第008話 入学式の最重要事項は友達作り
「えぇー、であるからして、我が校の新しき風となる皆様にはきちんとルールを守っていただきですね───」
どうして式典の時の先生方の話って眠たくなるのだろうか。
ごちゃごちゃと回り道をして、言いたい事がはっきりとしないからかもな。
こればかりは、何度経験しても得意にはなれない。
その後も15分以上は長々と話す校長の姿を意識半分に聞いていた。
他の生徒も大半は真面目になんて聞く気が無く、寝ている者やゲームをしている者、筋トレを始める者だっている。
だけど、教師はそれを咎めようとしない。
何故ならここが、私立
運動部も文化部も、例外無く全国に名を轟かせる程の成績を収めている超が付く部活特化型の高校。
学校の運営資金もこの学校の知名度に寄って来るスポンサーから貰っているらしい。
自由を許しているのは生徒1人1人の自由を尊重した結果だ。
でも、ある程度の規律が無いとただの無法地帯になる。
現に今の状態は好ましいとは思えない。
そんな事を考えている間に校長の話が終わった。
階段を降りて行く校長の顔は何故だか満足気だ。
自分の自信作であるスピーチをみんなの前で発表出来たのが余程嬉しかったのか。
「次は生徒会長から新入生に向けて。」
スッと1人の少女が立った。
凛々しい姿と茶髪のポニーテール。
歩く姿すら整っていて美しく感じる。
勿論、彼女も数多くいるヒロイン候補の1人である
彼女は壇上に立つとスッと両手を上げた。
バンザイをして俺達の入学を喜んでいる。
いや、そんなはずはないか。
上げられた両手はすぐさま振り下ろされた。
叩かれた演台が鈍い音を放つと同時に、マイクからハウリングした音が流れる。
新入生は一瞬で生徒会長の方へ注目する。
何が起こっているのか知りたい、今から何が始まるのか知りたい。
そんなちょっとした好奇心からだろう。
「入学式という晴れの日ぐらい君達は真面目に出来ないのか。」
最初の言葉は説教。
それも至極真っ当な事を言っている。
「ここは自由を許された学校だ。己の気持ちに縛りを付けること無く、想うがままに突き進んで欲しいからという意味でも、敢えて先生方は注意しない。しかし、私は違う。同じ生徒という立場から言わせてもらおう。甘えるな。自由を履き違え、好き勝手する君達はただの子供だ。自由とは、規律を守ったその先にある。」
やはりこのセリフはいつ聞いても痺れる。
賛否あるとかそう言う次元の話では無い。
これを迷わず発言出来るのが生徒会長の魅力だ。
「めでたい日に説教をしてしまい申し訳無い。おめでとう、新入生諸君。この学校で何者かになれる様頑張ってくれ。以上だ。」
今までは誰もしてこなかった拍手が一斉に巻き起こる。
それ程心を動かされた者が多かったのだろう。
ちなみに俺もその内の1人だ。
「以上を持ちまして入学式を終わります。この後は体育館後方に貼られていますクラス分けに従って、各クラスに移動してください。ホームルームを少し行った後、解散という形になります。尚、午後以降は各部活動が練習を行なっておりますので、興味がある生徒は是非見学してください。」
解散となった直後一斉に後ろのクラス分けに移動を始めた。
この時点で誰が1軍を狙っているかが分かる。
声を大きくして当たりだ外れだと叫ぶ奴らとかがその一例だ。
俺は静かに自分の名前を探した。
友達が多い訳ではないけど、せめて知り合った
黙って探していたら、俺の名前を見つけることが出来た。
クラスは1年D組だ。
「おぉー!あったあった!」
「よっしゃー!俺、
「なんだお前と一緒なのかよー。」
「えっ!アタシも隼人と一緒ー!」
あっちで和気藹々としている。
羨ましいという感情もあったけど、初めて生で見た駒場という男に圧倒された。
こんな遠くからでも一際目立つオーラ。
あれが主人公という生き物なのか。
近くには徐々に人が集まっていくのが見える。
俺には関係無い話だ。
そう思う事にして、さっさとクラスの方へと移ろうとした。
すると、振り返った瞬間何かに躓きそうになる。
「うぉっ!大丈夫か?」
床には御下げでメガネの少女が倒れていた。
こんなに属性が盛られていそうな女の子だけど、ヒロイン候補にはいなかったな。
そもそもゲームに登場するかも怪しい。
「って、そんな事気にしている場合じゃ無いよな。何でみんなこの子の事放置してるんだよ。」
意識があるか確認する。
呼吸はあるみたいなので、気絶して倒れているみたいだ。
とりあえず、この場に放置して置く訳にもいかない。
入学初日から倒れたと知られたらちょっとした注目を浴びてしまうだろうし、この子がそれを良しとするタイプにも見えない。
駒場に人が集まっている内に少女を担いで、目立たない様に体育館を出た。
普通、入学初日は保健室の場所なんて分からないだろうけど、俺はこの学校の構造を熟知している。
完全には人の目を避けることが出来なかったけど、側から見れば人助けをしている優等生にしか見えないだろう。
それに俺みたいなモブの顔を一々覚えているはずもない。
保健室の前に到着すると何度かドアを叩いた。
しかし、返事は返ってこない。
ゲームの時もそうだったけど、ここの養護教諭は何で毎回保健室にいないんだ。
急病の生徒が来た時に処置できなかったら、雇われている意味が無いだろ。
「そんな文句を言っても意味が無いよな。」
勝手に入って、彼女をゆっくりとベッドに下ろす。
これで俺のミッションは完璧に遂行した。
今からクラスの方に戻れば、ホームルームに間に合うはずだ。
自分の教室である1年D組の場所を思い出して、向かおうとした瞬間だった。
「うぅー・・・行かないでお母さん。」
ブレザーの袖を摘んで行かないで願う少女。
夢を見ていて寝言を言っているのだろうけど、俺にはこの手を振り解く事は出来ない。
ちょうど、近くに丸椅子が置いてあったので、座って彼女が目覚めるのを待つ事にした。
担任には人の看病をしていたと伝えれば、怒られる事もないだろう。
それに馴染めないであろうクラスでわざわざ自己紹介とかしたくないから、サボれる方がラッキーだ。
懸念点して、午後の部活動見学に間に合うのか不安だけど、この子もその前には起きるだろう。
「・・・うん?私、どうしてここに。あっ!そうだ入学式!」
彼女が目覚めたのは10分後だった。
何が起こっているのか分からないらしいので事情を説明する。
「君、体育館の後ろの方で倒れてたんだよ。」
「きゃあっ!び、びっくりした。って、体育館で倒れたのに保健室にいるって事は運んでいただいたって事ですよね。」
「まぁ、そうなるかな。」
「あの、そ、そのありがとうございます!あっ、あの私
「大杉二郎。俺も同じD組だから、クラスメイトになるみたい。目が覚めたみたいだから俺は行くけど、青屋さんはもう少しゆっくりしてた方が良いよ。」
これ以上は俺がいる必要も無い。
後は安静にしていれば良いだけだ。
丸椅子を元の位置に戻して保健室を出ようとした時、青屋さんに声を掛けられた。
「あ、あの!お、お、おと、お友達になってくれませんか!?」
「へぇ?」
思ってもいなかった言葉に気の抜けた言葉が出た。
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