第10話 修行時代②
パラパラと土煙が舞う。地面が鋼鐵竜の一撃で大きく陥没している。
尻尾は振り下ろされたままでカテラの安否は不明だ。
「カテラさん!…貴様ぁあああ!!」
一歩遅れてフレアが到着した。怒りのままに駆動剣を抜いたまま鋼鐵竜に突撃する。
鋭い斬撃を繰り出し、鋼鐵竜を一歩一歩後方へと下がらせる。
カテラのいた場所には、巨大な刃をと可変盾を内蔵した形状のパイルバンカーを装備したリシュが立っていた。すぐ隣に座り込み呆然とするカテラがいる。
リシュは可変盾を展開し鋼鐵竜の一撃を僅かに逸らしたのだ。
しかし一撃は重く、リシュは一時的に行動不能に陥っていた。
「はあはあ…無事か?カテラ…」
「リシュ、どうして…」
「馬鹿が、一人で先行しやがって。仲間だろ」
「ごめん」
「ちょっと動けそうにない、まだ戦えるだろう?カテラ」
カテラは立ち上がり、黒鉄を構えなおす。もう仲間にこんな真似はさせない。
カテラの思考は冷静に戻っていた。一人で鋼鐵竜を押しとどめてくれているフレアに指示を飛ばす。
「フレアッ下がって!一緒にこいつを倒そう!」
「カテラさん、無事だったんですね!よかった!」
バックステップで下がったフレアの隣を、砲弾が通過し、鋼鐵竜にぶち当たる。鋼鐵竜が悶えてるさなか、すぐにフレアが突っ込み翼を切断した。地団駄を踏み激怒する鋼鐵竜は「ギャオオオン」と咆哮を上げる。そして薙ぐ様に尻尾を振り回し始めた。
カテラとフレアは座り込むリシュを掴んで後ろに下がった。
鋼鐵竜は硬化状態という特殊な状態に変化している。今のままではカテラの砲弾やフレアの斬撃の効き目は薄い。だからここでパイルバンカーが役に立つ。
リシュが立ち上がりパイルバンカーを掴んでレバーを引き戻す。ガチャリと杭が装填される。
「リシュ!私とフレアで隙を見つけるから、そこにぶち込んで!」
「分かっている。任せろ!」
リシュは低く構え、吶喊体制に変わる。パイルバンカーのブースト機構のスイッチを入れると、スラスターがうなり声を上げる。
二人が攻撃を開始し、鋼鐵竜はリシュの方を見る余裕はなくなっていた。それに慢心もある。自分の装甲がこんな人間如きに敗れるわけないと。
フレアが地面を蹴り上げ上方に斬り込む。斬撃は目の部分を掠めたが、鋼鐵竜は特段問題にはしていない。すぐさま右前足を思いっきり振りぬいた。フレアは自分から咆える鋼鐵竜の口に手を突っ込み牙を支えにしつつさらに上へと飛んだ。そのまま一気に下降しつつ頭蓋に刃先を突き立てた。刃先は滑るように頭蓋に弾かれ、フレアは上空に放り出されてしまった。
それをカバーするようにカテラの砲弾が目元に着弾する。鋼鐵竜は少したじろぎ、尻尾を後ろに下げた。隠れていた腹が無防備になる。
ここだ。
リシュは極限まで集中し一番上の引鉄を引いた。スラスターが点火され爆音が鳴り響く。足のブレーキを解放しそのままの体制で駆け出していた。
「くらえええ!!」
リシュは大声を上げつつ、鋼鐵竜の前で一回転し遠心力も加えて腹に杭を突き刺した。二番目の引き金を引く。
バギンという独特な音とともに内蔵された歯車が回り、杭が射出された。衝撃波が背中を抜け、腹に巨大な穴が開く。鋼鐵竜は目を白黒させ後ろにその巨体を倒れさせた。
倒れた際の土煙と衝撃音以外の音が止む。しばらく沈黙が辺りを覆う。
勝った。一人の力ではなく皆で。その事実は確かなものだ。静かに勝利を祝う。
すると倒れた鋼鐵竜が口を開けた。
「我々が何をしたのだ」
また喋った。今度はフレアやリシュにも聞こえている。
カテラは黒鉄を降ろし、フレアの制止を無視して鋼鐵竜に近づいた。
「お前たちは人間の住処を荒らし人間を喰う。それを脅威と判断した。だから殺す」
「貴様たちも生き物を喰らうだろう?それとは…どう違うというのだ」
「一緒だよ。ただ今回はお前たちの番だった、それだけだ」
カテラの目にはもう復讐の色は無くなっていた。少なくとも三原種は明確な自我を持っている。ただ欲しいままに肉を喰らう低級の魔獣ではないという事だ。彼らにも家族という概念が存在しそれを守る意思も存在する。
彼らもある意味では人間と同じように生きていたのだ。
鋼鐵竜は最後に息を吐き目を閉じるとこと切れた。
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