第13話 賞金首②
自分の剣を構える姿は、さぞ滑稽に見えるだろう。フレアと違って隙だらけだろうし、何より足が震えている。
怖いという感情は人殻でも感じるようだ。肉体は旧時代の戦争兵器だが、精神面は子供のままだからだ。
目の前にいるロッハーは歪な笑みを浮かべている。その表情に怖気が走る。
「少しは楽しませてくれよ、小さな兵士くん!」
ロッハーは驚異的な速度でセリの真横に肉薄した。あの巨大な十字架は地面を拉げさせたまま地面に置かれている。武器の方を注視していたセリはしくじったと思った。
「オラァ!」
蹴りが脇腹に突き刺さる。防御する間もなくそのまま横に吹き飛ばされた。人殻と言ってもセリは自身の体をうまく扱えていない。痛覚遮断の方法など到底知らなかった。痛みで目が回る。なんとか立ち上がろうとして、追撃の蹴りを腹に食らった。無様に地面に転がる。剣だけは離さず握りしめてはいるがこれも何の抵抗にもならない。
「剣を離さないのは褒めてやるよ兵士くん、だがなぁ!」
髪の毛を掴まれ強制的に立たされ、頬を殴られる。口の中を切ったのか血の味が広がった。それでも目線をロッハーから外さない。
「いい目だな。嬲りがいがある」
何度も何度も拳が肉体に突き刺さる。歯を食いしばって耐えながら、どこかに反撃の隙を探す。
ロッハーが大きく笑ってこちらから目線を少しだけずらした瞬間、セリは思いっきりロッハーの顔面を殴りつけた。
ロッハーはたじろぎもせず、拳を顔面に受けたまま、顔をセリに近づけて言った。
「いぃ拳だ。油断しちゃったよ」
顔面には笑顔が張り付いている。そのままセリを投げ飛ばす。
「うあっ…!」
地面に叩き付けられ、意識が飛びかける。ニライのサポートは効いているはずだが、あいにく肉弾戦のデータは少ない。さっき殴れたのはモジュールに頼らない咄嗟の判断だ。
ロッハーはにやついている。いつの間にか、十字架をこちらに引きずってきていた。ガシャリという音がして、十字架がズレ、中から細身の小剣が何本も姿を現した。一本を掴み取ると、倒れ込んだままのセリの足に突き刺した。
「ああああ!!」
「さぁて、何本目に逝くかな?まぁ殺しはしないさ」
血がズボンを濡らし地面にとぶ。ロッハーは殺しはしないといったが、今セリの心には明確な死の恐怖が浮かんでいた。
セリには記憶がない。自分が七草シリーズと言われる特務型人殻だという事しか覚えていないのだ。だが、死の恐怖だけはなぜか覚えていた。記憶がなくなる前に味わった途方もない痛みの記憶が心に残っているのだ。
それともう一つ、この期に及んで思い出した記憶があった。それは、ある女性に言われた言葉。
『おまえはちょうていしゃ。とうをのぼれ』
まるで電子音のような抑揚の欠片もない合成音で奏でられた言葉の、文字の羅列。
自分は確かにこの声をどこかで聞いたことがあった。だが今はそれどころではない。
もう一本の小剣が今度は左腕に突き立てられた。血がぷっくりと流れ出る。
「痛いか?苦しいか?泣いてもいいんだぞ?」
「…いやだね」
苦し紛れの小さな反抗だった。セリにこの窮地を脱出するすべはない。もはや大人しくロッハーの玩具として過ごさなくてはならない。
まだ、まだだ。なにか手があるかもしれない。最後まで諦めてはいけない。反撃しても効果は薄いだろうが、それでもまだなにか。
その時だった。網膜にニライが映し出され、セリだけに聞こえる声で囁いた。
「精神的ダメージが危険域を突破しました。
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