第9話 修行時代

 天陽暦190年。カテラの住んでいた灰の村(現、旧灰の村)は局地的災害事象「天罰」と呼ばれる魔獣の大発生する天災によって壊滅した。

 生き残りはカテラ一人だけ。まだ幼かったカテラはその時天罰を収束に導いたある魔獣処理屋に保護され、そのまま弟子入りすることになる。

 ある魔獣処理屋。名前は不明で通称「師匠」と呼ばれている人物だった。

 師匠は当時、再生塔内では名前の知らない者はいないほど有名な魔獣処理屋でたった一人で灰の村の天罰を殺しきった。


 そして魔獣処理屋の保護規定を利用して、カテラを自分の弟子にした。

 師匠には他にも弟子入りしている子供がおり、それがフレアとリシュだった。二人とも理由は違えど孤児だということがのちに分かる。


 師匠の修行は厳しく、また豪快で時に繊細でもあった。基本的な内容と言えば、魔獣の生態からあらゆる武器種の使い方等の座学実践と基本的な体力づくりと無茶な回避術の特訓が主だった。時々、世界の成立ちや雑学等の勉強も含まれていた。

 カテラは辛いと思ったことはなかった。が、フレアはしょっちゅう泣き言を言っていたのを思い出す。

 修行の過程で中層に赴いたこともあったし、塔外に出たこともあった。

 カテラやフレア、そしてリシュは修行の過程において、様々な武器種の使用が出来るようになってはいるが、それぞれ別の武器種を得物としている。

 例えばカテラは大砲や拳銃。フレアは駆動剣。リシュはパイルバンカーである。

 これは修行の過程で師匠に才能を見出されたからという理由と、当人の好みという点の二つが理由となっている。


 カテラは当時一つ問題があった。それは魔獣に対する憎悪の増加だ。

 強くなるにつれ、自分の中の小さな袋がどんどん大きく膨れ上がっていくような感覚に囚われていた。師匠は魔獣は憎しみの感情で殺してはいけないという教えだったが、当時のカテラには一つも理解できないでいた。

 なぜ、自分からすべてを奪った存在を恨まずして殺せるのだろうか、と。

 しかしある時、決定的な出来事によってカテラは感情の制御を学ぶことになる。



 天陽暦196年。この時、すでに一人前になっていた弟子三人は師匠の指示である依頼についていた。その依頼とは、魔獣の中でも特級クラスに分類される「三原種」の討伐依頼だった。今回の依頼は三原種の中でも強力な「赤位」の討伐だった。

 場所は下層第二集落の麓にある岩場。赤位が巣くっているという状況で放っておけば、局地的災害事象が発生し二次災害に連鎖する可能性もあるために早急に討伐せよいう内容だった。

 三人は三原種の討伐は経験がなかった。と、いうのも今まで許可が下りなかったのもある。通常、魔獣処理屋では三原種の対処として少なくても三人一組のチームを編成し立ち向かわなければならないという決まりがあったからだ。


 三人が現場に向かうと、そこには情報でしか見たことのない巨大な竜が鎮座していた。しかもつがいで。

 奴らは鐵鋼竜と呼ばれる種であり、赤位でも中の下クラスの位置づけの竜だ。

 鋼鐵に覆われた皮膚を持ち、生半可な武器では到底かなわない。

 これに伴い緻密な計画を立てた結果、フレアが前衛、リシュが中衛、カテラが後衛という布陣のはずだったのだが、いざ戦闘直前になってカテラはそれを無視し先行して一人で鋼鐵竜の前に躍り出た。自身の故郷を滅ぼした存在と被って暴走した結果だろうと今にしては思う。


「久しぶりだな!三原種!さあ、死ぬ準備は出来ているか?」


 高揚した状態でカテラが叫ぶ。遥か後方ではフレアとリシュがカバーに入ろうと走って来ていた。カテラの興奮は収まらない。大砲、黒鉄を構えて照準を竜の頭に合わせながら荒く息を吸う。


「ようやくこの時が来た。お前らを殺せるときが!」


 鋼鐵竜はじっとカテラを眺めていたが、やがて咆哮をあげ戦闘態勢に入る。

 カテラは重装甲用の砲弾を装填し撃ちかたを始めた。

 砲弾の特性上、反動がもろに来るがそれをも無視しカテラはある種楽しそうに戦っていた。

 楽しい、という感情は正解じゃないかもしれないが、どこか言いようのない悦楽に心が染められていたのは間違いない。

 鋼鐵竜を追い込んでいるように思えた。鋼鐵竜の当たれば死ぬような一撃を紙一重で回避しながらカテラは砲弾を撃ち続けていた。

 そして、ついに鋼鐵竜のつがいの片割れが地に伏した。

 やった。やってやった。

 それだけがカテラの心を支配する。

 さて、次の奴と、黒鉄を向けたとき、声が聞こえた。


「なぜこんなことをする?我々が何をした?」


 意味が分からなかった。鋼鐵竜が人の言葉を話したのだ。

 カテラの動きが一瞬止まる。そのあとには、カテラの立つ場所に鋼鐵竜の尻尾を用いた死の一撃が振り下ろされていた。

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