第17話 魔獣処理屋の憂鬱

 管町は高い霊峰の山頂にある、再生塔中層へ上がるための転送装置がある唯一の都市だ。山を削るように作られた管町は、揺りかごに眠る赤ん坊の様に、木々に囲まれている。霊峰を登る方法は徒歩しかない。一年前までは転送装置が生きていたのだが、三原種の出現による局地的災害事象発生によって、破壊されてしまったのだ。今も修理中である。だからカテラは着いてからが地獄と言った。


 管町に赴くには徒歩しかないにもかかわらず、登頂口は人で溢れている。

 それだけ中層に行きたがる人間が多いという事だ。

 下層は確かに魔獣が多く、ギシ領域等の未開拓遺跡群などがあり、開拓旅団の脅威もあることから人間が暮らしていくには危険も多い。

 対して中層は中央管理室の本部の守りの手が行き届いているし、魔獣の出現率がそもそも高くないことから下層よりは安全という見方をする人間もいるほどだ。


 カテラ一行も霊峰の登頂口に入った。セリははぐれない様にとフレアと手をつないでいる。セリは少し恥ずかしい。

 山道は昇りやすいようになだらかな坂だが、故に長々と山を囲っている。ところどころに休憩所と書かれた屋台が出ていて、そこで人々が足をさすっているところを見た。


 相当上ってきたのだが、まだまだ管町の全容は見えない。所どころに遺跡のようなものは見えてきているし、山頂付近から天に高く伸びる柱、通称「天蓋」は拝むことが出来た。セリは足が痛くなってきていた。カテラは大砲を背負っているにもかかわらず汗一つかかないし、フレアも余裕そうだ。腕輪の中にいるニライと居候カンナギは論外だが。しかし人殻なのに疲れは感じるらしい。特務型とはいえ、人間に近く作られているだけのことはある。


 先を進むカテラに許可を取って途中の屋台で休んでいた時の事だった。

 山道の上の方から、カテラの方へ一直線に降りてくる人影があった。近くまで来て姿を視認する。銀色の鎧に、派手な大剣。暑苦しい顔のおっさんだ。その後ろにもう一人いて、その人物は、カテラの大砲より長い砲身の銃を背負っていた。

 派手な長剣の人物がカテラに話しかけてきた。


「久しぶりだな!カテラ!このヴェンスマンのこと、忘れちゃいないよな?」

「覚えているよヴェンスマン…。こんなところで出会うとはね…」

「フハハ。そっちのちび介はお前の弟子か?お前も弟子を取るようになったんだな!よい心がけだ!」

「相変わらず、暑苦しいやつだな…。この子はセリ。一応見習いってことになってる」

「むむ、何か事情がありそうだがどうでもいい!カテラも局地的災害事象の鎮圧

 で来たんだろう管町に!」

「は?」


 うるさい&暑苦しい男ヴェンスマンはとんでもないことを口にした。

 どうやらヴェンスマンと後ろの男は魔獣処理屋のようだ。


「災害事象だって?聞いてないぞ…」

「まあまだ発表されて時間がたってないからな!今回の対象は三原種の青位らしい」

「よりにもよって三原種とは…」

「俺もアーサーも今まで中層にいたんだが、急遽呼び戻されたんだ!なあアーサー!」


 振り返り銃を背負った男アーサーの肩を叩く。アーサーは気だるそうに

 反応した。


「…そうっすよ、俺たちは今までバカンス気分を味わってたんすけどね…まったく憂鬱っすよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る