第004話 成長の時間

「さて、これから実際に練習して行くか。」


学びのミサンガと重圧リストバンドを買った後、コンビニによって回復アイテムを購入した。

前者が値引きされた事によって予想以上に回復アイテムを買えたのは幸運だ。

その分、練習量も増えて数値の上昇も大きくなる。


練習の場所に選んだのは公園。

勿論、公園は子供が遊ぶ為の場所なので、人のいない公園を選んだ。

ここなら昼間の今でも思い切り練習が出来る。


「まずは装備を付けてっと、うぉっ!」


学びのミサンガを付けた所までは良かったが、重圧リストバンドを付けた途端一気に体が重く感じる。

風邪の気怠さにも似た感覚に戸惑うが、これで練習すれば効率が良いので仕方ない。

画面で見るのと実際に自分がやるのとでは大違いだと改めて理解する事となった。


「序盤は練習場所が解禁されていないから公園一択何だけど、意外と公園の練習は効果的だったりするんだよな。」


公園には遊具と言う名の筋トレ設備が整っている。

イベントを進まないと手に入らないお金が必要ないのは、あまりにも魅力的だ。


「最初はランニングから何だけどな。」


これだけ遊具がどうだとか語ったけど、このゲームで最も重要なステータスは持久だ。

試合中の効果は投げられる回数と、最高速度を維持して走れる時間に関わってくる。

試合で投げれば投げるほど貰える経験値を増やせるのは言うまでもない。

だから、上げたいというのもあるが本来の目的で別にある。


今までの説明は全てヘルプのテキスト欄に書かれている事。

つまり、公式から表立って出されている情報だ。

だけど、それ以外にも隠された効果がある。


持久の効果はズバリ練習量の増加。

体力が増える分、練習出来る量も増える。

ごく普通の事だが、これが重要なのだ。

特にステータスの低い今は。


説明は程々にしながら走る。


「これは相当キツイな。春休みなのに汗の量が尋常じゃない。」


この時期は風が心地良くて、運動にも適していると思ったが見当違いだったようだ。

10分もしない内に汗が止まらなくなる。


誰もいない公園でひたすらに走り続ける映像は最早狂気。

誰でも良いから話し合いが欲しくなる。


「あっ、さっき店に来てた子だ!」

「どうも。」


そんなタイミングで出会ったのは、スポーツショップタカナシのお爺さんの孫娘である小鳥遊たかなし涼花すずかだった。

彼女は中学で陸上部に所属していて、環成東たまなりひがしでも陸上部に入部する。

だから、春休みである今も自主練に励んでいるのだろう。


それにしても、この子はコミュニケーション能力が高いな。

いくら同級生で同じ環成東に入学するかと言って一度会っただけの俺に話し掛けるか?


でも、良い機会だ。

1人で寂しくやるより、可愛い女の子と練習した方がモチベーションも上がるだろ。


「君って熱心に練習するだね。隼人はやとにも見習って欲しいよ。」


ここでも隼人の話が出てくるのか。

あの事件が発生していないから、ラブよりライクなんだろうけど、ラブに変わるのは時間の問題だな。


「俺よりも小鳥遊さんの方が練習に熱心じゃん。放課後とかも毎日欠かさず走り込みしてるみたいだし。だから、中学時代に県大会で優勝したんだろうし。」

「え?詳しいんだねー。」


あ、まずいかも。

いくらヒロインの過去設定まで把握しているからと言って本人に言うのはキモかったか。

常にニコニコしている小鳥遊も流石に真顔だ。

早く言い訳しないと。

ぐるぐると頭の中で考えた結果に1つの言い訳を思い付く。


「俺、ファンなんだよ!そう、小鳥遊さんのファン!偶々、テレビで小鳥遊さんが映っているの見て、感動したんだ。同じ歳の女の子が頑張ってるってすごい勇気貰えたし!」


我ながら浅い言い訳だ。

テレビに出ていたかどうかも分からないのに、良い加減な事ばかり言ってしまった自覚がある。


「・・・なんか嬉しい。アタシ、結果は残せてたけど、それで同級生の女子から仲間はずれにされる事もあったし、男の子からは変な視線ばっかり感じるし。だから、意外と純粋に応援してくれる人がいるんだって思うと嬉しいね!」


悲しい過去を持っている小鳥遊。

勿論、俺もそれは知っている。

偶々思い付いた言い訳だったけど、彼女の励ましになったならそれで良い。

だって、この後に今まで以上に辛い経験をすることになるのだから。

今だけは彼女にとって幸せな日々であって欲しい。


「そろそろ、自分のペースで練習するね!ありがとうアタシのファン1号くん!」


それだけ言い残して去って行った。

彼女は明るさが取り柄だ。

その笑顔に俺もやる気を出した。


【練習の結果、持久が3UPしました】


おぉー、練習を止めるとアナウスが流れる。

しかも、1回の練習で3も上がるのは有難い。

アイテムを揃えた効果もあるが、初期ステータスが低いというのも理由の1つだろう。

さて、今日はこのまま練習を続けてスタミナを20まで上げよう。



3時間経過した頃には辺りがオレンジ色に染まっていた。

まだ回復アイテムも残っているし、練習を続けても良かったが、無理をすると怪我の可能性があるので今日はここまで。

どれくらい上がったを確認する偶にステータスを開く。


球速・90キロ→93キロ

制球・20→21

持久・13→20

スキル・NEW 気合いD (辛い時に気合いを入れて踏ん張る)


中々良い感じの上がり具合だ。

やはり、ステータスが上がるに連れて、多くの経験値が必要になるので後半は苦労した。

だけど、目標にプラスして球速や制球まで上がったので良しとしよう。


そして何よりも嬉しいのは、新スキルの獲得だ。

スキルは練習後やイベントなどで低確率で獲得出来るようになっている。

なので、簡単に手に入る物ではない。

しかも、気合いというスキルなので、持久が少ない俺に取っては相性の良いスキルだ。

後半で入手するとどうしても腐るスキルなので、序盤で入手出来たのも運が良い。


「よっしゃー!帰って美味いご飯でも食べるか!」


サラリーマンだった頃と違って、家に帰れば温かいご飯が出てくる。

前の世界も恋しいが、この世界も悪くないなと思えて来た。


「明日は、球速を中心に鍛えるか。球速は上がりにくいステータスだからな。せめて入学までに110〜120キロ無いと雑用しか任されないし。あーでも、変化球も必要だよな。」


考えれば考える程、やるべき事が思い浮かんでくる。

元からステータスが高い駒場よりもやる事が多いのは必然的だ。

だけど、案外こっちの方が面白い。

弱い者が強くなるサクセスストーリーに胸躍らせるのがやはり人間の性ってもんだ。


それにどうしても負けたくないんだよ駒場には。

人生イージーモードで笑ってる奴よりも俺は強くありたい。


「ただいまー。」

「おかえりー。ご飯出来てるし、お風呂も沸いてるわよ。運動して来たんでしょ?疲れてるんだし、ゆっくり休みなさい。」

「よく分かったね、俺が運動してるって。」

「母親ってのは子供が何してるかなんてお見通しなのよ!ほら、行った行ったー!」


温かいのはご飯だけかと思ったが、それ以上に温まる物がある。

まだ1日も一緒にいない家族だけど、この世界ではお世話になるんだ。


色々と混乱することも多かったけど、前向きに挑戦したくなった1日だった。

明日も早くから練習つもりなので、早めに眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る