第027話 ヒロインのお友達

「おい、流石に狙いを外し過ぎだろ」


思わず、口を挟む糸式いとしき先輩。

だけど、ここから変化するのがこの球だ。

バッターボックスの手前で急激に変化を見せる。

しかも、ストレートと同じ速さなのにフォークと同じ変化量だ。


そして、それをしっかりと受け止める竜田たつた

ここ最近は完成した魔球を竜田へ投げ込んでいる。

本番でいきなり使っても困るだろうからな。


「お前、その球はなんだ。普通の変化球じゃないだろ」

「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれましたね。これは俺の生み出した魔球。スプリットの速さやキレとフォークの変化量を合わせ持つ良い所取りの変化球ですよ。名付けて"メテオフォール"」


変化球:フォーク2→3 、NEW メテオフォール 3


夜飼よるかいさんの助けもあって大分早い段階で魔球を完成させることが出来た。

ストレートの球速がまだまだだけど、この魔球を完成させたことで、一見ストレートに見えても簡単には手を出し辛くなる。

まだ、打者を立たせて投げ込んだ事はないが、師匠のお墨付きを貰っているので活躍出来るに違いない。


「お前がこんな球を投げられるなんて。前に投げ込みした時は見せて無かったじゃねーか」

「いや、その時はまだ完成していなかったので」

「どうですか糸式先輩?これなら天野宮てんのみや戦でも大杉おおすぎくん大活躍ですよ!」


自分の事の様に喜んで見せる竜田。

糸式先輩は黙り込んでしまった。

少し自慢出来ればという思いで見せたのだけど、これは怒らせてしまう結果になったか。 


しばらく続く沈黙の時間が気まずい。

ただ、何もしない時間も勿体無いので、投げ込みは続ける。

何度投げても調子は崩れないメテオフォール。

ここまで来れば本番だって通用するだろう。


「・・・もう良い」

「え?まだ俺投げたばかりなんですけど」

「もう良いだろ!よし、竜田俺の球を受けろ。練習試合は俺も投げる可能性があるんだ。調整が必要だろ」

「いやいや、糸式先輩。監督は1年をメインに使うと思うので、駒場こまばくんと大杉くんで1試合投げ切りますよ」

「うるせー!良いから受けろ!俺はコイツら1年に負けてらんねーんだよ!」


どうやら俺の魔球を見て、焦りを感じたのだろう。

藤森ふじもり先輩を失った今、環成東たまなりひがしの投手陣は良い意味でも悪い意味でも横一列の実力だ。

強いて言うなら、調子が乗って来た駒場が頭1つ抜けている。


だから、糸式先輩は負けたくないのだ。

藤森先輩は糸式先輩に向かって、プロで待っていると言った。

あの言葉は実力に期待して残した言葉。

その期待に応えたい気持ちがある。


「良いの?大杉くん?先に予定入れていたのは、君だけど」

「良くないけど、言ったら聞かないし」


それに竜田はメテオフォールを捕れる。

だから、これ以上の調整も必要ないだろう。

後は試合でリードする時の参考にしてくれれば良い。


「さて、先輩は竜田と投げ込み始めたし、俺はどうしたもんかな」


とりあえず、現状の制球力を確認する為に的当てでもするか。

その前にトイレ休憩でもしておく事に。

我慢は身体に毒なんて言葉もあるからな。

まぁ、意味合いは多分違うけどトイレも我慢してはいけないのは事実。


道中、曲がり角で駒場の姿が見えた。

こんな所で何をしているのだろうかと思いながらも、もう1歩進むと駒場の近くに女子生徒がいるのが見えた。

しかし、ハッキリと誰か見える前に何者かに角へと引き戻される。


「ちょいちょい困るよ、小杉こすぎくん」

「大杉だって。って、誰かと思えば、同じクラスの大城おおしろさんだ」

小城こじょう、小城莉里りりだよー。クラスメイトの名前覚えないとかひどくなーい?」


アンタも覚えてなかっただろ。

それはさて置き、派手な金髪ウェーブに、校則違反のマニキュア、第2ボタンまで開けたシャツとギリギリまで短くしたスカートは如何にもギャルって感じがする。

この女子生徒は小城莉里。

読者モデルをやっているギャルだ。

ゲーム内では、ヒロイン人気ランキング1位の西谷にしたに麻里亜まりあの親友役として、少しだけ登場する。


ギャル属性というオタク受けが良いキャラだけど、これまた夜飼さんと同じく攻略対象では無い為にクレームが送られたのは言うまでもない。

そもそも、あの会社は女の子キャラに力を入れ過ぎて可愛い子が多すぎるんだよ。

通り過ぎる女性全員顔面レベルが高い。


「今、マリアっていうアタシの親友が、勇気出して駒場にプレゼント上げてんのー。ごめんけど、ちょーとここ通るの我慢してねー」

「あぁ、やっぱりそうだよね。駒場の野朗、結局野球に集中してもモテモテじゃんかよ」

「ちょっとー!もう少し、体勢低くしてくれないとアタシ見えないんですけど!」

「分かった、分かったから耳元で喋るのやめて!」


他人の恋愛事情を盗み見るのって倫理観が欠如しているとしか思えないけど、人気ランキング1位と主人公の絡みは流石にあの作品をプレイした俺としては見逃せない。

もしも、この世界でも駒場の恋愛が進んでいけば順調に西谷が勝ち上がって行くのだろうか。


「いけ!頑張れ!マリア!」


俺の上で応援する小城。

感情が入り過ぎて動きが大きくなっていく。

何がとは言わないけど、ありがとうございます。


「これ、良かったら受け取って」

「ミサンガ?これ西谷が作ったのか?」

「うん、そうなの。あんまり、上手に出来なかったけど」


あ、あのミサンガは!?

しまった、あれが駒場の手元に渡ってしまうのか。

西谷イベント序盤に入手出来る勝利のミサンガだ。

試合に勝った時にランダムなステータスの経験値を少量貰える。

俺が買った学びのミサンガの方が効果は良いけれど、駒場が経験値獲得系のアイテムを入手する事実がまずい。


てか、待てよ。

このまま時が進んで無意識の内に色々なヒロインと関係が進んで行けば、勝利のミサンガの様なアイテムを入手する機会が増える。

これは恐ろしい事実だ。


この世界の駒場は野球漬けである事が、逆に誠実という評価を受けて、好感度を上げている可能性もある。

そうなれば・・・、これ以上先は考えたくも無い。


「なになに?めっちゃショック受けてるじゃん。もしかして、マリアのこと好きだった感じ?」

「小城、お前だけは駒場のものにならないでくれよ?」


コイツまで駒場と仲を深めてしまったら、いよいよ駒場フィーバーだ。

そうなれば、親密イベで獲得したアイテムだけで、甲子園無双する未来もあり得る。


「もしかして、アタシ狙いなの?ふーん、こんな女が良いんだー!」


茶化すように話してくる小城。

俺の言いたい事を理解していないのは仕方ない。

ため息を吐いて無視しておく事にしよう。


「ちょっ、無視するなし。これだとアタシが痛い子みたいじゃーん!」

「バカっ!そんな大声出したら!」

「お前らそこで何やってんだ?」


俺達を見つけて心底不思議そうな顔をする駒場と、苦笑いの西谷。

本当に邪魔をするつもりは無かったんです。

気まずい空気に耐えられず、俺はトイレへと逃げ込んだ。

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