第21話 絶望の狭間で
「さあ、絶望を嚙み締めろ」
ロッハーは十字架を展開させ細い剣を射出する。それを何本か掴むと、フレアに向かって投擲した。まるで生き物のような挙動で飛翔する剣は、フレアに襲い掛かる。
フレアはそれを叩き落としつつ、ロッハーに接近していく。
フレアの斬撃には憎悪が乗っている。
「ロッハー!貴様がッ!いなければ!カテラさんも!リシュさんだって!!」
「リシュゥゥ?ああ、あの滅壊か…!懐かしいな、強かった。お前ら二人を庇いながらよくも俺に歯向かってきたものだ!」
「貴様は師匠の汚点だ!師匠の友人でも無ければ!私たちの師でもない!」
「そんな悲しいこと言うなよ、トモダチだろ?」
ロッハーは元はと言えば三人の師の一人だった。
しかしあの時、あの場で、ロッハーが、師匠を裏切り、私たちをも裏切った。
結果、リシュは魔獣処理屋として死ぬことになる。
だからカテラもフレアも、白い十字架を恨んでいるのだ。
特にカテラのロッハーに対する憎悪は限界を超えている、魔獣を憎むほどに、同じように。
「お前をカテラさんには会わせない!ここで始末をつけるッ!セリくん下がっていてください!」
「僕も戦えます!色付鬼があればッ!」
「いいえ、いいえ!邪魔です!」
「ッ…!」
立ちすくむセリを後ろにフレアは素早い斬撃をロッハーに向けてはなった。ロッハーは嫌な笑みを浮かべながらそれをいなす。フレアの攻撃はすべて防がれ弾かれた。
「
「甘いんだよなぁ…!言ったろ?熱波は魔獣専用だって!!」
フレア渾身の一撃を下方からの剣戟で弾いたロッハーは拳を振り上げ、みぞおちに突き刺した。怒りで我を忘れたフレアは防御もせずに、それをもろに食らってしまう。
痛みでのけぞるフレアはそれでも駆動剣を逆手持ちし、構えをただす。
「がッ……!まだ、まだぁあ!!」
「よく耐えました。でもこの程度じゃあ!」
ロッハーはフレアの攻撃を見切っている。それだけじゃない、隙を作り、崩し、的確にそこをついている。それは戦いのド素人であるセリにも分かった。
セリは後方で色付鬼を発動しようと意識を集中させていた。だが、色付鬼は起動しない。どうやら一度起動させると数時間のチャージが必要になるようだ。
だが、色付鬼無しでは戦いの邪魔になってしまう。セリは一人何をできるでもなく、ただ行方を眺めることしかできない。
「ほらほらぁ!このままじゃああの時と一緒で、また失うぞ!今度はそこの勇者くんを!」
「そんなこと、させると思うかぁ!」
フレアは逆手に持った駆動剣を回しロッハーの剣をいなした。直後に鞘に一度戻し、深く息を吸う。
「抜刀!
瞬きの間に抜刀した。一閃。刃は流れるようにロッハーの首筋をとらえていた。
「前より、少し早くなったか?」
駆動剣の一撃を、高速の一閃をロッハーは事もなげに受け止めた。何が起こったか分からなかった。瞬間、フレアの体が宙を舞いそのまま地面に叩き付けられた。
「カハッ……!」
フレアは地面に突っ伏したまま動けない。土煙が舞う。
二つ名持ちの魔獣処理屋を一方的に蹂躙している。これが賞金首、白い十字架なのだろうか。
「終わりか?やはり白兎の方が強いな、あいつはどこに行った?」
「貴様には何も奪わせない、カテラさんもセリくんも…!!」
「威勢だけは一人前だな、フレア」
ロッハーが上空に投擲した剣が、倒れているフレアの四肢に突き刺さる。
血が飛び、地面をゆっくり濡らしていく。
「うああああ!!」
「ほら、これで動けない…!こんなものか、つまらんな。いたぶりがいがない」
セリは動けないでいた。気づいたときにはロッハーが目の前に立っている。
腹に拳が食い込む。
衝撃はある。だが後ろに吹き飛ぶことはなかった。それくらいの力加減の一撃なのだ。いたぶるように丁度いい加減の。
「がッ…!!」
口から唾液が漏れる。膝をついて、まるでロッハーに祈るような形になった。
ロッハーは剣を高く振り上げ、今にも振り下ろさんとしている。
色付鬼は使えないしフレアは地面に縫い付けられている。絶体絶命の状況だ。
「このまま切ってもいいが、それじゃあただの作業だもんなぁ、どうするのがいいと思う?なあフレア!」
ロッハーはフレアの近くまで歩いていき、腹を思いっきり蹴った。ゴギュ、と、嫌な音が鳴った。
「……グゥゥッ…!セリ、くん、逃げて…」
死にそうなフレアの声が聞こえたとき、セリの心で何かが切れた。
いつの間にか網膜にニライが映し出されている。傍にカンナギが立っている、幻覚だろうか?リアルに感じるが、時間は止まっているようにも思えた。
「突貫工事だ。本当はこんなところで使う力じゃないんだが…これも定めか」
『
「色付鬼、起動しますか?」
カンナギの声が聞こえた後、ニライの問いかけが思考を冷静に現実へと引き戻した。
セリは膝をついたまま、消え入るような声で答えた。
「色付鬼、起動」
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