第2話 はじまりの依頼②
ポータルから一歩外に出ると、赤い鎧の言った通りにこの場所は塔外にあるようだ。旧時代の遺跡とはどうやら結晶塔を指していたようで、塔以外の場所は、赤い海に覆われている。
刻限まであと二時間弱。結晶塔の大きさは小規模だったからこれなら何とか探索も出来るだろう。
ちなみにカテラとフレアは前衛と後衛がキチンと別れている。フレアが前衛の剣使いでカテラは後衛の大砲使いである。
フレアは鼻が利き、場にいる敵対生物を感知することが出来る特技を持っている。これには修行時代から大変お世話になってきた。
早速二人は結晶塔に潜航していった。内部は普通の結晶塔とさほど変わりはない。蒼いラインが壁を走り、壁には旧人類の肉体が小型結晶球体となって保管されている。
先を進むフレアの反応を見るに、今のところ敵のての字もいないようだ。防衛用騎兵もいないのは珍しいことだが、それにしてもこの結晶塔はどこも異常がない、ただの遺跡に思える。
そのまま奥に進みドアを一つ一つ開けて確かめていく。中は何もないか、旧時代のデータが少し残っている程度だった。それも既出の物が多く、わざわざ刻限を気にしながら塔外まで出向いて調べるほどではないと思う
「しかし、何も出ないですね。本当に重要機密遺跡だったんでしょうか?」
フレアが首を傾げる。これにはカテラも同感だ。
「分からない。最後まで気は抜かないで行こう。何が出るかはまだ分からないから」
「でも、これなら塔内のギシ領域の方がまだいいほうですよ」
「分かってるってフレア。でも中央管理室が当たりをつけたんだ何かしらの秘密はあるとみてもいいだろう」
あの強欲で有名な中央管理室がただの遺跡を調査せよなどというわけがない。
きっとこの遺跡にはとんでもないものが眠っている、そんな気もしないでもなかった。
その時、フレアの顔が曇る。いち早くその異変に気付き、カテラは黒鉄の引鉄に指をかけた。フレアも駆動剣に手を伸ばしている。
「フレア、敵か?」
「分かりません。でも騎兵じゃないですね。どう感じてもこの歩調は人間だ」
この場に自分たち以外の人間がいるというのか?いいや、あり得ない。ここは塔外でしかも今朝がた発見されたばかりの中央管轄の重要機密遺跡だ。遺跡荒しなどという賊がいるはずがない。
刻限はあと一時間弱に差し迫っていた。
「この角を曲がった先ですね…この感じだと相手は臨戦態勢ですね。仕掛けますか?」
フレアが駆動剣を掲げる。駆動剣の歯車はすでに温まっているようだ。
「分かった。やろう。私が先に出て光玉を使って目を潰す。あとは突っ込んでくれ」
「了解です」
カテラはポーチから潰すと強力な光を生む球体、光玉を取り出し右手に掴んだ。
そのまま壁の際までこっそりと移動する。
目の端でフレアに合図して通路を飛び出した。そして光玉を相手に投げようと相手を視認したとき、ようやく相手の正体に気が付いた。
奴は限りなく人間に近い姿をしている。だが決定的に違うものがある。それは、背に生えた薄い翅だ。
「人殻だ!!」
カテラが叫ぶ。光玉を地面に捨て、黒鉄を掌に引き戻す。
「人殻」
それは旧時代の対天使兵器と呼ばれる人の殻を被った悪魔。人間が相手をするには強力すぎるカオスの権化であった。
フレアが角から姿を現す。駆動剣を構えているが決して突撃などという無謀な真似はしない。カテラも今、黒鉄に装填されている弾丸や砲弾で、この人殻を破壊せしめることは出来るだろうかと不安になっていた。
しかし人殻はカテラの姿を視認しても動かない。こちらを敵とも認識していないようだった。
「カテラさん。まずいですね、完全に動けなくなりましたよ」
「こいつの等級はいくつだ?対天使兵装は装備していないようだけども…」
「見ろ、人殻の先に扉が見える。こいつはアレを守ってるに違いない」
後ろにいかにもな雰囲気の厳重に隔離された扉が見えた。この人殻はどうやらこの扉の守護を任されているらしい。
「どうしますか?」
「間合いを詰められる前に片づけたい。スコーピオンを使って頭部を一撃で破壊するしか手はないだろう。フレア、ロックオンまでの時間稼ぎできるか?」
二人の思考は鋭敏な方へとシフトしていた、緊張が走る。
スコーピオンは黒鉄に装填されている対重装甲用の弾丸で、黒鉄の特殊機能の一つの自動照準機能に唯一適応した弾丸でもある。
相手はあの人殻だ。手動の照準では当たらない可能性がある。だから、これを使いたい。しかしロックオンすれば人殻は動き出しこちらを排除しにかかるだろう。
「三十秒ってところですかね。やってみましょう」
「すまない、助かる。じゃ、行くぞ!」
カテラは黒鉄のコンソールを操作しスコーピオンを選択した。
フレアは駆動剣を逆手にもち低く構えた。突撃体制に入っている。
「三、二、一!」
掛け声に突き動かされるようにフレアが人殻に向けて突撃した。カテラはそれに合わせて、照準を合わせに掛かっている。
脳内のアラートを受けたのか、人殻が動き出した。
動きは限りなく人間に近いが、どこか機械じみている。人間には出来ない動作を繰り出そうとしている。
まるで寸勁のような動作でノーモーションでフレアに殴りかかった。フレアは逆手持ちしている駆動剣をくゆらせ、それをいとも簡単に受け流すと、左方向から胴体に向けて斬撃を放った。その速さたるや、普通の人間では見切れない速度だったろう。
だが人殻は左手で駆動剣の刃先を掴んで止めて見せた。数秒の間があく。
「あちゃーこれを止めるのか…」
フレアは冷静に駆動剣の歯車を回し、刃を熱波状態に変化させた。人殻は駆動剣を真横に弾き、右腕をフレアのがら空きの胸に突き立てようとした。一瞬にも満たない攻防。フレアは数ミリ単位で横にずれ、ギリギリで突きを回避した。
瞬間、弾かれた駆動剣を元に戻し、連撃を繰り出す。が、すべての攻撃をはじき返されていた。
人殻が足を動かし蹴りを食らわそうとした瞬間、人殻の頭が吹き飛んだ。
カテラの黒鉄の砲口から白い煙が流れている。人殻は音もなくへたり込むように地面にしゃがみこんで動きを止めた。
フレアの目的は時間稼ぎだ。もとより本気など出してはいなかったが、それでも出さざるを得ないほどの強さをこの人殻は持っていた。事実カテラが居なければ負けていただろう。
「ふぃー、間に合ってよかったよ」
「あードキドキしました…最初の一撃を止められた時は負けるかと思いましたよ」
フレアはケラケラと笑って見せた。カテラは薬きょうを排出して黒鉄を引き戻した。
今回は運がよかったといってもいい。相手が対天使兵装を装備していなかったのも大きい。
「さぁて、お待ちかねの宝物タイムだ」
「なにが眠っているんでしょうね、あそこには」
「普通の結晶塔に人殻を配置するわけがない。特級のアイテムじゃないかな」
二人は厳重隔離された扉に近づき、ゆっくりと押し開けた。扉は白い煙を上げながら、静かに開いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます