閑話 貴方にはまだ伝えられないけど
私はいつもよりも慌ただしく、身支度を進めていた。
今日は入学式。
高校生になる私は少し緊張していた。
私が通う
それなのに特に入りたい部活が無い私は、友達が出来るか不安だった。
中学生の時は、イジメに会っていた。
あのトラウマを思い出すと体が震える。
だけど、この学校は誰も私を知っている人がいない。
友達がいない不安がある反面、誰もいじめられていた私を知らない事が、自由の翼を得たように思えた。
私を縛っていた邪魔な鎖は解けた。
後は踏み出す勇気があれば良い。
長い入学式を終えると、いよいよクラス毎に移動してホームルームがあるらしい。
チャンスを掴むならここしかない。
同じクラスの生徒を見つけて、1人で良いからお友達を作る。
それが今後の学園生活を豊かにするだろう。
逆にここを逃せば、あっという間にグループは形成され1人ぼっちになる。
いじめられるよりはマシだけど、高校では色々な思い出を作りたい。
その思いが強かった。
「あっ、あの!」
「あっ!あれって噂の駒場くんじゃない!?」
「ウソ〜!?将来有望じゃーん!話し掛けようよ!」
「きゃっ!」
私が後ろにいたのに気付かず振り向いたので、そのまま倒れ込んでしまった。
ぶつかった女の子も悪気があった訳ではないと分かるけど、私が倒れた事に気付かないままどこかへ。
いきなり押し倒されてた事と1歩目を失敗したショックと朝食を食べなかった事と。
色々な要因があって、私はこの瞬間に気を失った。
次に目を覚ました時には、見知らぬ天井があった。
学校で寝れる場所なんて保健室ぐらいだろうけど、私は何故保健室に。
「・・・うん?私、どうしてここに。あっ!そうだ入学式!」
思い出した!
今日は入学式で、それが終わった直後だったはず。
そうか、私色々あって気絶していたのか。
ここまで運んでくれた彼は丁寧に状況を説明してくれた。
彼の名前は、
何故、こんなにも私に親切にしてくれるのだろう。
彼から出る優しい気遣いの言葉が胸に沁みる。
そうだ。
この人なら私の事を嫌がらずお友達になってくれるのではないだろうか。
こんな時までお友達、お友達って呆れてしまうかも知れないがそれ程私にとっては重要な事なのだ。
「あ、あの!お、お、おと、お友達になってくれませんか!?」
「へぇ?」
勇気を振り絞って出した言葉。
だけど、彼は困惑しているみたいだ。
それもそうだよね。
いきなり会ったばかりの人からお友達になろうと言われても何が何だかさっぱり。
すぐにお友達になりたいという発言を訂正した。
しかし、彼は嫌がらずに私とお友達になってくれたのだ。
今になって思うとただ私を気遣ってくれてお友達になってくれたのかも知れない。
それでも、私にとっては天にも昇るほど嬉しかった。
それと同時に少しだけ彼の事を意識し始めていたのだと、今になって思う。
彼は私が目覚めた後、すぐに部活の見学へと向かった。
どうやら野球部へ入部するつもりらしい。
それなら私もマネージャーとして、野球部に入ろう。
そうすれば少しでも長く彼といられるはずだ。
その前にこの姿をどうにかしないと。
当日に予約出来る美容室を探して髪を切り、念の為に作っていたコンタクトを探す。
そして、何度も鏡の前で自分の姿を確認した。
次の日、学校へ行くとまだ大杉くんはいないみたいだ。
大人しく先生から事前に説明を受けた自分の席に座ることに。
ザワザワとしている教室の中でぽつんと一人待っているのは、辛いものがある。
隣の席の子にでも頑張って話し掛けてみようかなと思ったけど、隣はすごい派手な所謂ギャルっぽい子だった。
それで怖気付いた私は大人しくする事を決めた。
「おはよう」
「あっ!お、おはようございます大杉くん」
「やっぱり、青屋さんだよね。コンタクトになってるし、雰囲気がガラッと変わって別人かと思ったよ」
「ちょっとだけ頑張ってみました。どこもおかしく無いですかね」
ようやく待っていた大杉くんが登場。
私の変化を褒めてくれた。
この瞬間の為に昨日頑張ったのだ。
それが報われて嬉しい。
でも、少し気まずいのは彼には沢山のお友達がいた事だ。
だけど、全員優しい人だった。
特に別のクラスの
それが嬉しくて堪らない。
放課後になるとカラオケに行った。
友達と放課後にどこかへ寄り道するなんて経験、今までない。
緊張と楽しみが私の心の中で両立する。
途中、喉が渇いたので飲み物を入れに行くと事件が起こった。
「めっちゃ可愛いね!君、何高の生徒なの?」
「この制服からして
「うっそ!めっちゃ当たりじゃん!顔面偏差高いもんなー環成東!」
知らない男の人達が私を取り囲み、ナンパというやつを始めた。
怖かった。
声を出すのも怖かったけど、必死に抵抗して見せる。
「良いから付いて来いって言ってんだよ!」
男の内の1人が拳を振り上げたのが見えた。
その瞬間に私は抵抗するのを諦めるしかなかった。
目を瞑り、どうにでもなれと思っていると彼が登場する。
「おい、そこまでにしとけよ」
私が困った時には彼が必ず現れてくれる。
その時に気付いた。
彼に出会ったあの時から私は彼の事が好きだったのだと。
恋愛なんて私とは無縁の話だと思っていたのに、学校生活が始まってこんなにも早い段階で好きな人が出来るなんて。
「ずるいですよ大杉くんは。私なんかを助けてくれて。あぁ、やっぱり私益々貴方を好きになっているみたいです」
つい口から溢れる言葉。
隣に彼が居るのにも関わらず。
でも、聞こえていなかったみたいで安心した。
この想いはまだ心の中に秘めておく。
きっと伝えてしまったら彼の邪魔になるだけだから。
次の日も、また次の日も私は彼を目で追っている。
気付けば彼の事を考えて、気付けば彼を好きになって。
それで毎日が楽しくて。
でも、彼が他の女子と親しげにしているのを見ていると心が苦しくて。
最近は
彼女ははっきりと好意を伝えるタイプ。
このままいけば、彼は小城さんと付き合ってしまう。
きっとその方が彼にとっても幸せなのかも知れない。
でも、私はこの戦いだけは譲りたくないのだ。
今までは自分を隠して生きて来た。
自分を殺し、他人を立てて、波風立てずにひっそりと。
その人生とも今日でおさらば。
私はこれから変わるんだ。
「貴方にはまだ伝えられないけど。いつか必ず好きって言いますね」
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