第032話 積極的なギャルはお嫌いですか?
「朝練キツかったー!」
「珍しく
「僕も授業眠らずに聞いてられるか不安だよ」
「現国なら優しそうな先生だし、寝れるかもよ」
「とか言って、
「俺は眠気に耐え切るための特殊な訓練を受けてるから」
元々、サラリーマンをしてた俺は眠たい朝に出勤して、ぎゅうぎゅうの電車に乗り、夜遅くに帰るなんて事は良くあった。
ブラックとまではいかないにしても、それなりに社畜として頑張っていたと思う。
だから、眠い事は眠いけど、ある程度は耐えられるというのだ。
それでも古典の授業の時は、おじいちゃん先生の話し方がゆっくりなので眠ってしまうけど。
教室に辿り着くと偶々ドア側を歩いていた俺が、引き戸を開ける。
その数秒後に教室の中で誰かが走る音が聞こえて来た。
誰が走っているかを確認する頃には、その人物が俺に向かって飛び付いてくる。
「あの、これはどういうことかな?
「もー、なんでそんなに他人行儀なの?大分仲深まったんだし、ここは
「よしっ、
「しょうがない、今回だけだぞ」
「おいおい!本気で投げようとするなって!てか、そういうノリを止めるのが橋渡の役目だよね!」
なんでこうなっているのか俺も聞きたい。
それなのに人が多いタイミングで捕まってしまったので、昨日の話がどうこうとかは言えない。
オブラートに包んで話す事自体は出来るけど、ここにいる奴らが絶対に突っ込んでくるだろう。
特に御手洗は。
「えーっと小城さん。大杉も状況を理解していないみたいだし、どうしてこうなっているのか説明した方が良いと思うよ?それにみんな見てるし」
「んー、簡単に言うと好きだからアタックしてる感じ?」
アタックっていうのは普通物理的な意味では無いですよ小城さん。
てか、今、面と向かって好きって言ったよな。
竜田は驚いた。
橋渡は感心した。
御手洗は怒った。
そして、奥の
好き?何それ?ライクってこと?
あぁ、最近のギャルってすぐ好きっていう欧米スタイルを採用しているのか。
「何も喋らないな。この男は」
「考えることを放棄した顔してるよ」
俺だって状況が理解出来てないんだよ。
昨日の行動が理由か?
それ以外は思い当たる節がない。
だけど、いきなりこんな積極的になるものか?
混乱する頭を必死に整理しながら席に着く。
「お、おはようございます大杉くん。あの、お2人ってお付き合いされてたんですか?」
「いやー、アタシ達は付き合ってないよ」
「そ、そうですか。随分と仲が良さそうだったので、てっきり」
誰だって小城の態度を見れば勘違いするだろう。
こんなにアピールしてくる女の子に出会った事がない。
「まだね」
「ま、まだ!?」
「今はまだ付き合ってないけど、今後はガンガンアピールしていこうって感じかなー。だから、アタシに惚れたらいつでも言ってね!」
俺の手を包み込みながら、目を逸らさずに伝えてくる。
それを聞いた青屋は、ますます動揺していた。
俺だってこんなに真っ直ぐな好意は初めてだ。
だから、どんな態度でいれば良いのか分からない。
小城は顔も可愛いし、スタイルも良い。
そして、明るい。
普通なら3秒と持たずにコロッと落ちてしまうだろう。
いや、現に俺も落ちかけている。
だけど、俺が辛うじて持ち堪えているのは、今は集中すべき大事な練習試合があるからだ。
あの試合に勝つのは必須として、目標は無失点。
その為に出来る限りの準備をしておきたい。
だから、他の事に意識を割ける程余裕はない。
「ずるいぜ、大杉は」
わざわざ俺の席にまでやって来て、文句を言う御手洗。
御手洗ももっと落ち着きがあったら、色んな女子からモテるはずだ。
後は本人がその事に気付けるかどうか。
「どうやったらそんなにモテるのか教えてくれよ」
「まず、二郎は顔が良いでしょ。それと優しい。後は、ノリが良い!でも、落ち着いて話も出来るし」
「タイム、タイム!俺の事をそんなに褒めないで!顔から火が出る程恥ずかしいから」
「おい、俺はイチャイチャしてくれとは言ってないんだけど」
「大杉くんの良いところはもっとあります!」
「青屋ちゃんまで。トホホ、流石の俺もテンション下がるぜ」
ここで青屋も参戦してくる。
この状況に俺が後何分耐えられるか。
いつもは早く感じる担任の登場も今日に限っては遅く感じる。
「なるほどね、青屋ちゃんも」
「あわわー!ストーップ!ストップですよ小城さん!」
「あはは!そんなに心配しなくても言わないから大丈夫!でも・・・」
青屋にだけ聞こえる様に何か話している。
それを聞いた青屋は徐々に顔を真っ赤にする。
怒りという感情よりは照れに近いのか。
2人が仲良さそうに話しているのをただ眺めている事しか出来ない。
「おい、大杉。夜道には気を付けろよ」
「それ、俺を殺しに来る奴のセリフだよね」
「俺じゃなくても1人2人は襲いにくるぜ」
教室を見渡してみると向けられた殺意の波動に気付く。
クラスの男子の大半が俺の事を恨んでいるようだ。
それ程、青屋と小城は人気があると言うことだろう。
どちらも入学してから1ヶ月経っていないはずなのに、告白された回数は数え切れないと思う。
だから、夜道に気を付けろというのも案外笑えない話である。
「てかさ、青屋ちゃんも野球部のマネージャーなんでしょ?アタシもマネージャーしようかなぁ」
「まじで!?良いねそれ!俺は大歓迎だよ!可愛い子がマネージャーになるとモチベーションも上がるし!」
「マネージャーになってもアンタのお世話はしないっての。アタシは、二郎専属なんだから!」
そう言って腕を組む。
何度やられても慣れやしないな。
心臓の動きが早くなるのを感じる。
「だ、ダメですよ!マネージャーをするなら皆さんのサポートをしないと」
「そ、そだよなー青屋ちゃん。青屋ちゃんなんていつも率先して俺達のフォローしてくれるんだぜ!」
「そっかぁー。それもそうだよね。ねぇ、二郎。アタシがマネージャーになったら嬉しい?」
「まぁ、・・・嬉しいと思う」
「なーんか、はっきりとは言ってくれないけど、そうかぁー!嬉しいんだぁー!なら、入ろっかな。マリアも誘えば一石二鳥っしょ?」
小城が誘えば、
本来のストーリーは1人で勇気を出して入部する場面が描かれていたが、友達と一緒なら勇気は必要ないからな。
ただ、小城がマネージャーになる懸念点として、先輩達の前でもこんな状況を繰り広げてしまう可能性がある事だ。
物事に寛容な先輩も多いが、糸式先輩の様に厳しい先輩もいるのは事実。
あの人の前でこんな事したら命はないと思った方が良い。
「色々と覚悟してよね!二郎!」
彼女がどうしてこんなにも積極的になったのかは分からない。
だけど、今日もまた騒がしい1日になるのは間違いないようだ。
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