情報、本当なのか?」


これは本当だ。

ゲーム内では最後まで万年ダイヤモンドの在処は明かされなかったが、制作者への質問コーナーでこの情報が明らかとなった。

制作者も明確な位置を決めてから金狼のストーリーを作ったのだと推測している。

後は、四国の洞窟をしらみ潰しに探せば、いずれは見つかるだろう。


「俺とお前の関係値ではまだ信用出来ないが、ここで嘘を付くとも思えない。・・・良いだろう、その情報買ってやる」


余りにも大雑把な内容の情報にも関わらず、彼が良しとしたのはそれ程情報が出回っていないからだ。

当たり前だよな、自分が億万長者になれる情報を他人に手放すなんて考えられない。

まぁ、俺には必要ないから手放したけど。


「好きなのを選べ。一応、売り物だから全部とは言えないが、1個くらいならくれてやる。」

「え?良いんですか?」

「コイツの値段は1個100万の物もある。子供のお前が払えるとは思っていない。買えたとしてもあの1万の漢方ぐらいだろ」


本当は1万の漢方で我慢するつもりだった。

しかし、貰えるなら100万の方を貰いたい。

それにしても、100万は安いな。

ゲームだと1000万、10倍の価値があった。

まだこの世界ではあの漢方の価値が分かっていないからなのだろうか。


さて、1番の山場はここからだ。

あの大量の漢方の中から1つを選ばないといけない。

この選んだ漢方によって俺の強化具合が大幅に変わる。


「これにします」

「それで良いんだな。後悔するなよ。100万をタダで渡すのは最初で最後だからな」

「重々に承知しています」

「それにしてもまさか万年ダイヤモンドの情報が手に入るとはな。これは忙しくなりそうだ」


要件が終わるや否や、彼は黒いバンに乗って急いで帰って行った。

明日には四国にでも行っているな、これは。


黙って後ろで聞いていた夜飼よるかいさんが近寄って来る。


「良かったね!お目当ての物が手に入って。それにしてもまさかあの金狼がただで物を渡すとは。よっぽどの情報だったんだね」

「全部、夜飼さんのおかげですよ。金狼と出会えたのも、これが手に入ったのも」

「いやー、私は君への投資を惜しまないからね。それも何か強くなる為に必要なんだろ?」

「その通りです。漢方の効果で血流の流れを良くして、練習の効果を上げるんですよ」


全くの嘘をついた。

夜飼さんに感謝しているのは本当だけど、この漢方について説明する事は出来ない。

ちなみに本当の効果は50%でランダムなステータスを1上げ、残りの50%で強制的にスキルを獲得する。

勿論、狙うはスキル獲得だ。


これは100万の代物だからこんなに効果が良いけれど、1万の物はもっと出来が悪い。

ステータスは上がらないし、スキル獲得も1%だ。

この漢方を手に入れる為の切り札として、万年ダイヤモンドの情報を出したのは正解だった。


夜飼さんはキッチンの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して手渡してくれる。

実際に使うのは始めてなので緊張して来た。


漢方を手に取り、躊躇いながらも封を開ける。

狙うスキルは球威を補う系のスキル。

もしくは、変化球を磨くスキルのどちらか。

強い願いと共に高価アイテム"スキルの粉・上"を水で流し込んだ。


「うっ、うぐぁー!!!」


頭が割れる様な痛みが襲って来た。

それだけではない。

全身は針に刺された様な刺激で、発熱もしている。


「大丈夫!?」


夜飼さんの声掛けに返事をしている余裕もない程痛い。

しかし、痛さを感じる中で何かが頭に入り込む感覚もある。

後少しで何かを得られそうだけど、その前に俺の体が持つか。


その後もしばらく苦しんでいると、途中でスッと痛みが引いた。

そして、空中にいつものテキスト画面が現れる。


【スキル:渾身の一球 A を入手しました】


「し、死ぬかと思った」

「君が欲しいって言ったから金狼にお願いしたけど、あれって本当に大丈夫な物なの?」

「効果は本物だったみたいですよ」


息絶え絶えに答える。

あんな辛い思いは2度としたくないが、それだけの成果は得られた。

渾身の一球というスキルは当たりも当たり。

今まで手に入れて来たスキルとは訳が違う。


負け越した回もしくは9回の登板機会時に、ストライクを2つまで稼ぐと発動するスキルで、ステータスを急激に上昇させる。

勿論、発動したら次の回以降では発動しない。

だけど、完璧過ぎる発動タイミングと大きいステータス上昇幅がプレイヤーに愛用されている理由だ。


「あんな無理をするなら、今後は止めるからね」

「そう言われても俺、あの漢方やめれそうにないです」

「馬鹿なこと言ってると本当に怒るよ、君」


怒られてしまったが、また利用する事になるだろうな。

問題は金策をどうするかだ。

部活に遊び、勉強とやる事は多い。

そんな中でバイトまでやるとなると負担が大きい。

となると残された方法は1つだけ。


とある草野球チームの助っ人だ。

金持ちのおっさんが作ったチームだけど、どうしても人手が足りず金を出して助っ人を集めている。

あのおっさん元気と金だけは有り余ってるから毎週末、人手が足りないのに試合を開催している。

参加で3万、勝利で10万、完封で20万。


その辺の設定はゲームらしい金額だよな。

普通の人は絶対に払わないだろ。

今週も応募しているだろうから、後で確かめておこう。


「今日は本当にありがとうございました。おかげで世界最強に近付けました」

「お礼を言われる様な事はしてないさ。いや、君がもしも私に恩を感じているなら1つだけ約束して欲しい。無茶はしない事。これは絶対だ」

「分かりました。肝に銘じておきます」


俺もまさかあんな衝撃が走るとは思ってなかったんです。

だから、安易な気持ちで使ったら死ぬ程の痛みに襲われたから驚いた。

駒場こまば、あの漢方を連続投与して悪かった。

今度、何か美味しい物を奢るから許して欲しい。


こうして、俺は最強へと1歩近付いた。

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