第32話 灼眼の羅狼②
「残念だが、まだ終わりではない」
声が聞こえた。
カテラに笑いかけたハイネルが再び戦闘態勢に入る。
少女の頭蓋が再生している。通常の生物であるならば心臓か脳を潰せば終わりであるが、どうやら変性した火竜にその理は通用しないようだった。
「馬鹿な…爍槍が効かないのか?」
「効いてるよ、一度死んだ。だが復活した。それだけのことだ」
「ならば、死ぬまで殺してやるだけだ…!」
「試してみろ、出来損ない」
少女が手を頭上に掲げる。
陣が空を埋め尽くす。
「火よ、あれ」
数多の火球がハイネルに向け飛来する。
ハイネルは極々冷静に槍を投擲態勢に入る。
「重なれ、赤雷よ!」
高らかに叫び、槍を天に向け放り投げた。
すっと浮いた爍槍は輝き震え、五本に分身した。そのまま軌跡を描き、空に交差し光が重なる。軌跡から発せられた紅い雷光が、火球を受け止め破壊する。
「爆裂よ、あれ」
少女が小さく言った。粉々になった火球が誘爆し、爆炎が辺りを包む。
黒煙が舞う空間から、少女の元へ寸分の狂いもなく槍が飛来する。
あの爆裂の中、ハイネルが投擲していたのだ。
「無は再誕し、世を縫い留める」
少女が右手を差し出し言葉を紡ぐ。空間が弛み、槍が手前で停止した。
ニィィと歪な笑みを浮かべる少女、足音が聞こえ、黒煙を飛び越えて、ハイネルが四つ足で駆けながら、槍に近づく。そのまま空を飛び、槍の根元を蹴り飛ばした。
「爍槍、直接起動!喰らえ!!」
槍はメキメキと空間の縛りを喰い破り、少女の右手にさらに近づく。
だが、触れるか触れないかのところで留まってしまう。
「触れないのか?不思議だな?どうしてだと思う?それは私が塔の魔法使いだからだ」
「チィ!次は空間を層にしてずらしているのか!小癪な真似を…。だが、これなるは、爍槍ゼロカク・
「少しでも時間が稼げれば、私は攻撃に転じられるぞ!!」
「!!」
少女のフリーの左手から、獄炎が巻き起こり、ハイネルを包もうとした。
ハイネルはすぐさま槍を掴み引き戻し、地面を叩く。
瞬間、パキという枝を折るような音の後、紅い閃光を残し、空高くへと、ハイネルは瞬間移動していた。
「跳んだか!それは悪手だぞ!出来損ない!!」
少女の両手から火球が連続発射される。
空では逃げ場がない。
迫る火球の中、ハイネルは大きく息を吸い槍を強く掴む。
「爍槍は投げるだけが全てじゃないんだ、雷光よ!纏え!希釈転移!!」
バチバチと槍が音を立て、一瞬でハイネルを雷光が包み、赤い鎧が雷を吸い輝く。
そのままハイネルは、まるで分かれるように弾け飛んだ。そうとしか言いようがない。姿を消した。
「なっ!消えただと!」
「雷撃は閃光となり、全てを包み破壊する。白夜極光!!」
火球が空間を通り過ぎ、静かになった空の元、ハイネルは四人に分身していた。
そのまま槍先を少女に向け、極太の雷撃を放った。
雷撃は静けさを喰い漁り、一直線に天から少女の元へ向かう。
少女はまたしても空間を縫い留めようとした。だが不発に終わる。
異聞は既に爍槍によって喰い尽くされていたからだ。
「馬鹿な…魔法が、発動しないだと…!うわあああああ!!」
少女を雷撃が包み込み、一筋の閃光となり空を断つ。空間がズレ、歪みが現世に顕現する。
雷撃は少女の体を焼き尽くす。たとえ空間に無を作り出そうと、それを喰らう異聞喰いがある限り、不発に終わる。
そう、正しく異聞喰いが機能している間は、どんな魔法も事象変換も通さないのだ。
「ぐわああああ!!!」
少女の体が崩れていく、極熱の極光に焼かれて。
「滅却完遂…!」
ハイネルが荒々しく槍を振り上げると、そこにはもう塵一つ残っていなかった。
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