第26話 過去埋葬②
事象変換をセリに適用して、セリの手を再生させた。
ロッハーとの戦いの経緯からヴェンスマンやアーサーとは合流しないほうがよさそうだと判断した。彼らも傭兵教会に属しているから、何かしらの情報を持っている可能性が高いからだ。まだ、ロッハーの張った結界が効いているうちに、管町には向かわず、近くの転移ポータルから中層に向かう方がよさそうだ。
フレアの傷もよくはない。このまま逃げるようにポータルへ向かおうとしたとき、近くの木が吹き飛んだ。
「見られていた!?アーサーかッ!」
「どこに行くんだーいカテラ…?」
「ヴェンスマン…!」
山道を外れた森の中から、すでに大剣を抜いた状態のヴェンスマンが現れる。
高台には、こちらからは見えないがアーサーがいるだろう。
正直絶望的な状況だ。
「フラグメント回収させてもらう。お前らは正規のルートで中層に上がってもらう」
「どうしてそこまで…初めから、見てたのか?」
「この結界を張ったのはロッハーじゃない。俺だ。目的は裏切り者のロッハーをお前らに殺してもらう事。もう一つは人殻の回収だ」
「そんなこと、させるか…!」
「強がりはよせよ、もうお前らだって限界だろ?頼みの人殻は役立たず。一人は重傷、カテラ、お前だって一杯一杯のはずだ」
じりじりと迫ってくるヴェンスマンに、カテラは黒鉄を構えようとしたとき、フレアが前に出た。フゥと息を吐き、ヴェンスマンを見据える。
「カテラさん。ここは任せてください。私が残って支えます」
「無茶だ、フレア…!」
「大丈夫です。これでも師匠からの一番のシゴキを受けたのは私だと自負していますから」
瞬間飛んできた弾丸を駆動剣で弾き落とし、フレアが叫ぶ。
「急いでカテラさん!セリくんを、お任せします!ここは私が、私が残ります!」
「くそッ!来い、セリッ!」
カテラはセリの手を引き、森の中に入った。
フラグメントが示すのは、あの水門の近くであった。
追ってこないし、アーサーも撃ってこない。音は聞こえない。
カテラとセリは走り続けた。
その少し前。
「本気で逃げ切れるとでも?」
「ええ。ええ。思っていますとも。私は貴方たちを殺す気でいますからね。たとえ、相打ちでもね。教会には情報を持ち帰らせはしませんよ」
「お笑いだな。長い付き合いだが、ここまで馬鹿だとは」
「ええ。ええ。私は馬鹿なんです。どうしようもないくらいにねッ!!」
フレアは駆動剣を最大駆動させ、ヴェンスマンに斬りかかっていた。
勝機は一瞬しかない。ヴェンスマンはにやりと笑い、それに応えた。
「俺も馬鹿は好きだ。来いッ!フレアッ!!」
ギャリィィンと剣同士がぶつかり合う音が聞こえ、あたりの静けさを吹き飛ばした。
水門の近くまで走ってきたカテラとセリは、フラグメントに導かれるまま、遺されていた転移ポータルに乗っていた。荒い息で、コンソールを叩く。
「カテラさんッ、これでよかったの?フレアさんは?!」
「これしか方法がなかったッ…!犠牲の上に私たちが成り立つ方法しか…」
「でもこれじゃあ」
「じゃあ聞くが、リシュ、お前に何が出来た?色付鬼とやらの力も事象変換もろくに使えないお前が、あの場で最善を尽くせたのか?」
カテラがセリの胸ぐらをつかみ、壁に押し付ける。セリの息が詰まる。
徐々に転移ポータルが明るくなり、浮遊感の後、ポッドが真上に射出された。
「分かってるよ、自分に何もできないことぐらい!でもこれじゃあ、」
「なら何が出来た!言ってみろ!」
「それは…僕には…」
「ケンカしているところ悪いが、これからどうするんだ?」
二人の顔の前に突如としてカンナギが表示される。
カテラが少し驚いて、セリを放した。
「冷静に考えろ。中層は中央管理室の箱庭だぞ。何の考えもなしで行くようなところじゃない」
「いまさら何の用なのカンナギ。居候の分際で」
「居候だからこそ。だ。一人の仲間を犠牲にしたんだ。少しは冷静に行こうじゃないか。少ししか一緒にいないが、らしくないぞカテラ」
「くそッ……。で?どうするって?」
「位置的にいってこのポータルポッドは到着位置がずれている。いきなり中央都市群にはつかないはずだ。多分、獣人の果て村あたりに着くだろうな」
「獣人ね。久しぶりに聞いた」
「下層には降りてこない種族だからな。それでだ。友人のつてを頼って、都市群に裏から侵入し上層を目指すプランでどうだ」
「友人って誰よ」
「灼眼の羅狼」
「騎士団の第一騎士団長じゃないッ!あんたどういう友人関係築いてんのよ!」
カテラはあきれ顔になり溜息を吐く。
「…それで?私たちには
「半分正解だ。徒歩で都市群を目指すルートだ。登録していた記録は全て改竄済みだ。俺たちは晴れて放浪人という事になったわけだな。もちろんカテラお前の記録もだ。お前たちは今から魔獣処理屋じゃなくなったわけだ」
「あんた何者なわけ。ただのエンジニアなんかじゃないでしょう」
「追々な」
ポッドが徐々にブレーキを掛けられていく。
セリを置いてけぼりにして繰り広げられていた会話から離れた位置で。
セリの耳にだけ聞こえるようにニライが口を開いた。
「ようこそ、人類再生の地へ」と。
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