第18話 魔獣処理屋の憂鬱②
どうやら二人は中層への遠征中にギルドに呼び戻されたのだという。カテラはそりゃ災難だと思った。
この二人は同業者。そこそこ名の知れた魔獣処理屋だ。
派手でやかましい男ヴェンスマンは大剣使いの前衛。アーサーは軽い男で狙撃銃を扱う後衛だ。二人はパーティを組んでいて一応傭兵教会にも所属している。
結局カテラたちはヴェンスマンとともに脇道にそれ、災害事象の鎮圧に向かうことになってしまった。
発生点、青位の捜索中、ヴェンスマンはずっとセリに喋り掛けていたが、セリはというともう、仲良くできません勘弁してくださいオーラをずっと出している。アーサーはというとそれに同情的な視線も向けつつフレアと会話していた。
ところで今回の討伐対象の三原種、青位は中級の上位「ピントスライム」だという。
カテラの大砲とは一部の弾丸を除き全体的に相性が悪く、ピントスライムは主に斬撃や核部位に狙撃等々が有効のため、今回はこのような事態に陥った。
そもそも三原種とは何なのか、ヴェンスマンはうんざり顔のセリに一方的な説明を始めた。
「三原種」
再生塔に数多いる魔獣の中でも厄介で、生まれるだけで局地的災害事象を引き起こすとされる危険性を持つ魔獣である。三原種は主に三つの位階に分類されている。
赤位。青位。緑位。の三つだ。それぞれの特性に分かれていて、赤位ならば竜、青位ならば無形、緑位ならば甲冑生物となる。特に赤位はヤバく、発生自体は少ないものの、一度発生すると、高確率で鎮圧及び討伐前に村や町が滅ぼされるのだという。魔獣処理屋たちは日々、これらの脅威に対する訓練を積まなければならないというギルドとの約定の元、お勤めに当たっている。
俺は何度も戦ったことがあるが、それはそれは強敵ばかりだった。セリくんも気を付けたまえ。
という話だった。
一行は、霊峰の中腹付近の暗き森に入った。ここは元管町の貿易の拠点が存在した場所であるが、過去に発生した人間による災害事象によって滅んだらしい。
光も届かぬよううな暗い道を進んで行くと、拠点の廃墟に出た。
災害事象から時間が経っているにもかかわらず、いまだに生活用水などを引き入れるための水門は生きているらしい。ヴェンスマンは一直線に水門の方へと向かう。
水門は廃墟の奥まった場所にあり、周辺の木々がなぎ倒されているところを見るに、やはりどこかにピントスライムが潜伏しているとみて間違いないだろう。
ふいにヴェンスマンが大剣を抜いた。アーサーは既に遥か後方で狙撃銃を構えていた。
「セリくん、構えろ。来るぞ」
先ほどのやかましさはどこへやら、静かにヴェンスマンが言った。
バキバキという音ともになぎ倒された木々の合間から透明な流動体が壁のようになって迫ってきた。一行は散開したが、セリが一人逃げ遅れ、ヴェンスマンが襟をつかみ真横に引っ張った。
流動体はそのまま水門付近に倒れ込むようにへたり込み、巨大な球体へと変態した。
「まずは核を露出させる、あとはアーサーが仕留める。行くぞ」
「セリは危なくない位置で見てて」
ヴェンスマンとフレアが駆け出した。流動体は触手を四方八方に伸ばす。それを切り落としながら徐々に近づいていく。カテラはセリの前に立ち黒鉄を構えている。
フレアが流動体の傍まで近づいたとき、突如として流動体が震えだした。
「まずいッ!分かれるぞ!」
ヴェンスマンがフレアに覆いかぶさりながら叫んだ。流動体は弾け飛び、周辺に散る。散った流動体はそれぞれ独立して動き出した。
「チッ!…こいつは、本体じゃないってことっすか…!」
後方のアーサーがぼやいた。ピントスライムの特性上そこまで遠くに本体がいるわけではないが、今この場にいないことだけは確かだ。
「カテラ!セリくんと一緒に本体を探して叩いてくれッ!ここは俺たちが引き受ける!」
「分かった、まかせろ。セリ、行くぞ!」
「うん…!」
立ち上がったヴェンスマンの声を背に背に当たりがついていたカテラがセリとともに上流に向かって走り出す。
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