第24話 白兎、剣戟VS白い十字架
呼吸を整える。転がっている肉塊を視界に入れながらフレアとセリの方に足早に近づく。セリは腕を抑えているがそれ以外は無事だ。よくロッハーと戦ってこれだけで済んだものだと思う。地面にくし刺しにされているフレアの刺さっている剣を引き抜く。フレアが痛みで身悶えする。そっと手を伸ばした時、再度違和感に気づいた。
白い十字架が無くなっている。たとえ黒鉄の火力をもってしてもロッハーの禁忌兵装である十字架を破壊することは不可能だ。使い手があれでも禁忌兵装。
肉塊はそこあるのに。いや、アレがロッハーである可能性を否定した方がよさそうだ。
「フレア、動けるでしょ?セリくんの治療をお願い。セリくんは私達と違って人間じゃないから腕くらいなら再生できる。だから、少し離れてて」
「まさか…」
「まだロッハーは生きている」
「正解だカテラ」
パチパチと拍手の後に、ロッハーの声が響く。カテラが黒鉄を構えなおした。
何もない空間から上半身裸のロッハーと白い十字架が現れた。
体に走る再生の後。やはり死んでいない。致命傷ではなかった。
だとしても、いつから入れ替わった?
「途中までヤバかったんだがな…。俺の体に刻まれた事象変換は発動して、このざまだ。本当はきりよく死んでいたかった。だが教会の術式は俺に死ぬことを許さなかったらしい」
「本当の意味の死にぞこないだな」
「そうだよカテラ。俺はお前らの師匠を裏切ったときに死んどくべきだったんだ」
「なら今ここで死なせてやる。リシュの分も返してやる。二回戦だ」
カテラの黒鉄が咆えた。先ほどと同じ砲撃の雨がロッハーに迫る。
ロッハーは白い十字架を構え、何発かのダミーの砲弾を撃ち返した。
セリを狙っての物だったが、フレアが満身創痍で動き、斬り落としている。
「ハハッ当たらねえか…!」
「奪わせないと言ったはずですが…?」
ロッハーに毒は効いているはずであるが、教会によって与えられた再生力が毒の効きを上回っている。今のままでは致命傷ではない。
かと言って細かく撃ち続けても一撃にすべてを賭けても防がれるだけだ。
ならば、師匠のように奴の体を斬り落とすしかない。
師匠を裏切り、リシュに魔獣処理屋を辞めさせるほどの致命傷を負わせたあの日。奴は師匠によって自分も致命傷を負わされている。あの時はリシュの命と引き換えに逃走したのだが。
黒鉄が白く染まり、白い剣に姿を変えた。
「モードチェンジ『幻灯』斬り拓く」
黒鉄の二回目の変形。滅式とは違い、師匠の魔剣をコピーしている。
剣戟はフレアの本領だ。カテラはそこまで得意ではないがそうも言ってられない状況だ。幻灯なら毒を与えつつ、ロッハーの体を物理的に切断し、再生を阻害できる。
「次は師匠の真似事か?そんなんで俺に勝てるのか?なぁ、カテラッ!」
「やるさ、今度は失う戦いじゃない、守るための戦いだからなぁ!!」
カテラが幻灯を構えロッハーに突撃する。ロッハーは十字架を掲げ、叫んだ。
鋭い剣閃が煌めく。十字架がそれを滑るように受け流していく。
今のままでは決め手にならない。カテラの腕前ではロッハーの防御術に遠く及ばない。
援護がいる。だから。
後方で待機しているフレアに呼び掛けた。
「フレアッ!!」
「了解です、カテラさんッ!!」
傷を負っているフレアを前衛に出すことに情けないとは思わない。
どちらにせよこのまま戦えばジリ貧でこちらが押されて負けて死ぬ。
使える手はどんな手でも使うべき。これは師匠の教え。
フレアもそれは十分承知で吶喊する。そのままロッハーの脇に突撃し駆動剣を振るった。
二人の攻撃にロッハーの防御が追い付かなくなる。ロッハーは少しだけ押され始めた。
その隙を見逃すほどフレアは馬鹿ではないし弱くもない。
カテラの一撃の後に居合の構えを取っていた。
「抜刀!逆束!!」
放たれた斬撃が、ロッハーの左腕を斬り落としていた。十字架を支える手がなくなったことで致命的な隙が生まれる。
再生は既に始まっていた。
「はあああ!!!」
カテラの渾身の、師匠の斬撃を模した、フレアで言うところの逆束が放たれる。
ロッハーが身を引く。左胴から剣閃が抜けていく。浅い。
普通なら浅い。だがこれでいい。毒は完璧に入った。
「ガハッ…」
ロッハーが大量の血を吐く。上段に構えたフレアの一撃が、倒れかかっているロッハーの右腕を斬り落とした。十字架が地に落ちる。
「終わりだロッハー」
カテラの幻灯がロッハーの胸に突き刺さる。ロッハーは剣に自ら刺さるように体を移動させた。
「強く、なったものだな…今度は仕留め損ねるな」
「そうするよ、ロッハー」
カテラの剣、幻灯はロッハーの右肩へと抜けていった。
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