第6話 旧遺跡群ギシ領域③
明々と照らされる通路の奥から赤い鎧を着た四人の人物が姿を現した。
フレアがカテラとセリの前に出る。
彼らは装備から察するに中央管理室の騎士団の連中だろう。
中央管理室傘下の組織。通称「騎士団」。本部直属の守護組織だ。一人一人が守護騎士と呼ばれ、人間の中でも遥かに強い力を有している。
赤い鎧の一人が持っている長槍の刃先をこちらに向け口を開いた。
「なぜここにいる。ここは秘匿領域のはずだが?」
明らかに威嚇している。少しでも下手な動きをすれば串刺しの出来上がりだろう。
ここからは言葉を選ばなければいけない。隙を探して黒鉄を使ってもいいが、それは悪手だろう。
「フラグメントに導かれてきたんだ、他意はない」
「ほう。そのフラグメント、何処で手に入れた?」
「昨日の明朝、下層の港で」
「で、その後ろの人間は誰だ?貴様の新しい仲間か?『白兎』」
「なんだ、私の事知ってたのか。そう、新しい見習いの子」
「見習いを秘匿領域に連れ込んだのか?正気か貴様」
「何事も経験って言うでしょ。ここには何もなかった。もういい?」
「…まあいいだろう。ところで」
カテラたちはすでに通路に出掛かっていた。
「ここにいた人殻はどうした?」
ヒュッという音とともに槍先がカテラの首筋に当てられかけたその瞬間、フレアの駆動剣が刃先を弾き返した。カテラもすでに黒鉄を構えている。セリは間合いの内側だ。守れる範囲にいる。
「カテラさんに触るな」
一瞬で空気が沈み込む。フレアはすでに臨戦態勢に移っていた。カテラは黒鉄こそ構えていたが、ここまで大事になるとは考えていなかった。ましてや、フレアが勝手に動くなどという事は想定外だ。
「ほう、我々騎士団に反逆するのか」
「関係ない、カテラさんの邪魔をするなら私が斬る」
「ハハハ。いい度胸だ。その度胸に免じて今回だけは許してやる。俺の名前を聞いていけ。騎士団所属第二騎士団長、神速のカルムだ、覚えておくがいい」
どうやらカルムという男の赦しが出て今だけは逃れられたようだ。
カテラたちはそそくさと通路を入り口の方面へ向かって進んで行った。
通路の途中、赤い鎧たちから十分に離れてからフレアに問いかける。
「なんであんなことしたのさ」
「勘です。それにカルムはどうあってもこちらを見逃すつもりだったようですよ」
「どうしてそこまで言い切れる」
「彼はセリの正体を知っていましたから」
「はあ?」
「彼、いえ彼らは中央管理室として、こちらに指令を出してくるでしょうね。セリを中央管理室の本部に連れてくるようにと」
「なんでそんなこと、まさか…」
「めんどくさいからでしょうね。一々、人殻にタダで人権を付与するなど、本部の身としても出来なかったんでしょう」
「…」
やられた。面倒ごとをタダで引き受けていたのだ。奴らもそれがカテラの意志からくるものならば下手に手は打たない。流れに身を任せることで、中央管理室はカテラに面倒ごとを押し付けたのだ。苦笑して溜息を吐く。
「まあいいさ、どっちにしろセリは上に連れていくと約束したんだし、ソレを反故にする気はない」
「とりあえず、中央ギルドに戻ろう。そこでセリの諸々の手続きを行う」
「了解です。カテラさんの切り替えの速さ、好きですよ」
フレアは神妙な顔つきから笑顔にもどった。
置いてけぼりのセリの手を取り、カテラたちは遺跡入り口のポータルから、移動キャンプへと帰還した。
移動キャンプに帰還した後、真っ先にリシュの元に向かった。セリの装備を仕立てるためだ。
リシュは相変わらず暇そうにしていた。
「おかえり、二人ともって、その子は誰だ?」
怪訝な顔になるリシュにカテラは一欠けらも隠さず話した。
リシュは一瞬だけ驚いたがすぐに「まあそんなこともあるだろう」と納得した。
「それで、武器の件だが……今回は力になれん」
「なんでよ?」
「さすがに人殻の対天使兵装は扱ってない。そんなもん持ってたら家が建つわ」
「…うーむ困ったわね。あんたならと思ったんだけど」
「あの、何も人殻のすべての武器が対天使兵装ではありませんよ?」
セリがおずおずと答えた。
「でもなぜか僕には基本的な武器使用モジュールがインストールされてなくて…」
「ってことは、戦う力がないってことですか?!」
「そのまさかです、フレアさん」
これにはカテラも絶句物である。まさか戦えない人殻が存在したとは思わなかった。
この世界では人殻=人外のカオスの権化であるため、このような事態は想定外だ。
申し訳なさそうに下を向くセリの肩に手を置いた。
「大丈夫、どうにかなるって。要は外付けモジュールでもあればいいんでしょ?」
「でも、外付けは高いですし、当たり外れがあると聞きますよ?カテラさん」
フレアの言葉は当たっている。外付けは粗悪品が混じっている。しかもセリのような特務型人殻に見合うものなどそうそうないだろう。
だが腐ってもカテラは白兎と呼ばれる魔獣処理屋だ。コネを総動員してこの事態の対処に当たろうと考えていた。
そのためにも今回は一度中央ギルドに戻らなくてはいけない。
「悪いなカテラ。その代わり、これをやるよ」
帰り際、リシュに投げて寄こされたのは、小さなリング状の小型記憶域体だった。
「中身は入ってないが一応特級遺物だ。持ってて損はないはずだぜ」
「ありがとうリシュ。感謝してる」
そうして三人は軌道列車に乗り込み、中央区のギルドへと向かって行った。
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