第23話 白兎VS白い十字架

 今までカテラは何をしていたか。別に気が狂ってしまっていたわけではない。

 セリたちに置いて行かれた後、すぐに後を追おうとしたのだが、開拓旅団が張った結界と無数の騎兵に足止めされてたどり着けなかっただけ…。


 いやこれは言い訳だ。

 結果としてフレアは重傷を負いセリは腕を落とされている。


 借りは返す。必ず。


「ロッハーか…!」

「遅かったなあ、カテラ!!お前の大事なものはこうなったぞ!」


 フレアは倒れ、セリは辛うじて立っている状態だ。

 時間はかけられない。速攻で終わらせるしかない。相手がロッハーであろうとも。

 カテラは二段目の引鉄を引いた。黒鉄が音を立てて変形していく。

 黒鉄は漆喰のパイルバンカーに姿を変えた。

 これはかつてリシュが使っていたものの劣化コピーだ。しかし一撃でも相手に当たれば相手は死ぬ。黒鉄とは本来そういう禁忌兵装だ。


「モードチェンジ『滅式』穿ち貫く!!」

「リシュの持っていた奴のコピー品か?どこまで通用するかなぁア!!」

「お前の不死性も貫通するかもしれないだろう?リシュの分もフレアとセリの分もまとめて返してやる!」

「やってみろ、カテラぁあああ!!」


 ロッハーがわざとこちらに接近してくる。攻撃を誘っているのだ。カテラは冷静に滅式を構え、一瞬の隙を探す。ロッハーが細い剣を何本も投擲する。が、直接狙ったものではない。回避することを前提にバラまいているだけだ。だからカテラは躱さない。こいつに躊躇も加減もいらない。最大速度でぶち込むだけだ。


「スラスター、オン!滅式駆動!」


 ブゥンという駆動音が鳴り、スラスターが点火して滅式がかすかに震える。

 距離は十分。間合いの内だ。この距離なら外さない。


「来てみろ!やってみせろ!俺を楽しませろ!カテラぁああ!!!」

「黙って死ねッ!ロッハー!!」


 カテラが駆け出した。ロッハーは動かない。

 そのままスラスターの加速に身を任せ、ロッハーに突撃する。


 


「うぉああああ!!!」


 構わず滅式をロッハーの胸に叩き込んだ。瞬間引鉄を引く。

 途轍もないインパクト。衝撃がカテラの体の芯を抜ける。

 パァンという音。ロッハーの上半身が消し飛ぶ。


 


 手応えはある。だが違和感もある。ロッハーが受けたのは…。

 しまったッ…コイツは…!!

 カテラの真横に影が映った。カテラは身を翻しつつ滅式を前に出す。

 滅式はリチャージの時間がいる。二度目はない。


「偽物かッ!!!」

「正ぃぃ解ぃぃい!!」


 白い十字架が叩き下ろされる。インパクトで地面が凹む。

 もろに受けたが、許容範囲内だ。この程度ではやられない。

 二段目の引鉄を引きつつ、滅式を黒鉄に戻す。瞬時に弾丸をボンバーに変更し発砲した。散弾が辺りにばらけ誘爆する。ロッハーはすべて十字架で受け回避もしなかった。

 ロッハーは笑いながら十字架を地面すれすれに引きずりつつカテラに肉薄する。

 カテラは黒鉄を引き戻し、上方にカチ上げるように振るった。


 空振り。


 ロッハーはすんでのところで身を引いていた。当たらなかった。


「だけどッ!」


 カテラの右手に握られているのは予備用の帯電銃。がら空きになっている体に撃ち込む。数発がロッハーの体を貫通した。血が跳ねる。

 致命傷じゃない。

 弾丸をデッドエンドに変更する。対人用の最終兵器。死を運ぶ死神だ。当たればどんな人間でも確実に死ぬ。


 これは毒。


 ロッハーの体は禁忌兵装の一種の効果で半不死なのだ。だから簡単に命を投げ出すような突撃もする。それにロッハーは夕闇のヴェルヴェルグを振るえない。この距離では当たらない。そもそもカテラ相手では振るう気がない。

 使うなら今しかない。この瞬間しか。


「さっさと死ね!ロッハー!」

「さぁ来い!」


 ロッハーが十字架を叩き付けようとした瞬間、発射された弾丸が、ロッハーの足に当たった。


「はて?この程度でなにがッ…?」


 ロッハーの動きが止まる。カテラは構えを解かない。効かない可能性は低いが、効くまでに時間がかかるのかもしれない。弾丸から砲弾へと装填しなおす。対魔獣掃討用の広範囲の砲弾へと変更していた。先ほどの攻撃で位置も修正済み。この位置ならフレアにもセリにも当たらない。

 時間がない。チャンスがあるとすれば次が最後だ。

 今ならフレアもセリも最低限の損害で助けられる。リシュの時のようにはいかない。


「消し飛べッ!!」


 カテラは一切の躊躇なく砲弾を発射した。動きの止まっているロッハーに直撃し爆炎が辺りを包む。


「まだ、だろうが!!相手が倒れるまで手を緩めるな!そうだろ、ロッハー!!!」


 これはロッハーの教え。それに従い、カテラは引鉄を引き続ける。何発もの砲弾が発射され続ける。

 爆撃の嵐が静寂を壊す。木々が吹き飛ぶ。山肌が消し飛ぶ。


 嫌な音がして、黒煙から何かが宙を舞う。ロッハーの右腕だった。

 それを確認して指を緩めた。もう何も動かない。


 黒煙が晴れていき、そこには肉塊になった体が見えた。


 終わり。だと思った。確実な死を与えている。

 これ以上は冒涜だ。


 カテラは息を吐いて構えを解いた。

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