第25話 過去埋葬
剣が空へと抜けていき、ロッハーがあおむけに倒れた。
再生はしなかった。毒の効力が再生を上回ったのだ。
カテラは幻灯を黒鉄の状態へと戻し、転がっているロッハーを眺めた。足先から石化している。禁忌兵装の代償か?。
浅く息をしているが、直に死ぬだろう。そう予感がする。
「なんであの時、師匠を裏切った」
「それを今聞くか?まあいいだろう。依頼だったからだ。教会からの」
「長くいた古巣か。お前の再生能力の根源だったな」
「そうだ、この禁忌兵装は教会の持ち物だ。お前たちの師匠が、楽園を探していると言われて、俺の命と引き換えに止めろと命令されたかだ。正直、楽園の有無などどうでもよかったんだろ、師匠の力が問題だったんだ。一人で天罰を制圧し、羅狼と共にギシ領域の魔獣を狩りつくしたその力が」
「だからって、なんであそこまで」
「依頼の内容が、お前たちの力の分散だったからだ」
「分散?」
「あの時期のこと覚えてるか?」
時期。ロッハーが師匠を裏切ったのは…。
戦慄が走る。確かあの時は、ちょうど下層の災害事象と被っていた。助けられなかった集落がある。まさか。
「禁忌兵装の発掘場所…、あの集落か…!」
「正解だ。教会はあの場所を隠したかった。師匠とお前らの目から。だから近くにいた俺を使った。それだけだろう。断れば俺の命は教会によって止められていた」
「だからってお前は!師匠もリシュも裏切ったのか!」
ロッハーは空を仰ぎ見て、カテラの方に顔を向けた。
笑っていた。
「俺だっていくらチェイサーだったからって自分の命を捨てられるほど非情に出来ちゃいなかっただけだろ。お前らがずっとハンターとして徹してきたあの時からずっとな。俺は人狩りだ。お前らよりも悪意には敏感なのさ」
ロッハーは胸ポケットからフラグメントを取り出し、カテラに差し出した。
「ロッハー…、お前は…。どこまで行っても」
「気をつけろよカテラ、教会も中央もとんでもないことを考えてる。俺なんかに負けてるようじゃ先には進めない。これは正直に戦ったお前らへの選別だ」
「これは?」
「中層への転移板だ。それも隠し通路の、だがな。管町から進むと中央にバレる。これを使え」
「こんなもので、罪への清算になるとでも思ってるの?」
「思うかよ。これは俺のエゴだ。最期になっていいこと一つしなければってな。もう行けよカテラ。十字架の中に一度きりの再生の事象変換が入ってる、勇者くんに使ってやれ」
胸のあたりまで石化が進んでいるロッハーは苦しそうに咳払いし、フレアと支えられているセリの方を見た。
「馬鹿らしい、俺は何と勇者くんを重ねたんだか。最後まで非情に徹すればよかったぜ…」
「ロッハー、あなたに、一つだけ聞く。どこまで演技だった?」
セリにそう問われ素っ頓狂な顔になりすぐに笑い顔に戻ったロッハーは楽しそうに答える。
「演技?どこからかなぁ…旅団は隠れ蓑になったが住処じゃなかったし、まあでも、ある意味では、こいつらの師匠を襲ったときからからもな」
「そこまでして、貴方の守りたいものは守れたのか?」
「守れたさ、こいつらは俺なんかが居なくてもここまで強く育った。それだけで十分なんだ。たとえそれが何かの犠牲の上に成り立つことだとしても、だ」
石化はどんどん進み、ついに顎付近まで到達した。ロッハーの腕はカテラに差し出されたまま固まっている。足先から砕けてきており、石の山となっていた。
「楽しかった。悪い人生じゃなかったよ、そら、良いことばかりじゃ無かったけどな」
「さよならロッハー」
「さようならカテラ、フレア。せいぜい生きろよ。精一杯な」
最期にそれだけ言って、ロッハーは完全に石化した。そして一息に砕け散り、石の欠片の山に変わった。
カテラもフレアも何も言わず、山道の隅の方に欠片を埋めた。
白い十字架を展開させ中から事象変換だけを取り出し、十字架自体はその場所に、墓碑のように置き去りにして、そこをあとにした。
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