第005話 初めての友達は親友キャラ
「さて、今日も練習するか。雑魚な俺は1日でも練習を怠ってはいけない。打倒!
昨日に引き続き今日も練習漬けの1日にしようと思っている。
下半身の強化とフォームチェック。
それで今日中には、球速を90後半くらいのスピードにしたい。
トレーニングメニューを思い返していると、公園の入り口の方から人がやって来るのが見える。
こんな古びた公園に人が来るとは珍しい。
段々距離が近くなると顔をはっきりする。
「打倒、駒場隼人だと?俺と喧嘩でもしようと言うのか?」
駒場隼人だと自分を名乗る男。
だけど、コイツがそうでない事は知っている。
顔を見れば一目瞭然だ。
「お前、
「げっ!?俺の事、知ってんのかよ!早く言ってくれよー。」
相手が悪かったな。
他の人なら分からない可能性もあったが、俺は顔を見たことがある。
堀枝は駒場の親友という立ち位置のキャラで、女と情報が大好きな奴だ。
ゲーム内の役割は、女子との好感度を教えてくれたり、どこから集めたのか気になる個人情報を教えたりする助っ人だ。
「って、そんな事より俺はだな!ダチが喧嘩売られるかも知らないってのに黙ってられるかよ!」
「あー、なるほどな。」
「なるほどって、なんだよ。」
女にだらし無い性格から異性受けの良くない奴だが、作中で幾度と見せる熱い友情に男からの評判は良いキャラだった。
所謂、友達思いなんだ。
だから、俺が親友を倒すとか言っているのを聞いて、自らが身代わりになって殴られるつもりだったのだろう。
「俺が打倒って言ったのは
「えっ?ん?」
自分の思っていた答えとは全く違う返答が、返って来て情報の処理が追いつかない堀枝。
「これ見れば納得か?」
グローブとボールを見せると、何度か俺の顔と往復して見た後に納得してくれたらしい。
公園で変な事口に出した俺も悪いけど、初対面の人にいきなり喧嘩腰なのもどうかと思う。
「あ、あぁー、そうなんだ!あははは!悪い悪い、俺は堀枝亮。って、知ってるんだったな。アンタの名前は?」
「俺は
「練習中に悪いな邪魔しちゃって。」
「いや、まだ初めてないから何の問題もないけど。それより堀枝をなんでこの辺を歩いてたんだ?」
確か堀枝の家はこの辺では無かったはず。
わざわざこの辺を歩いていたのには理由があるはずだ。
「あ、そうそう。ちょっと人を探してて。褐色肌で、男っぽいんだけど、顔は普通に可愛い子でさ。この辺で走ってるって聞いたから、汗流している姿をちょっと拝もうかなと。」
完全に理解した。
目的は小鳥遊だったようだ。
昨日もこの辺を走っていたし、練習で走っている可能性は高い。
でも、簡単に女子の情報を売るのは倫理観に欠けてるよな。
しかも、堀枝だし。
「って、あ。」
「あってなんだよ。あって。いたのかどうかだけ答えてくれたら良いんだよ。」
「悪かったわね。男っぽくて、可愛げのないゴリラ女で。」
「いやー、俺はそこまで言ってないよ涼花ちゃん。」
彼の後ろには探し人である小鳥遊がいた。
今日も練習しているんだろうなとは思っていたが、このタイミングで会う事になるとは。
声で後ろに誰がいるのか気付いた堀枝は、錆び付いた機械ようにゆっくりと振り向く。
「はぁー、人の邪魔しちゃいけないでしょ亮。彼、真面目に頑張ってるんだし。」
「ばっ、これはあれだ。俺も二郎と練習するんだよ。俺達、同じ野球部希望だし仲良いからさ。なっ!」
目配せをして助けを求めてくる。
ここで助けてやった方が後々良い方向で返ってくると思い頷いた。
「へぇー、君二郎って言うんだ。昨日は名前聞くの忘れたから始めて知ったよ。」
「えっ?お前ら初対面じゃないの?」
「そうだよ。昨日、アタシのおじいちゃんがやってるお店来て、色々買い物した後この公園で練習している所に出会ったの。」
その話を聞いて、後ろを向いて話し掛けてくる。
他に人がいるのに放っておいて2人でコソコソと話し出すのは失礼なのではないだろうか。
たけど、変な誤解をされていそうなので、ここは大人しく聞いて誤解を解こう。
「お前も涼花を狙ってるんじゃないだろうな。わざわざ、お爺さんがやってる店まだ行って。こんな人がいない公園で練習している理由も。」
「言っとくけど、思っている様な事では無いぞ。まぁ、顔が可愛いのは分かるけど。」
「やっぱりそうなんじゃねーか!」
「顔が可愛いのは誰が見たって分かるだろ!そんな事で狙ってるどうこうの話になるかよ!」
堀枝が変な事を言うので、つい大声で反論してしまった。
失礼な物言いに流石の小鳥遊も怒ってしまったのだろう。
後ろを向いてしまった。
「アタシ練習に戻るから。堀枝もふざけた事ばっかりやってないで真面目に練習しなよー。」
良かった。
どちらかと言えば、堀枝が呆れられただけで済んだみたいだ。
呆れているのは最初からだと思うので、何も無かったに等しい。
「いやー、今日の涼花ちゃんも可愛かったー。じゃあ、練習頑張れよニューフレンド!」
自分の目的が達成されたから、そのまま帰ろうとする堀枝。
だけど、俺は逃がさない。
堀枝亮は
あのゲームをプレイして来た俺から言わせれば、理論値は最強の一塁手である。
だけど、普通のプレイではずっとベンチ入りすら出来ていない。
理由はたった1つ。
圧倒的な練習不足によるステータスの低さだ。
甲子園までの数ヶ月に限らず、年単位で見ても堀枝だけ明らかにステータスの伸び幅が少ない。
親友の駒場が練習をしないので影響されてしまったのだろうが、アレは別次元を生きる生き物だ。
俺達が辿り着ける領域ではない。
だから、俺が育て上げる。
今年の甲子園は、俺が最も相応しいと思うメンバーで挑みたい。
その為に必要な1人として、ここで逃す訳にはいかないのだ。
「さっき練習するって言ったよな?少しだけでも良いから付き合ってくれよ。」
「あれは涼花ちゃんに嫌われない為の嘘であって、本当にするわけでは。」
俺は堀枝をやる気にさせる魔法の言葉を知っている。
何度もプレイして気付いた堀枝と言う男には絶対に効くと確信している言葉が。
「甲子園のマウンドに立つ自分の姿を想像してみろ。」
少しの間、考える時間を与える。
「絶対モテると思わないか?それもホームランを打てば、次の日から靴箱はラブレターで一杯だろうな。」
「よっしゃー!練習だ!練習!ほら、早くしろよ!」
こいつチョロ過ぎだろ。
だけど、これで当分の間はやる気出して練習に取り組むだろうな。
その後も日が暮れるまで1日中練習に取り組んだ。
堀枝は、家に帰るまでも練習という謎の迷言を残して走って帰って行った。
バッターボックスに人がいる想定で投げ込みが出来たので、かなりの意味のある練習が出来たので満足だ。
球速93キロ→97キロ
1日費やして4キロ。
昨日と対して変わらないが、仕様上段々と上がり難くなるのは仕方ない。
春休みはまだある。
リスト通りに進めれば、高校生活が始まるまでに野球部員としてのスタートラインには立てるだろう。
いや、そうなってないと困る。
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