第28話 三原種「赤位」
これまでの事をゼルに説明し終え少しだけ場が静まり返ったところで、周りの雰囲気が大きく変化していった。
「ここだ」
ゼルが草に覆われた遺跡前で止まる。
あたりは森に覆われていて、一見すると生き物の気配は何もない。
カテラが場の不穏な気配を察知し、先に進もうとしたセリの袖をつかんで制止する。
「この威圧感。まさかだけど、竜種じゃないでしょうね?」
カテラの表情が曇る。
遺跡の奥から漂う何物も寄せ付けない嫌な気配があった。経験のないセリでも冷静になれば察知できるほどにそれは濃い。
セリが咄嗟に剣に手を伸ばしかけ、ゼルがそれを止めた。
「今ここでは抜くな。相手の姿を確認してからでもいいだろう。ここは相手の殺戮範囲内だからな。下手をすれば死ぬことになる」
ゼルは至極冷静だが、セリは内心、恐怖に飲まれかけていた。
得体のしれない化け物が奥にいるのがアリアリと感じられる。
この中で最も魔獣と対峙経験が少ないのは圧倒的にセリだ。そりゃこうなっても仕方ないというわけである。
しぃーと口に指をあてたゼルを先頭に列は進み、遺跡の奥へと入っていく。
遺跡の景観は徐々にまるで溶解したように溶けて固まったようにドロドロとした石質に変わっていき…。
まるで開かれた花弁のような場所に着いたとき、ソレはいた。
赤い皮。鋭い鉤爪、剣のような牙、巨大な翼。
巨躯を遺跡に寝そべらせ、ソレがいた。眠っているようだった。動きは一切ない。
「火竜…原初の赤位…!なんでこんなところいるんだ…」
カテラが冷や汗をかいている。
火竜。
原初の赤位と呼ばれる初めて人類に発見された三原種の上位種である。
こいつは発生する災害事象の規模が大きく違う。過去にたった一匹で中央の騎士団を半壊させたこともある、恐るべき存在だ。師匠の昔話でしか出てこない、最大級の悪魔。
しかし、数年前に絶滅したという報告が上がっている。少なくとも下層では。
「眠ってる…?」
「昔、致命傷を負わせてな。今現在は休眠状態にある」
ゼルの目が細くなる。セリが恐る恐る、火竜を眺めている。
「一人でやったの?」
「まさか、灼眼の羅狼と全盛期のカンナギと三人でだ。今ならカテラと二人で始末できる。そこまで弱っている。逆に言えば今しかチャンスがない。こいつをここに放っておくわけにもいかなくてな」
「ちょっとまって、今は、赤位の上位種を殺すための弾丸も砲弾も用意できてないわよ」
「なら、灼眼の羅狼がここに駆け付けるまでの時間稼ぎでもいい。とにかく奴を回復させるわけにはいかん。とにかく手を貸してくれ」
「…生きてられる保証もなしに手を貸せる相手ではない。こっちには足手まといもいるしね」
直球な戦力外通告にセリは悲しくなったが事実である。
セリの色付鬼の事象変換もどこまで通じるか分からない。そもそも、色付鬼に変身したところで、だ。
「セリが足手まとい?いいや力は持っているはずだ。セリ、雨は降らせられるか?」
「雨?出来ると思うけど」
「十分だ。作戦を練るぞ」
ゼルはニヤリと笑った。
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