第16話 幽霊の正体
セリの叫び声に反応して階下から二人が上がってきた。絶叫するセリを落ち着かせるのに数分かかった。幽霊は相変わらず扉の前に立っている。
「失礼な。これでも元は人間だぞ!驚かせてしまったのは悪いとは思うが…」
幽霊は流ちょうな言葉をしゃべりだした。
カテラは冷静に幽霊を眺め、溜息を吐くとセリに説明をしてくれた。
「セリ、彼は幽霊じゃない。電子幽体ね。人殻とか騎兵に搭載されている意識体みたいなもんよ。まあ簡単に言えば剝き出しの心、魂ってとこかしら」
「心臓が止まるかと思いました。でもなんでこんなところに?」
疑問に幽霊は多彩なジェスチャーをしながら答えた。
「実は上から降りてきたんだが、途中で魔獣に襲われて入っていた騎兵が壊されてしまってな。なんとかこの宿泊局までは辿り着いたんだが、部屋に入った途端完全に動けなくなってしまったわけだ」
「名前は?」
「カンナギだ。よろしく頼む。そちらの少年の記憶域体に入れてくれればかなり助かるんだが…どうだ?」
「こっちにメリットがない」
カテラの無情な一言にカンナギは両手を合わせて頼み込む。
「頼む!中層に着いたら報酬も払うし、中央管理室に口利きも出来るぞ」
「中央管理室の関係者なわけ?」
「まあ一応似たようなもんだ、頼む。隣人を助けると思ってさぁ!」
切羽詰まっている。
「…セリが決めて」
「えっ僕?……まあいいんじゃないでしょうか」
「よし決まりだ」とカンナギはセリの記憶域体の腕輪の中に入っていった。
腕輪は二人分の意識体をインストールしたにもかかわらず、まだ容量が余ってる。
「改めて、エンジニアをやってるカンナギだ。よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
「ところでなんで上を目指してるんだ?」
「それは追々話しますね。とりあえず食事にしましょう」
三人で簡単な食事を済ませ、それぞれが眠る部屋に戻ってきた。セリは腕輪にニライとカンナギがいるから実質三人部屋だ。
ベッドに寝転がり、天井を見上げる。思えばいろんなことがあった。感慨にふけっているとカンナギが空間に映像として出てきた。先ほどよりも姿がハッキリしているのは性能のいい端末に入ったからだろう。その姿は黒い髪に整った顔立ちをした青年だった。
「なあセリ、聞きたいことがあるんだが少しいいか?」
「はい、なんでしょうか」
「君、人間じゃないだろう。リンクして分かったが、人殻だな」
「えっ…まあ、そうですケド…」
「色付鬼という単語に聞き覚えはある?なければ別にいいんが」
分かる単語が出てきてしまった。しかも直近で知った言葉だ。
セリの表情が固まる。
「はい。この間発現しました。でもなんで知ってるんです?」
「…やはりか。君は特務型人殻、おそらくだが七草シリーズだな?なぜ知っているかって?それは追々話すさ」
カンナギは考えるそぶりを見せ黙り込んでしまった。
「カンナギは本当にただのエンジニアなの?そうとは思えないけど」
「…ただの、と言われると何とも返せなくなってしまうな。まあ広く見ればエンジニアだからそれは信じてくれ」
「…分かった」
「よし、じゃあ、この話はもう終わりだ。もう寝ろ。俺も寝る」
カンナギは腕輪に戻った。セリは布団を頭まで被り目を閉じた。
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