第15話 覚醒②

「…リ、…セリ!」


 自分を呼ぶ声が聞こえ意識を取り戻す。体が鉛のように重い。


「何があった!?この惨状はいったい…」


 声の主はカテラだった。傍にはフレアもいる。首をがくがくと揺すられて気持ち悪かった。

 でもよかった、二人とも無事だったんだ。

 つい涙腺が緩みかける。


「白い十字架が来たんだ」

「一人で相手したのか?やはり先ほどのロッハーはドッペルか…。しかしどうやって?無事でいられたんだ?」


 カテラの疑問は最もだ。セリ自身も分かっていないが搔い摘んで説明して見せた。

 窮地に陥った際に『色付鬼』と呼ばれる特殊な機能が発現したことを。リンクしているニライに説明を求めたが、ニライ自身も覚えていないという。

 なにがなんだかわからないが、とりあえずは助かったのだ。

 セリが本物と戦っている時にカテラとフレアはというと、ドッペルと呼ばれる疑似騎兵と戦っていたようだ。騎兵は十字架を所持していなかったから十中八九偽物だと思っていたらしいが放っておくわけにもいかず討伐したらしい。

 ちなみに集落に人がいない理由はロッハーが、獲物を誘い込むためにほかのエリアにわざと逃がしたからのようだった。


「しかし色付鬼か…聞いたこともないな。特務型人殻だけに搭載されているんだろうな」

「しかしカテラさん、セリくんはやりますねぇ!まさかロッハーを撃退するとは!」

「まったく同感だな。私の力など必要なかったんじゃないか?」


 肩をすくめて見せたカテラをセリは慌てて訂正する。カテラは「分かっている」とだけ言った。


「セリ、すまない!」


 カテラは急に真剣な表情になりセリに謝罪した。セリ自体は別に気にもしないことで謝られたのでただただ驚くばかりだった。


「別に気にしてないよ、謝らないでカテラ」

「復讐に気を取られすぎてお前の存在を疎かにして危険に晒したのは私の責だ。本当にすまない!」

「僕は二人が無事で本当に良かったと思ってるよ」


 セリは精一杯の笑顔を浮かべて二人に手を差し出した。こういう時は握手だ。それくらいは覚えている。二人はそれに応えてくれて手を握る。握手をし合い、互いに笑い合い、ようやく落ち着いた。


「これからどうしよう」


 セリの素朴な疑問が三人の頭に浮かぶ。中央区に戻るには時間がかかるしこの集落には電話線がないから、ギルドに連絡が出来ない。ニライの送信機能は一方通行だし、どうしようもない。


「このままの足で管町に向かおう。管町にもギルドはあるし、ロッハーを撃退した今ならセリの魔獣処理屋としての有用性は証明できたはずだしね」

「管町に着いたらどうするの」

「お待ちかね、中層に上がるのさ」


 カテラがいじらしく笑う。セリはというと、すこしだけ楽しみにしていた。


「今から歩けばこのエリアからなら半日で着く。…ま、着いてからが地獄なんだが」

「どういう意味ですか?」

「着けばわかる。はぁ…」


 不穏な言葉を吐くカテラにセリは困惑している。

 困惑してるセリを尻目にフレアが寄ってきた。なにやら言いたいことがあるようだ。


「カテラさん、セリくん、はやる気持ちを抑えろとは言いませんが管町に行くなら準備が必要です。途中にある宿泊局跡に寄っていただけませんか?装備の調整もかねてね。そこで休んでから行きましょう」

「別にそれくらい構わないよ」

「ありがとうございます、じゃあ行きましょうか!」


 三人は無人の集落を後にした。



 そもそも宿泊局とは、下層にのみ点在するギルド直営の無料宿泊所だ。主に深都屋や魔獣処理屋が利用し貿易の要でもある。

 件の宿泊局跡に着いたときセリは思った以上にへとへとだった。

 宿泊局跡は二階建ての建物で、無人で、そこかしこに昔人間が使っていたという名残が見て取れる。この場所が放棄された理由は、管町の下に新しいタイプの宿泊局が建ったから、だそうだ。


「このくらい設備が残っていれば、十分に休めますね」


 フレアが工房の設備を撫でながら言う。


「薪を集めてくる。セリは部屋で休んでな」

「はい、そうさせてもらいますね…」


 二人と別れて二階に上がる。放棄されているとはいえ中はそれなりに綺麗だった。

 一番手前の部屋の扉を開けようとしたとき、奥の部屋から物音がした。

 誰だろう?こんなピンポイントに人がいるもんなのだろうか。


「ニライ、索敵」

「索敵終了、人間でも動物でもありません、不明です」


 意を決して奥の部屋の前まで進んだ。軋む廊下が心臓の鼓動を早くする。

 取っ手に手をかけ一応ノックしてからゆっくりと扉を押し開いた。


「お邪魔しまぁーす…」


 中は手前の部屋と同じく無人だった。装飾も変わらないし変わった点は見られない。

 なんだ、気のせいか…。そう思い振り返ったとき、目の前に白い影が立っていた。

 セリの思考が止まる。白い影はハッキリしておらず、ぶれまくっている。


「あ、ああ、あああ!お化けだあああ!!!」

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