第022話 編み出せ!俺だけの魔球!

家に帰った後、俺は急いでご飯を食べて夜の自主練へと向かう。

家を出る時に暗くなった外を見た母から、十分に気を付ける様にとだけ注意されたが案外止められる事も無かった。

母には部活に入る事も伝えてあるし、真剣に野球を挑戦したいとも伝えてある。

だから、息子の想いを尊重して夜の外出を許可してくれたのだろう。


俺はこうやって夜の短い時間も練習をしないと他の奴らに置いて行かれる。

今日の駒場こまばを見てくれたら分かるだろう。

アイツは試合に勝ったのにも関わらず、慢心する事なく自主練をしようとしていた。


昨日の試合で負けた時に俺は誓った。

これ以上、負ける事は許さないと。

今までも手を抜いた練習をしていた訳ではないが、それでも体に負担が掛からない様な調整をしていた。

だけど、これからはどれだけキツイ練習やスケジュールになろうとも勝てる可能性を上げるならやってみせる。


またいつもの公園に着いた。

公園では無く筋トレに使える施設があれば良いのだが、この時間に使える場所は近くに無い。

近くにあるのは学校にある設備か強育舎ぐらいだが、どちらも今は使えない。


「今日はコントロールの練習からするか。」


今の課題は制球力だ。

前回は制球の乱れでピンチを呼ぶ場面がかなりあった。

持久はギリギリ4回まで投げられる事が分かったので、現状は急いで上げるステータスでは無いだろう。


いつものように準備を進めていると後ろに人の気配が。

振り返るとそこにはグラマーなお姉さんがいた。


「熱心だね、君は。」

「師匠ですか。夜中に出歩いてるのは不審者ぐらいかと思ってましたよ。」

「失礼しちゃうよー。私が不審者みたいじゃない。」


・・・否定はしないでおく。

この人は一歩間違えれば不審者になる。


「今日は何か用があったんですか?わざわざこんな時間にこの公園に来るなんて。」

「君が昨日の試合に負けたのは聞いたからね。多分、夜も特訓をする為にここへ来るだろうと思って。」


どうやら、あの人が俺の試合結果を教えてしまったらしい。

あの人が夜飼よるかいさんと知り合いなのは知っていたが、ここまで情報を漏らすとは思っていなかった。

後でやめてくれと頼まないとな。


「俺が試合負けたの知ってたんですか。すみません、師匠から教えて貰ったのにこんな結果になってしまって。不甲斐ない限りです。」

「そんなに悲しそうな顔しないでよ。母性本能くすぐられちゃうじゃないか。ほら、私の胸へ飛び込んでおいで。」

「やめておきます。」


思春期の男子を弄ぶ悪魔みたいな人だな。

これが俺でなければコロっと行っちゃう所だったね。


「そうか、それは残念だよ。まぁ良い、それより本題へ移ろう。」


やはり本題があるらしい。

一瞬、俺の事を煽って終わるのかと思ったけど、そうでは無くて良かった。


「君は夜に練習する時、ここの公園で満足出来るかな?」

「満足は出来ませんけど、他に練習出来る場所も思い付かないので。」

「そこで私が来たという訳だ。」


まさか!これは強育舎を使わせてもらえるというフラグなのか!

そうだとすると、これ程嬉しい話はない。

球速は固定で5キロ上昇、他のステータスは50未満なら20上昇で、50以上なら10上昇する。

このタイミングで使えるならかなりのステータス上昇に繋がるのは間違いない。


「もしかして、あの最新設備を。」

「いやいや、あれはまだ君には使えないよ。私の持っている練習場を貸してあげるだけさ。」


うーん、ガッカリしたけど有難い申し出なのは間違いない。

筋トレの器具や室内投球場もあったりする。

練習するにはうってつけの環境だ。


「ちょっと携帯渡してもらえる?」


俺は言われたまま携帯を取り出した。

他人に携帯を渡すというのは抵抗があるけど、俺の見ている前で何かするみたいだし、この人なら悪用しないだろう。


慣れた手付きで携帯を操作してすぐに返却する。

何をしたのか一瞬分からなかったけど、画面を見ると連絡帳の画面になっていて、そこには夜飼さんの番号が追加されていた。


「これでいつでも練習がしたくなったら私を呼んでね。車で迎えに来てあげるから。」

「ちょっと待ってください。良いんですか?練習場所まで提供してくれるのに、その上迎えまでしてくれるなんて。」

「未来のあるエースに投資するのは当たり前のことじゃないか。それに私の初めてを奪ったんだから当然だよ。」

「は、始めてですか?」

「そうよ。私、弟子を取るのは貴方が始めてだもん。」


良かったそういう意味だったのか。

変な想像をしてしまったのはここだけの話。

いや、仕方ないでしょ。

夜飼さん、分かっててこういう発言してくるんだから。


「さぁ、今日も練習するよね?車近くに置いてるから行こうか。」


俺は言われるがままに車に乗る。

移動中の車の中ではら試合内容を聞かれて事細かに結果を伝えた。

その話を聞く彼女は、普段とは違って真剣な表情だった。

このギャップはずるいよ。


「さあ、到着。早速練習していこうか。と言いたいところだけど。」


練習上に着いたので、いよいよ練習かと思われたがどうやら師匠は話したい事があるらしい。


「勿論、君も自覚している通りコントロールの向上を目指した方が良いのは事実だ。だけど、それはここで無くても出来るよね。例えば、学校の間とか。」

「まぁ、それはそうですけど、どっちも練習すれば効率は上がりますよ。」

「私と一緒に出来ることをしようと言ってるんだよ。」


ここまで聞いても俺も話の内容を察して来た。


「私と一緒に魔球を作らないか?」


これはストーリー進行とは関係ないイベントで、発生率は1%の激レアイベントだ。

自分だけの魔球を作り上げるイベントで、これを成功させればかなり強力な武器を得られる。

逆に失敗したとしてもデメリットは一切ない。


「現役投手である砂川すながわ健太けんたのアンダースローから放たれる下から上へと変化するストレート"サンドアッパー"、レジェンド投手雷郷らいごう高清たかきよの素早く不規則に変化するナックルボール"雷鳴らいめい"等々。この様に魔球を放つ投手は例外無く球界に名を刻んで来た。君もその内の1人として名を刻むんだよ。どうだ、ワクワクして来ないか?」


ワクワクしないかって?

そんな質問は答えなくても分かるだろ。


「最高にワクワクしますね。」

「良いね、その回答を待っていたよ。早速だけど、取り掛かろうか。」

「やっぱり魔球を作るなら最初に入手したフォークをベースにしたいです。」

「フォークだね。そうかそうか。それなら、色々と試してみたいことがあるから。」


俺が帰ったのはその2時間後だった。

完成度で言えば、1割にも満たない。

だけど、これからも開発を続けていけば、次の練習試合には間に合う。

レギュラーになれているかは分からないけど、可能性を考えれば準備しておいて損はないだろう。


これで師匠には足を向けて寝れなくなった。

あの人がいなかったらと思うと恐ろしい。

今度、お礼の1つでもしないとなと思いながら、今日は眠りについた。

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