第8話 魔獣討伐

 旧灰の村の麓に辿り着いたときには雨が降り始めていた。陽光機は既に暗くなり始めており、あたりは夕闇に包まれている。

 今回の依頼はドーブウルフと呼ばれるオオカミ型の魔獣の討伐だ。ドーブウルフは繁殖力の高い魔獣だ。知恵はそこまでないがとにかく増える。間引くならこの季節、冬季が一番適しているだろう。今回の討伐で主となるのはセリだけだ。カテラとフレアは遠くから見ているだけ。

 セリは剣を腰に下げ、ゆっくりと森の中を進む。幸い雨でこちらの臭いは消えている。ドーブウルフに気づかれることなく接近するにはもってこいだ。

 カテラは三メートルくらい後ろからフレアとともにセリの後をついて行っている。

 いつでも助けられるように黒鉄は掃射状態に切り替えてある。フレアはいつでもバックアップに入れるように駆動剣を抜いていた。


 はたと、周りの空気が変わる、僅かに香る腐臭。ドーブウルフの巣に入ったのだ。

 セリはニライの武器使用モジュールを起動させて臨戦態勢に入っている。

 鞘から抜いた小剣は色鮮やかに、周りの木々の色をその刀身に映していた。


「来る」


 セリがそう呟いて走り出す、目の前の草溜まりが揺れて、欠伸をしながらドーブウルフが一体姿を現した。瞬間セリは何の躊躇もなく斬りかかり、ドーブウルフの首を一刀のもと切り伏せた。ドーブウルフは気づくことなく、その命を終えた。


「油断するな。まだいるぞ」


 カテラの言葉を背にセリは草溜まりを突き進んでいく。ふと開けた場所にでた。そこには何十ものドーブウルフが寝そべったり、獲物を咥えたりしていた。


「知能は低いし、奴らは脆い。一気に片付けろ」

「了解!」


 セリは踊るように明地に躍り出た。そしてまるで舞踊でも舞うように、ドーブウルフたちを切り刻み始めた。ドーブウルフはいきなりの襲撃者に驚きわめき、もはや統率も何もない。ただの狩られるものと化していた。

 セリは血に濡れ赤く染まっている。剣戟の雨は止まず、生きているものをすべて刈り取る勢いだ、最終的に逃げようとした魔獣の頭に剣を投擲しそれが見ごとに命中し、今回の討伐戦は終わりを告げた。


 セリが魔獣の頭から剣を引き抜くとき、フレアの表情が曇った。

 カテラも同様に、黒鉄を引き戻し、引き金に指を掛けた。


「どうしたんですか?」

「上位種がいるボスキャラってやつだ。今のセリには討伐できないだろうから、私達がやる。下がってろ」


 固まるセリの肩を掴み後ろに引きずるように寄せるとその前にカテラが立った。

 フレアは真正面の茂みを眺めている。するとどうだ、茂みの奥から、一本角の魔獣が現れた。これの名は「グラムウルフ」繁殖力は低いが、知能が高く狡猾で残虐だ。

 セリには任せられない。


「行くよフレア」

「いつでもどうぞ」


 二人の間には緊張の文字はない、いつもの通り処理するだけだ。

 グラムウルフが飛び掛かってきた。フレアは冷静に回転斬りを放つ。魔獣の前足を切り落とし、グラムウルフが叫び声を上げた瞬間、カテラの黒鉄の一撃でグラムウルフの顔は消し飛んでいた。


 一瞬の決着だった。セリは驚いていた。これが魔獣処理屋の真の姿なのだ。

 いつかセリもこのくらい戦えるようになりたいと思った。


 雨はいつの間にかやんでいた。道はぬかるんでおり、とても歩きづらい。陽光機はいつの間にか完全に消え去り、静寂の暗闇があたりを支配している。


「どうだった?セリ、初戦闘は」

「何とかなりましたね、よかったです」

「でもこれはセリの力じゃない、ニライのサポートがあってこそだという事忘れるなよ」

「はい…」


「でもま、とりあえず戦えることが分かって良かったじゃないですか!カテラさんもそんなに鬼教官にならなくてもいいのでは?」

「フレアのバカ、少しの油断が命取りになる世界なんだぞ?」

「でも、ここまで戦えるなら正直何とでもなると思いますがね」


 三人は旧灰の村へと向かって歩き出していた。

 そして自宅に辿り着くと、セリは力が抜けたようにへたり込んでしまった。


「あらら。腰が抜けちゃったみたいだね」

「すみません、死の強烈なイメージが浮かんだものですから」

「初陣なんてそんなもんよ、生きて帰れただけでも儲けもんなんだからね」

「はい…」


 とりあえず疲れ切ったセリをベッドに座らせ、フレアは工房に籠っていった。

 セリは少し震えている。カテラりあえずセリの隣に座り、背中をさすっていた。


「今日は疲れたろう。もう休みな」

「はい…ありがとうございます」


 セリはそれだけ答えてベッドにすぐに横になった。するとすぐに寝息を立てて寝てしまっていた。

 カテラはそれを眺めながら、自分たちの修行時代の想い出を思い出していた。

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