第028話 勘違いですよ
「ちょっと、聞いてんのー?昨日は大変だったんだけど!」
「聞いてるも何も俺は関係ないからなー」
「いやいや、さぶろーも当事者ってやつでしょ!」
「トイレ行こうとしたら巻き込まれただけだから、
「なんでフルネーム?ってか、アタシ
こんなのに朝から巻き込まれるなんてついていない。
練習試合も決まって本格的に朝練も始まったの言うのに、教室へ来たらこれだ。
疲れているのに、元気なギャルの相手をする体力なんてないって。
神様、なんでこの人が俺の席の前なんでしょうか。
後少しでホームルームの時間なのに、まだ話し掛けてくる。
その斜め前の席から、チラチラッと視線を送ってくる
見てないで助けて欲しいけど、いきなり小城に話し掛けるのは無理か。
いや、野球部のメンバーとも話せたんだ。
今の君なら出来る。
その念が通じたのか、手を少しだけ伸ばして話し掛けようとする青屋。
しかし、結局断念してそっと手を戻した。
「ほら、また聞いてないっしょー!」
「え?何の話?」
「
「あぁ、駒場ね。アイツはズルいよ。球も速いのに、変化球だって洗練されている。それで本人は練習好きとか非の打ち所がないよね」
「まーーーたっく、そんな話してないけど!」
そんなジト目で俺を見られても何も出てきやしないぞ。
公式プロフィールを暗唱出来るぐらいで他に特別な事はない。
それに勝手に人のプライベートな情報を喋るのは、人してどうかと。
「同じ部活でそれなりに話してるのも知ってるんだから!良い情報!何か!無いの?」
前のめりになって、俺の机をバンバンと叩く小城。
その角度だと少しまずいのでは無いだろうか。
目を逸らしながら、この状況をどうにかするべく駒場の情報を話す。
すまん、駒場。
好きなものシリーズなら、そこまで支障は無いよな?
「好きな食べ物は肉だね」
「あのね、それはみんなが知れることっしょ?もっとマニアックな好みとか、絶対に喜ぶ何かとか」
「試合で勝つことじゃね?」
「もう良いや。ごめんね、マリア。後ろの席の子はちょっとポンコツみたい」
誰もいない空に向かって謝る仕草を見せる。
悪かったな、ポンコツで。
公式のプロフィールには好きな食べ物は肉としか書かれてないんだよ。
きっと主人公の情報が多過ぎると、プレイヤーとの乖離が起こりすぎるからだろう。
ある程度は親近感の沸く人物にしないといけないから情報が少ないというわけだ。
そもそも何もしなくたってルートに入れば、駒場と西谷の恋愛は発展する。
本当に2人をくっつけたいなら下手な手助けをして、イベントにイレギュラーを発生させる方が怖い。
俺が適当な返事をしたからなのか、それ以降は必要以上には絡んで来なかった。
そもそもクラスには友達が1人もいないらしく、休憩時間は他のクラスに行っているか、ぼーっと外を眺めている。
ギャルって静かなものだな。
いや、まだ学校が始まったばかりだし、クラスに馴染んでいないだけか。
放課後になっても、彼女は1人で携帯をいじっていた。
西谷でも待っているのか。
きっとそうに違いない。
でも、教室を出る瞬間、彼女の表情が暗くなるのを俺は見逃さなかった。
「今日は久しぶりのオフか。練習試合前の最後オフだし、ゆっくりと身体を休めておくか」
勿論、軽くは自主練するつもりだけど、程々にしないと怪我の元になる。
それに今日は、買わないといけない物もあるからな。
「
「お久しぶり?誰だ、お前は」
「嫌だなー。学びのミサンガと重圧リストバンド売ってもらった客ですよ」
「覚えてる、そんなの事はな。冗談だ、冗談。それで?今日は何を求めてるんだ?」
老人の物忘れはネタに出来ないだろ。
もしかしたら、本当にという焦りが勝つ。
「今日はグラブを新調しようと思いましてね」
グラブを新調するのには大きな意味がある。
これは所謂装備アイテム。
身に付けただけでステータスを増加させる。
それだといよいよ練習する必要ないと思うかもしれないが、あくまでもステータスを上げるだけ。
自分自身の技術が伴っていないと折角の高ステータスも扱えない。
「投手用のグラブは色々あるな。適当に見ていけ」
「ご丁寧にありがとうございます」
俺は並べられた投手用グラブを眺める。
本当は買う物が決まっているのだけど、これだけ綺麗に並べられたグラブを見るとテンションが上がる。
本来の目的でない商品までじっくりと見てしまう。
その中でも1番目を引くのは、棚の上に飾られた非売品のグラブ。
かなり丁重に扱われている事からも大切な物だと分かる。
ちなみにアレは、
球界のレジェンド9人と知り合いになるとあのグラブを譲って貰える。
効果は凄まじく、制球を50、球速を20キロ上げる代物。
まぁ、どう足掻いたって今は手に入らないので、諦めて本来の目的である
しかし、店ですぐに買えるアイテムの中では優秀な方だ。
他にも色々とアイテムはあるけれど、今はこれだけで良い。
お金が無いと今後困る事と多いからな。
「それで良いのか?3万円な。はい、毎度」
これはまたお小遣い稼ぎでもしないとな。
でも、スケジュールはパンパンに詰まってるから、その時間も無い。
今日も夜から師匠と軽く練習する予定があるし。
「あっ、
今日の陸上部は練習があったはずなのに、どうしてここにいるのだろうか。
「今日は練習休みだったの?」
「アタシだけ。ちょっと外せない用事があったから、仕方なくね。そのついでに久々おじいちゃんの店へ顔出そうと思ったら、偶々二郎がいたって訳」
「もう用事は済んだの?」
「まだだよ。だから、今日はあまり二郎と話せないんだよ。ごめんね。でも、寂しくなったら電話しても良いからね」
「いやいや、しないから!てか、それだといつもしてるみたいになるから!」
安心してください善蔵さん。
貴方が思い描いている関係では一切ないので。
だから、何処からともなく取り出した木刀を構えるのはやめてください。
「それに小鳥遊には駒場がいるよね」
「なんで
「え?それは良い感じの仲だろ?2人って」
ゲームの世界では友達から彼女になるタイプのヒロインとして、イチャイチャしていたのをよく覚えている。
「あー、ふむふむ!そうなんだー!隼人に嫉妬してるんだね二郎は」
ニヤニヤしながら俺を見る小鳥遊。
・・・あ、まさか!そういう意味で捉えられのか?
いや、違うから!
敢えて他の男の名前を出す事で、好きな人がいるのか探り出す男子高校生じゃないからね?
「二郎の嫉妬も聞けたし、アタシ用事を終わらせに行ってくるねー!また明日、二郎!」
「ちょっ、あ、待って!」
小鳥遊、頼むからこの爺さんと2人きりにしないでくれ。
会話を聞いていた善蔵さんは、小鳥遊が帰ったと同時にレジカウンターから飛び出して来て、俺と鬼ごっこを始めるのだった。
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